(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年3月9日00時10分
福島県小名浜港漁港区
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八欣榮丸 |
漁船第二十一大林丸 |
総トン数 |
138トン |
66トン |
全長 |
31.00メートル |
31.45メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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698キロワット |
漁船法馬力数 |
420 |
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3 事実の経過
第八欣榮丸(以下「欣榮丸」という。)は、流網漁業に従事する鋼製漁船で、船長ほか8人が乗り組み、かつお等76本を漁獲し、船首1.2メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成15年3月7日06時00分小名浜港漁港区に入港し、魚市場岸壁で漁獲物の水揚げを行ったのち、西桟橋に移動し、船首を036度に向けて入船左舷で係留し、同港沖合が時化ていたので天候の回復を待っていたところ、翌々9日00時10分小名浜港東内防波堤灯台(以下「東内防波堤灯台」という。)から328度(真方位、以下同じ。)465メートルの地点において、接近した第二十一大林丸(以下「大林丸」という。)が306度を向首し、その船首が欣榮丸の右舷側後部に直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、福島県浜通り地方には波浪警報が発令されていた。
また、大林丸は、可変ピッチプロペラを装備し、沖合底びき網漁業に従事する船首船橋型鋼製漁船で、A受審人ほか6人が乗り組み、出港配置を船橋に自ら単独で、船首部に甲板長及び機関員の2人を、船尾部に機関長、甲板員及び司厨長の3人をそれぞれ配し、操業の目的で、船首1.0メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、同日00時00分東内防波堤灯台から316度345メートルの、福島県小名浜港漁港区北内防波堤北側桟橋を発した。
A受審人は、小名浜港漁港区へ3月6日に入港して魚市場で水揚げしたのち、同港沖合が時化ていたので天候が回復するまで停泊していたもので、同港での出航操船をそれまでに4回行い、魚市場岸壁で水揚げ終了後に出航していて右舷着岸の際には直行で港口に向かい、左舷着岸の際には右回頭をして出航し、今回の出港が数日の停泊後となって北内防波堤北側桟橋から左回頭して出航操船を行うものであった。
離岸後、A受審人は、機関を回転数毎分380とし翼角を徐々に上げながら5度の半速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、手動操舵で左舵一杯とし左回頭しながら進行した。
00時05分半A受審人は、東内防波堤灯台から337度365メートルの地点に達したとき、船首がほぼ180度回頭して港口に向かう態勢になり、その後港口北側の西桟橋南西端に向首したが、魚市場岸壁に停泊中のまき網船への接近模様に気を奪われ、船首方向の注意が疎かになってこのことに気付かず、翼角を下げ行きあしを落とすか停止して安全な出航態勢を執るなど港口に向かう適切な港内操船を行うことなく、同一速力のまま続航した。
00時06分少し過ぎA受審人は、ふと船首方向を見たところ西桟橋に向かって航行していることに気付き、あわてて翼角を10度の全速力後進にかけたものの、間に合わず、減速した状況で、同時07分東内防波堤灯台から325度455メートルの、同桟橋南西端角に接触した。
こうして、A受審人は、西桟橋に接触したことで気が動転し、同一翼角の全速力後進のままで同桟橋を離れたが、後進行きあしが強かったので、右舷船尾が右舷後方の魚市場岸壁に係留しているまき網船に接近し始めたことに気付き、00時08分急いで機関を半速力前進の翼角5度に切り替え、港口に向くよう舵を取ったつもりだったが、依然機関を使用して行きあしを止めることなどに思い及ばず、操舵角を確認しなかったので、実際には右舵一杯を取っていたことに気付かずに進行した。
そして、00時09分ごろA受審人は、前進行きあしになり右回頭をし出したことで右舵を取っていることに気付き、西桟橋に入船左舷で係留している欣榮丸に向首接近し始めたので、左舵一杯を執り、機関を全速力後進の翼角にしたが、及ばず、大林丸は、速力が2.0ノットに減速したとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、欣榮丸は、右舷後部の防舷材の脱落を、ブルワーク手摺り及び甲板上キャリヤ架台等に凹損をそれぞれ生じたが、のち修理され、大林丸は、船首部及びバルバスバウに凹損を生じた。
(原因)
本件衝突は、夜間、福島県小名浜港漁港区において、北内防波堤北側桟橋に右舷係留中の大林丸が、離岸後左回頭して出航する際、港内操船が不適切で、行きあしを落とすか停止して安全な出航態勢を執らず、種々の方途を行ったのち、西桟橋中央に左舷係留中の欣榮丸に向首して進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、福島県小名浜港漁港区において、北内防波堤北側桟橋に右舷係留中、離岸後に左回頭して出航する場合、可変ピッチプロペラを装備していたのであるから、これを有効に使用し、行きあしを落とすか停止して安全な出航態勢をとるなど港内操船を適切に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、魚市場岸壁に停泊中のまき網船への接近模様に気を奪われ、港内操船を適切に行わなかった職務上の過失により、種々の方途を行ったものの、西桟橋に係留中の欣榮丸に向首進行して衝突を招き、大林丸の船首部及びバルバスバウに凹損を、欣榮丸の右舷後部の防舷材の脱落を、ブルワーク手摺り及び甲板上キャリヤ架台等に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。