(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年2月17日12時35分
千葉県勝浦港東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第三十一京丸 |
漁船浜野丸 |
総トン数 |
173トン |
6.4トン |
全長 |
40.00メートル |
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登録長 |
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11.99メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
514キロワット |
422キロワット |
3 事実の経過
第三十一京丸(以下「京丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製油送船で、A受審人、B指定海難関係人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.00メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、平成15年2月17日08時00分銚子港を発し、京浜港川崎区に向かった。
ところで、京丸の船橋当直は、発航から12時までをA受審人、12時から16時までをB指定海難関係人がそれぞれ単独で担当することになっていた。
発航時から操船に当たっていたA受審人は、千葉県東岸沖合を南下し、12時10分同県勝浦港北東方沖合に差し掛かったとき、昇橋したB指定海難関係人に船橋当直を行わせることとしたが、同人が航海当直部員の認定を受けており、船橋当直に慣れているから大丈夫と思い、衝突のおそれの有無が判断できるよう、近づく船舶のコンパス方位の変化を確かめるなど、具体的な動静監視方法を命じたうえ、他船接近時の報告についての指示を十分に行うことなく、漁船に注意するようになどと告げ、間もなく、降橋して食堂で昼食をとったのち、自室で休息した。
一方、B指定海難関係人は、12時11分勝浦灯台から073度(真方位、以下同じ。)7.1海里の地点において、針路を235度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
12時29分B指定海難関係人は、勝浦灯台から086度4.5海里の地点に達したとき、左舷船首87.5度1,280メートルのところに前路を右方に横切る態勢の浜野丸を初めて視認し、その後同船と接近することを知ったが、浜野丸の速力が何となく速く感じて、自船の前方を航過するのではないかと考え、A受審人に浜野丸の接近を報告せずに見守った。
こうして、京丸は、A受審人がB指定海難関係人から浜野丸が接近している報告が得られないことから昇橋して動静監視を十分に行うことができず、その後、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付くことができなかったので、警告信号を行うことも、同船が間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま続航中、12時35分勝浦灯台から094度3.6海里の地点において、京丸は、原針路原速力で、その左舷後部に浜野丸の右舷船首部が、後方から35度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北北西風が吹き、視界良好であった。
A受審人は、衝撃で衝突を知り、急ぎ昇橋して事後の処理に当たった。
また、浜野丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人(昭和49年11月一級小型船舶操縦士免状取得)が1人で乗り組み、息子2人を同乗させ、きんめだい漁の目的で、船首0.30メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同日03時30分千葉県勝浦東部漁港を発し、05時30分同港東方20海里付近の漁場に到着し、20キログラムを漁獲したのち、11時13分勝浦灯台から091度23.7海里の地点を発進して帰途についた。
発進時、C受審人は、針路を270度に定め、機関を全速力前進にかけ、15.0ノットの速力で自動操舵により進行した。
12時29分C受審人は、勝浦灯台から093度4.9海里の地点に達したとき、右舷船首57.5度1,280メートルのところに、前路を左方に横切る態勢の京丸を初めて視認し、前方を航過させることとして、機関を半速力前進の12.0ノットの速力に減じたが、減速したので同船が無難に航過するものと思い、京丸と確実に航過することができるかどうか、動静監視を十分に行うことなく、無線電話機の調子が悪いので、間もなく、操舵室左舷前部にある同機の状態を調べ始めた。
こうして、C受審人は、その後、京丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けることなく続航中、浜野丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、京丸は左舷後部外板に凹損を、浜野丸は船首部に破損を生じたが、のちいずれも修理された。
(航法の適用等)
本件は、千葉県勝浦港東方沖合において、南下中の京丸と西行中の浜野丸が衝突したものであるが、浜野丸が京丸を初めて視認した直後に速力を15.0ノットから12.0ノットに減速しているので、まず、航法の適用を検討する。
本件は、京丸が針路235度及び速力10.0ノット、また、浜野丸が針路270度及び速力15.0ノットで航行していたもので、浜野丸が同じ速力のまま進行すれば、同船は12時33分47秒(衝突の1分13秒前)に京丸の船首方350メートルを航過する状況であった。
この350メートルは、両船の大きさ等からして、両船が無難に替わる態勢と認められるので、浜野丸が減速して衝突した点をとらえ、同船が新たな衝突のおそれを生じさせた、いわゆる海上衝突予防法(以下「予防法」という。)第38条、同法第39条の船員の常務をもって律することになるが、同常務を適用するには、この減速から衝突まで、定型航法が適用できない条件を満足しなければならない。
ところが、両船は、衝突するまでの6分間に、同一の針路速力で進行し、かつ、事実認定のとおり、明らかに横切り関係の衝突三角形をもって衝突したもので、両船の大きさ等からして、この6分間に衝突のおそれの有無を判断して、衝突を回避でき、また、時間的にも可能であった。
したがって、本件は、予防法第15条の横切り関係の定型航法が成立する以上、船員の常務を適用する余地はなく、同条の横切り船の航法を適用して律するのが相当である。
次に、B指定海難関係人は、航海当直部員の認定を受けていたが、当廷において「浜野丸を初めて視認したとき、左舷正横より少し後方に認め、その後同船の速力が何となく速く感じ、本船より先に行くように思えたが、衝突少し前に浜野丸が左転したように見え、そののちに衝突した。」旨を供述しており、他の船舶の接近状況は判断できるが、衝突のおそれの有無が判断できる、具体的な動静監視方法などがよく分かっていないものと認められる。
したがって、本件は、同種海難を防止するうえで、A受審人がB指定海難関係人に対し、衝突のおそれの有無が判断できるよう、近づく船舶のコンパス方位の変化を確かめるなど、具体的な動静監視方法を命じたうえ、他船接近時の報告についての指示を十分に行うべきであり、また、B指定海難関係人が他船の接近をA受審人に報告すべきであるとして判示するのが相当である。
(原因)
本件衝突は、千葉県勝浦港東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、西行中の浜野丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る京丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下中の京丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
京丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の船橋当直者に対し、他船接近時の報告についての指示を十分に行わなかったことと、同当直者が他船の接近を船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
C受審人は、千葉県勝浦港東方沖合を西行中、前路を左方に横切る態勢の京丸を初めて視認し、前方を航過させることとして、減速した場合、同船と確実に航過することができるかどうか、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、減速したので同船が無難に航過するものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かずに進行して、同船との衝突を招き、京丸の左舷後部外板に凹損を、浜野丸の船首部に破損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、千葉県勝浦港東方沖合を南下中、無資格の乗組員に単独の船橋当直を行わせる場合、衝突のおそれの有無が判断できるよう、近づく船舶のコンパス方位の変化を確かめるなど、具体的な動静監視方法を命じたうえ、他船接近時の報告についての指示を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、B指定海難関係人が航海当直部員の認定を受けており、船橋当直に慣れているから大丈夫と思い、具体的な動静監視方法を命じたうえ、他船接近時の報告についての指示を十分に行わなかった職務上の過失により、同人から浜野丸が接近している報告が得られず、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付くことができなかったので、警告信号を行うことも、浜野丸が間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることもできないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、前路を右方に横切る浜野丸の接近を認めた際、A受審人に報告したかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。