(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年1月9日07時45分
愛媛県北条港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十八大栄丸 |
総トン数 |
199トン |
全長 |
56.55メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
625キロワット |
3 事実の経過
第十八大栄丸(以下「大栄丸」という。)は、本邦各港間の鋼材輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、鋼材700トンを積載し、船首2.7メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成15年1月8日21時00分関門港小倉区を発し、瀬戸内海経由で京浜港横浜区に向かった。
ところで、A受審人は、船橋当直を、06時から12時までと18時から24時までを同人、00時から06時までと12時から18時までを一等航海士が行う単独2直制としており、前の航海において、同月3日福岡県博多港に入港して3日間待機したのち、7日鋼材の一部揚荷役を済ませて出港し、同日夕刻関門港小倉区に入港して半日待機し、翌8日午前残りの載貨を揚げ、午後から7時間余りかけて積荷役を行って出港したもので、疲労はしていなかった。
A受審人は、同月9日00時当直を交代すると降橋して自室で休息し、05時30分ころ沖家室島南方約1海里沖合に至ったとき昇橋して当直に就いた。
06時47分半A受審人は、釣島水道西口付近の、釣島灯台から340度(真方位、以下同じ。)1,900メートルの地点に至ったとき、針路を同水道の推薦航路線に沿う055度に定め、機関を9.5ノットの速力となる全速力前進にかけ、折から同水道を南西方に流れる平均1.5ノットの潮流に抗して8.2ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
A受審人は、暖房の効いた船橋で、レーダーの前に取り付けられた椅子に腰掛けて操船にあたるうち、約1海里前方の同航船のほかに反航船や普段よく見かける操業中の漁船などを認めず、海上にあまり波もなかったせいもあって、定針してまもなく気が緩み、眠気を催すようになったが、疲労は感じていなかったから眠ることはないと思い、椅子から立ち上がって室内を歩き回るとかウイングに出て外気にあたるなどの居眠り運航を防止する措置をとらなかった。
A受審人は、いつしか居眠りに陥り、船体が潮流の影響を受け、徐々に予定針路線から右方に3度圧流され、07時25分安芸灘南航路第1号灯浮標にほぼ並航する北条港灯台から245度2.9海里の転針予定地点付近に達したが、このことを知らずに続航中、07時45分同灯台から307度700メートルの地点において、大栄丸はその右舷船首が、原針路、原速力のまま、愛媛県北条港の鹿島神洗防波堤に衝突した。
当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
A受審人は、衝突の衝撃で目覚めて事後の措置にあたり、自力で航行して愛媛県松山港に入港した。
衝突の結果、大栄丸は船首ファッションプレートの圧壊と球状船首に亀裂を伴う凹損を生じ、防波堤にはケーソンの移動及び側壁の損傷等が生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件防波堤衝突は、釣島水道を北上中、居眠り運航の防止措置が不十分で、潮流に圧流され、北条港の鹿島神洗防波堤に著しく接近する進路のまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、釣島水道において、単独で船橋当直に就いて同水道を北上中に眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、椅子から立ち上って室内を歩き回るとかウイングに出て外気にあたるなどの居眠り運航を防止する措置をとるべき注意義務があった。しかるに同人は、疲労は感じていなかったから眠ることはないと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、暖房の効いた船橋で座ったまま操船を続けて居眠りに陥り、潮流に圧流され、北条港の鹿島神洗防波堤に著しく接近する進路で進行して衝突を招き、大栄丸の船首ファッションプレートの圧壊と球状船首に亀裂を伴う凹損を生じさせ、防波堤にはケーソンの移動及び側壁の損傷等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって、主文のとおり裁決する。