(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月18日05時25分
千葉県小湊漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船行丸 |
漁船喜代丸 |
総トン数 |
1.36トン |
0.6トン |
登録長 |
6.08メートル |
6.06メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
漁船法馬力数 |
30 |
30 |
3 事実の経過
行丸は、刺し網漁に従事するFRP製漁船で、法定灯火の設備がなく、A受審人(昭和51年6月四級小型船舶操縦士免状取得)ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.05メートル船尾0.15メートルの喫水をもって、平成14年10月18日05時22分千葉県小湊漁港祓(はらい)地区の魚市場前の岸壁を発し、鯛ノ浦沖合の漁場に向かった。
ところで、小湊漁港は、祓地区と寄浦地区に区分され、前者は内浦湾の東海岸にあって港口を西に開いており、魚市場が設けられた岸壁が中央部を西方へ突き出し、先端部から基本水準面上高さ3.0メートルで、小湊港東防波堤灯台(以下、小湊港を冠する灯台及び防波堤の名称については、小湊港の冠称を省略する。)の設置された東防波堤が、西方に長さ約70メートル延び、更に、同高さ4.5メートルの中防波堤が同方向に長さ約20メートル延長され、その西方沖合には、くの字型に屈曲した消波ブロック製の沖防波堤が、長さ約90メートルにわたり南北方向に設置されていた。
このため、中防波堤内外を航行する船舶にとって、同防波堤越しの見通しが互いに妨げられる状況であり、また、出入口である中防波堤西端と沖防波堤とに挟まれた水域は、可航幅70メートルの狭い水道となっていた。
A受審人は、周囲が薄明るくなっていたものの、船尾中央部で海面上の高さ約2メートルに黄色回転灯を、同所で同高さ約1.5メートルと、右舷船首部で同高さ約1メートルとに作業灯をそれぞれ掲げ、同乗者を左舷後部で休ませ、自らは右舷後部に立ち、左手で船外機の操作に当たり、左回頭したのち、他の船舶との衝突を避けるための適切かつ有効な動作をとれるよう、安全な速力とすることなく、12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で北防波堤に接近した。
05時24分半A受審人は、北防波堤灯台から189度(真方位、以下同じ。)10メートルの地点に達し、防波堤に挟まれた狭い水道を出航することとなったが、中防波堤の陰から入航してくる他船はいないものと思い、狭い水道の右側端に寄って航行せず、中防波堤西端と沖防波堤南端を約10メートル離してかわす227度に針路を定め、機関を全速力前進より少し遅い12.0ノットの速力のまま、手動操舵により進行した。
05時25分少し前行丸は、左舷船首7度100メートルのところに、中防波堤の陰から喜代丸が現れた直後、05時25分東防波堤灯台から276度40メートルの地点において、原針路原速力のまま、その船首部が、喜代丸の右舷船首部に、前方から31度の角度で衝突し、乗り上げた。
当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、日出は05時47分であった。
また、喜代丸は、刺し網漁に従事するFRP製漁船で、法定灯火の設備がなく、B受審人(昭和51年6月四級小型船舶操縦士免状取得)が1人で乗り組み、船首0.1メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日04時30分小湊漁港祓地区の船揚場を発し、同漁港沖合の漁場で操業を終え、漁具と漁獲物など約200キログラムを積み、水揚げのため、帰途についた。
05時21分半B受審人は、祓防波堤灯台から236度200メートルの地点において、針路を東防波堤灯台に向く045度に定め、機関を微速力前進にかけて5.0ノットの速力とし、周囲が薄明るくなっていたので、右舷船尾部で海面上の高さ約2メートルにある黄色回転灯と、左舷船尾部で同高さ約1.5メートルにある作業灯を消し、右舷後部に立ち、左手で船外機を操作して進行した。
B受審人は、05時23分半祓防波堤灯台に並航したとき、3.0ノットの安全な速力に減速し、同時24分半わずか過ぎ東防波堤灯台から225度75メートルの地点に達したとき、中防波堤西端を約10メートル離してかわす016度に針路を転じ、狭い水道の右側端に寄って航行した。
05時25分少し前喜代丸は、右舷船首24度100メートルのところに、中防波堤の陰から行丸が現れた直後、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、行丸は、左舷船首部外板に破口などを、喜代丸は、左舷船首部舷縁に損傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理され、B受審人が右鎖骨骨折などを負った。
(航法の適用)
本件は、小湊漁港を出航する行丸と、同港に入航する喜代丸とが中防波堤の先端付近で衝突したもので、適用される航法について検討する。
小湊漁港は、港則法の適用港ではなく、海上交通安全法も適用されないので、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)により律することとなる。
事実の経過で示したとおり、中防波堤の高さが高かったため、両船が互いに相手船を視認することができるようになったのは、衝突の13秒前で100メートルに接近したときであり、両船間に適用される定型航法はない。
行丸は、魚市場前の岸壁を発した直後、12.0ノットの速力で北防波堤を航過したのち衝突地点に接近し、両船に衝突を回避するための時間的余裕をなくしたもので、他の船舶との衝突を避けるための適切かつ有効な動作をとれるよう、安全な速力としなかったことは、予防法第6条の規定に反している。
また、行丸は、定針したとき、中防波堤西端を約10メートル離してかわす針路で進行しており、事実の経過で示したとおり、中防波堤西端と沖防波堤とに挟まれた水域は、狭い水道に該当し、その右側端に寄ることは安全であり、かつ、実行に適するから、狭い水道の右側端に寄って航行しなかったことは、予防法第9条の規定に反している。
一方、喜代丸は、定針したのち、祓防波堤灯台に並んで3.0ノットの安全な速力に減速し、中防波堤西端を約10メートル離してかわす針路で北上していたもので、狭い水道の右側端に寄って航行しており、予防法第6及び9条の規定に合致している。
また、本件発生は、日出22分前の薄明時であり、A、B両受審人の供述などを総合すると、周囲は薄明るくなっており、喜代丸が黄色回転灯と作業灯とを消していても、行丸が中防波堤の陰から現れた喜代丸の船影を認めることができるものと認定できるので、両灯火の消灯状態は、原因と判断しない。
更に、両船が互いに相手船を視認できるようになってから衝突のおそれの有無を判断し、衝突を避けるための措置をとるのに十分な時間的余裕があるとはいえず、両船の見張り模様と衝突を避けるための措置は、原因とならない。
したがって、本件は、行丸が、安全な速力としなかったことと、狭い水道の右側端に寄って航行しなかったこととを原因に摘示して律する。
(原因)
本件衝突は、日出前の薄明時、千葉県小湊漁港において、出航する行丸が、安全な速力としなかったばかりか、狭い水道の右側端に寄って航行しなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、日出前の薄明時、千葉県小湊漁港を出航する場合、同漁港出入口が防波堤に挟まれた狭い水道となっていたのであるから、同水道の右側端に寄って航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、中防波堤の陰から入航してくる他船はいないものと思い、狭い水道の右側端に寄って航行しなかった職務上の過失により、同水道の右側端に寄って入航する喜代丸との衝突を招き、行丸の左舷船首部外板に破口などを、喜代丸の左舷船首部舷縁に損傷をそれぞれ生じさせ、B受審人に右鎖骨骨折などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。