(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年2月22日12時30分
北海道白老港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第七ふじ丸 |
漁船第38峰栄丸 |
総トン数 |
698トン |
4.9トン |
全長 |
74.80メートル |
15.38メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
279キロワット |
3 事実の経過
第七ふじ丸(以下「ふじ丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、主として砂利輸送に従事していた。
指定海難関係人D社は、昭和45年に設立され、従業員約50人を雇用しており、主として船舶修繕業を営み、平成9年6月に修繕費用回収のためふじ丸を買い取って船舶所有者となったもので、乗組員をそのまま雇入れ、E代表取締役と総務部長が船員の配乗等を担当し、運航管理を以前の運航会社に任せていた。
ふじ丸の船舶所有者となったときE代表取締役は、同船の機関長であるC指定海難関係人が、平成7年に前船舶所有者に雇入れられて以来、航海の海技免許を取得していないものの、当時の船長が操船不得手なこともあって出入港時の操船や荷役及び運航会社との業務連絡等を任せられ、ほぼ1人で運航を担っていたことを知り、引き続き同指定海難関係人に操船や荷役のほか、乗組員の休暇及び船用金の管理等を行わせ、同11年11月にA受審人を船長として雇入れてからも、同指定海難関係人が実質的な船長の職務を執っていることを黙認していた。
E代表取締役は、平成14年2月中旬A受審人とC指定海難関係人から連絡を受け、同月18日朝急病になった一等航海士(以下「一航士」という。)を千葉県館山港で下船させたが、有資格の一航士を乗り組ませずに欠員補充のため機関員1人を同県木更津港で乗船させた。
ところで、次席一航士であるB受審人の受有海技免状は、旧就業範囲に限定されていたので、ふじ丸の一航士の職務を執る条件を満たしていなかったが、A受審人も、E代表取締役もこのことを確認していなかった。
E代表取締役は、平成14年1月と2月上旬にA受審人から休暇の申請を受け、交代者を乗船させるつもりで許可したものの、心当たりの者から断られ同受審人の下船予定日の2月20日までに交代者を手配することが不可能となったが、同受審人にこれを伝えていなかった。
一方、A受審人は、20日朝宮城県仙台塩釜港に入港して積荷役を行い、E代表取締役の許可を既に得ていたことから、交代者が乗船してくるものと思って12時ごろ下船した。
そして、E代表取締役は、少しの間船長が乗船していなくてもC指定海難関係人に任せておけば大丈夫と思い、交代の船長を乗り組ませなかった。
C指定海難関係人は、交代の船長が乗り組んでいなかったが、何度も就航しているから大丈夫と思い、自ら操船に当たって発航することにした。
こうして、ふじ丸は、同日12時35分船長及び一航士が乗り組まずにC指定海難関係人の操船指揮により仙台塩釜港を発航し、岩手県宮古港及び同県久慈港を経て、22日06時30分北海道白老港に入港した。ふじ丸は、依然として船長及び一航士が乗り組まないまま、B受審人及びC指定海難関係人ほか3人が乗り組み、砂1,930トンを積載し、船首4.40メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、雪模様の下、11時47分白老港を発し、木更津港に向かった。
C指定海難関係人は、出港時の操船に引き続き単独で船橋当直に就き、12時04分少し過ぎアヨロ鼻灯台から074度(真方位、以下同じ。)6.2海里の地点に達したとき、針路を168度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.7ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵により進行した。
B受審人は、12時23分半アヨロ鼻灯台から104度6.8海里の地点において、食事交替のためC指定海難関係人から船橋当直を引き継いだとき、3海里レンジのレーダー画面で右舷船首38度2.5海里に第38峰栄丸(以下「峰栄丸」という。)の映像を初めて認めたが、その海域ではボンデンが多かったことから、レーダー映像はボンデンのものと思い込み、その後、レーダーによる峰栄丸の動静監視を十分に行わず、後方を向いてチャートテーブル上で航海日誌の整理を始めた。このころB受審人は、雪が強くなり視界が制限され視程が0.5海里に狭められていたことを知ったが、船長が乗り組んでいなかったため操船の指揮を受けることができず、航行中の動力船の灯火を表示しないで、視界制限状態における音響信号(以下「霧中信号」という。)を行わず、また、安全な速力に減じないまま自動操舵により続航した。
12時25分半B受審人は、アヨロ鼻灯台から107度7.0海里の地点に達したとき、峰栄丸が、右舷船首38度1.7海里となり、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然レーダーによる動静監視を十分に行わなかったのでこれに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを停止することもなく進行した。
12時30分少し前B受審人は、航海日誌の整理を終えて前方を見たとき右舷方至近に迫る峰栄丸を認め、急ぎ機関を停止し手動操舵に切り替えて左舵をとったが及ばず、12時30分アヨロ鼻灯台から112度7.4海里の地点において、ふじ丸は、船首が150度を向いたとき、ほぼ原速力のまま、その右舷船首部に峰栄丸の船首が前方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は雪で風力2の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視程は約600メートルであった。
また、峰栄丸は、FRP製小型遊漁兼用船で、船長F(一級小型船舶操縦士免許取得、平成14年11月死亡)ほか甲板員1人が乗り組み、釣客5人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.56メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、同月22日05時30分北海道苫小牧港を発し、同港南西方約28海里沖合で遊漁を行ったのち、11時50分アヨロ鼻灯台南方約10海里の釣り場を発し、右舷方に散在していた釣船を替わしながら帰途に就いた。
12時20分F船長は、アヨロ鼻灯台から133度6.6海里の地点に達したとき、針路を050度に定め、機関を全速力前進にかけ、16.0ノットの速力で、自動操舵により進行した。
12時23分ごろF船長は、雪のため視界が制限され視程が0.5海里となったが、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもなく原速力のまま続航した。
12時25分半F船長は、アヨロ鼻灯台から121度6.9海里の地点に達したとき、左舷船首24度1.7海里にふじ丸の映像を探知でき、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、右舷方に替わった釣船のほか、前路に他船はいないものと思い、レーダーによる見張りを行わず、後方を向き物入れの中を見始めたので、このことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを停止することもなく進行した。
12時30分少し前F船長は、波切り音を聞いて左舷方の目前に迫るふじ丸を認め、急ぎ機関を後進にかけたが効なく、峰栄丸は、原針路ほぼ原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ふじ丸は右舷船首部に擦過傷を生じ、峰栄丸は船首部を圧壊したが、僚船により苫小牧港に引き付けられてのち修理され、F船長が頭部打撲及び右股関節捻挫等を負った。
本件後、D社は、海運業を廃業した。
(原因に対する考察)
本件は、雪のため視界が制限された北海道白老港南方沖合において、南進するふじ丸と北東進する峰栄丸とが衝突したものであるが、ふじ丸に船長及び一航士が乗り組んでいなかったことと本件発生の原因との関連について考察する。
船長は、視界制限時、自ら操船の指揮を執って船舶の安全を確保することとなっており、当時ふじ丸においても船長が乗り組んでいれば視界制限時における適切な操船を行うことができ、本件の発生を防止することが可能であったと認められるので、船長が乗り組んでいなかったことは本件発生の原因となる。
また、一航士が乗り組んでいれば、船長の指揮の下、見張りに当たらせレーダーを系統的に観察することができたが、次席一航士でもレーダーの操作及び観察を行うことが十分可能であると考えられるので、有資格の一航士を乗船させなかったことは、船舶職員法に違反するものの、本件発生の原因をなしたものとは認められない。
(原因)
本件衝突は、雪のため視界が制限された北海道白老港南方沖合において、南進するふじ丸が、船長が乗り組んでいなかったばかりか、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもなく、レーダーによる動静監視が不十分で、峰栄丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったことと、北東進する峰栄丸が、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもなく、レーダーによる見張りが不十分で、ふじ丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。
ふじ丸の船舶所有者が、船長を休暇のため下船させた際、交代の船長を乗り組ませずに運航したことは、本件発生の原因となる。
(受審人等の所為)
B受審人は、雪のため視界が制限された白老港南方沖合を南進中、レーダーにより右舷前方に峰栄丸の映像を探知した場合、著しく接近することを避けることができない状況になるかどうかを判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダー映像はボンデンのものと思い込み、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、峰栄丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを停止することもなく進行して同船との衝突を招き、ふじ丸の右舷船首部に擦過傷を、峰栄丸の船首部に圧壊をそれぞれ生じさせ、F船長に頭部打撲及び右股関節捻挫等を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
C指定海難関係人が、休暇のため船長が下船した際、船長が乗り組まないままふじ丸を発航させたことは、本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、勧告しない。
D社が、ふじ丸船長を休暇のため下船させた際、交代の船長を乗り組ませずに運航したことは、本件発生の原因となる。
D社に対しては、本件後、海運業を廃業した点に徴し、勧告しない。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。