(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年11月13日12時59分
京浜港川崎区
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第十八日勝丸 |
貨物船興洋丸 |
総トン数 |
749トン |
499トン |
全長 |
76.34メートル |
69.23メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
1,471キロワット |
3 事実の経過
第十八日勝丸(以下「日勝丸」という。)は、東京湾内において、主に航空燃料の輸送に従事する船尾船橋型鋼製油送船で、A受審人ほか4人が乗り組み、ケロシン約2,000キロリットルを積載し、船首4.0メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成14年11月13日12時28分京浜港川崎区にあるC社の岸壁を離岸し、同港横浜区のD社横浜油槽所に向かった。
A受審人は、一等航海士を船橋右舷側の機関操縦盤に就かせ、次席一等航海士を船橋左舷側に配置して見張りに当たらせ、自らは手動操舵に当たって操船の指揮を執り、川崎航路を経て港内を西行し、12時50分川崎東扇島防波堤西灯台(以下「西灯台」という。)から091度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点に達したとき、針路を235度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行したが、港内を航行するにあたって、自船が港則法で定める小型船及び雑種船以外の船舶であることを示す国際信号旗数字旗1を表示していなかった。
A受審人は、12時53分ころ右舷前方約1海里のところに、扇島の南東沖合を南下する興洋丸を初認し、その後自船の前路を左方に横切る態勢の興洋丸の動静を監視していたところ、同時55分半少し過ぎ西灯台から140度1,650メートルの地点で同船を右舷船首45度1,400メートルに見るようになり、その後その方位があまり変わらず、衝突のおそれが生じたことを知った。
12時57分半A受審人は、興洋丸が右舷船首47度650メートルとなったが、避航動作をとるのは、少し減速して相手船の様子を見てからでも遅くはないものと思い、速やかに右転措置を採るなどして同船の進路を避けることなく、一等航海士に機関を半速力前進に減じるよう命じて同船を注視しながら続航し、同時58分半相手船が約240メートルの至近に迫って初めて衝突の危険を感じ、機関を微速力前進に指令すると同時に右舵一杯を取った。
A受審人は、右転措置を採ってまもなく、船首が右回頭を始めたとき、興洋丸が左転しているのを認め、慌てて舵を左舵一杯に取り直し、続いて機関の全速力後進を指令したが及ばず、12時59分西灯台から178度1,900メートルの地点において、日勝丸は、約5ノットの速力で船首が290度に向いたとき、その左舷船首部に興洋丸の左舷船首部が前方から5度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
また、興洋丸は、本邦各港間において砂利等の運搬に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、B受審人ほか4人が乗り組み、建設発生土1,462トンを積載し、船首3.88メートル船尾4.92メートルの喫水をもって、同日12時40分京浜港川崎区の東扇島ふ頭を離岸し、広島県広島港に向かった。
B受審人は、単独で操舵操船にあたり、東扇島と東扇島防波堤の間の水路を西行して西灯台を左方に付け回し、12時51分半ころ南下を始めたとき、左舷前方約1.3海里に港内を西行する日勝丸を初認し、引き続いて動静を監視したが、同船が所定の信号旗を表示していなかったので、船体の外観からだけでは港則法の定める小型船及び雑種船以外の船舶かどうか判別することは困難であった。
12時55分半少し過ぎB受審人は、西灯台から196度1,040メートルの地点に達したとき、針路を160度に定め、機関を半速力前進にかけ、9.5ノットの速力で手動操舵により進行した。
定針したときB受審人は、自船の前路を右方に横切る態勢の日勝丸を左舷船首60度1,400メートルに見るようになり、その後その方位があまり変わらず、衝突のおそれが生じたことを知った。
B受審人は、日勝丸の監視を続け、相手船が避航動作をとる気配が見られなかったのでVHFによる呼び出しを試みたところ、数回繰り返しても応答がなかったので呼び出しを打ち切り、その後警告信号を行うことなく、針路、速力を保持して続航した。
12時57分半B受審人は、日勝丸が左舷船首58度650メートルとなり、依然同船に避航動作が見られなかったが、そのうち相手船が避けてくれるものと思い、右転するなどして最善の協力動作をとることなく進行し、同時58分半同船が約240メートルの至近に迫って初めて衝突の危険を感じ、同船の船尾を替わそうとして左舵一杯を取った。
B受審人は、左転措置を採ってまもなく、船首が左回頭を始めたとき、日勝丸が右転しているのを認め、慌てて舵を右舵一杯に取り直し、続いて機関を後進に操作したが及ばず、興洋丸の船首が105度に向いたとき、ほぼ原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、日勝丸は左舷船首ブルワーク及び外板の凹損とボート甲板の曲損を、興洋丸は左舷船首ブルワーク及び外板の凹損と左舷錨のクラウン脱落等をそれぞれ生じ、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、京浜港川崎区において、両船が互いに進路を横切り、衝突のおそれがある態勢で接近中、日勝丸が、前路を左方に横切る興洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、興洋丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、京浜港川崎区を西行中、衝突のおそれがある態勢で前路を左方に横切る興洋丸を認めた場合、速やかに右転措置を採るなどして同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに同人は、少し減速して相手船の様子を見てからでも遅くはないものと思い、速やかに右転措置を採るなどして同船の進路を避けなかった職務上の過失により、全速力前進から半速力前進、微速力前進と緩慢に減速して進行し、至近に迫ってから右転して興洋丸との衝突を招き、日勝丸に左舷船首ブルワーク及び外板の凹損とボート甲板の曲損を、興洋丸に左舷船首ブルワーク及び外板の凹損と左舷錨のクラウン脱落等をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、京浜港川崎区を南下中、左舷前方の日勝丸が、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢のまま、自船の進路を避けずに間近に接近するのを認めた場合、右転するなどして衝突を避けるための最善の協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに同人は、そのうち相手船が避けてくれるものと思い、右転するなどして衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかった職務上の過失により、相手船を注視したまま進行し、至近に迫ってから左転して日勝丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。