(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月8日10時47分
愛知県伊良湖港
2 船舶の要目
船種船名 |
警備艇第2あらいそ |
プレジャーボート大田川ジャパン |
総トン数 |
4.9トン |
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全長 |
12.60メートル |
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登録長 |
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6.89メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
264キロワット |
77キロワット |
3 事実の経過
第2あらいそ(以下「あらいそ」という。)は、船体前部に操舵室を有するFRP製安全パトロール艇で、平成10年12月に交付された四級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人が1人で乗り組み、伊良湖水道航路で操業する漁船への安全指導を行う目的で、船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成14年10月8日08時25分三重県鳥羽港の定係地を発して同航路に向かった。
ところで、A受審人は、43年間勤務した海上保安庁を定年退職し、平成6年4月から財団法人Cが自主的に土、日及び祭日を除き通年実施している伊良湖水道航路で操業する漁船への安全指導に8年間ばかり従事しており、当日、同人は、魚市場が休日であったものの、三重県神島辺りの地元一本釣り漁船が、潮の止まったころ同航路に一斉に出漁することから、それらの漁船に対して安全指導を実施することとした。
09時20分A受審人は、伊良湖岬灯台南西方約1,000メートルにある朝日礁の北東付近で漂泊して伊良湖水道航路の監視を始め、その後同航路南側に設置されている伊勢湾第2号灯浮標を大きく迂回して同航路西側の神島北東方約1,000メートル付近に移動したが、同航路で操業する漁船がいないので伊良湖岬灯台北東方約1,000メートル付近にある伊良湖港で、巨大船の同航路通航時刻まで待機している巡視船から情報を得るため、同港に向かうこととした。
10時41分少し前A受審人は、伊良湖岬灯台から217度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点で、針路を018度に定めて手動操舵とし、機関を半速力前進にかけ、折からの潮流により8度ばかり右方に圧流されながら、9.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、操舵室左舷側にある舵輪後方の椅子に腰を掛け、見張りに当って進行した。
定針したとき、A受審人は、朝日礁付近に1ないし2隻の釣り船を認めたが、折からの南東方向に流れる潮流でそのうち流されると判断し、その後朝日礁付近を気に掛けず、伊良湖水道航路を通航する小型船に注意しながら続航した。
10時45分半わずか前A受審人は、伊良湖水道航路を間もなく横断し終えようとする伊良湖岬灯台から225度1,680メートルの地点に達したとき、北方約7海里の師崎水道を南下する大型船を左舷船首方に認め、この時刻に通航する巨大船の予定がなかったので不審に思い、大型船を確認するため、椅子の左側に立ち、右手を舵輪に添えて左手に双眼鏡を持ち、船が動揺するなか、同船に双眼鏡の焦点を合わせることに気を奪われ、船首方の見張りを十分に行わなかったので、正船首500メートルのところに大田川ジャパン(以下「大田川」という。)が存在し、その後、同船が潮流により南東方に圧流されながら漂泊している船と明白に認めることができ、衝突のおそれのある態勢で接近していたが、このことに気付かず、大田川を避けないまま進行中、10時47分伊良湖岬灯台から234度1,200メートルの地点において、あらいそは、原針路、原速力のまま、その船首が大田川の右舷船尾部に直角に衝突した。
当時、天候は曇で風力3の西北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、衝突地点付近には約1.5ノットの南東方に向かう潮流があった。
また、大田川は、船内外機を装備し、7キロワットの予備の船外機を有するFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人3人を同乗させ、さわら釣りの目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同8日04時55分愛知県東海市の定係地を発し、伊良湖水道の釣り場に向かった。
ところで、B受審人は、昭和57年9月四級小型船舶操縦士免許を取得すると直ぐにプレジャーボートを購入し、その後、何隻かプレジャーボートを買い換え、大田川が6ないし7隻目であった。
06時30分B受審人は、三重県神島漁港西方沖合に至って餌のあじを釣ったのち、伊良湖水道航路を横断し、07時40分前示衝突地点付近に達し、同乗者を中央左舷側に1人及び船尾両舷に各1人をそれぞれ位置させ、自らは中央右舷側で椅子に腰を掛け、漂泊してさわら釣りを始め、その後折からの潮流により南東方に圧流されては、潮上りを繰り返しながら、機関を中立運転として漂泊を続けた。
10時45分半わずか前B受審人は、伊良湖岬灯台から238度1,230メートルの地点で、南東方に向けて1.5ノットの潮流に圧流されながら船首が108度に向いていたとき、右舷正横500メートルのところに、自船に向け接近するあらいそを初めて視認し、同時46分少し過ぎ右舷正横250メートルに接近したのを認めたが、釣果を聞きに来たものと思い、その後動静監視を十分に行わなかったので、同船と衝突のおそれがあることに気付かないまま、注意喚起信号を行わず、間近に接近したものの、直ちにクラッチを入れるなど衝突を避けるための措置をとらないで漂泊中、同時47分わずか前至近に迫ったあらいそを認めたものの、どうすることもできず、大田川は、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、あらいそは、船首部外板に擦過傷を生じ、大田川は、右舷船尾部外板に亀裂を伴う損傷を生じて転覆したが、のち神島漁港に引きつけられた。また、B受審人が左前腕などに挫傷を負い、同乗者1人が左大腿骨などを骨折した。
(航法の適用)
本件は、伊良湖港内において、漂泊中の大田川に北上するあらいそが衝突した事件であり、以下、適用される航法について検討する。
衝突地点は、港則法に定める港の港域内で、同法の適用される海域である。しかしながら、同法には本件に適用する航法規定がないので、一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)によって律することとなる。
北上するあらいそは、船首方の見張りを十分に行っておれば、大田川が折からの南東流に圧流されながら漂泊中であることが分かる状況にあり、漂泊船と航行中の動力船との関係であったので、予防法第38条及び第39条の船員の常務で律するのが相当である。
(主張に対する判断)
1 大田川側補佐人は、「B受審人はあらいそを初認したとき、あらいそが約5.0ノットの速力で、しかも大田川の船尾を替わるような見合い関係で航行していたことから、衝突のおそれがないと判断して釣りを行っていたところ、突如約15.0ノット以上に増速したうえ、針路も大田川の船尾方向に変えて航行してきたため、避難するのが精一杯で注意喚起信号や衝突回避措置をとることができなかった。従って、本件衝突はあらいその一方的過失によって発生したものである。」旨を主張するので、これについて検討する。
A受審人の当廷における、「あらいその舵の座りが良く、比較的重くて舵がふらつくことがないので、自動車のハンドルを持つのと同じように気休め程度に手を触れる状態で操舵していた。大型船に気付いてから、衝突するまで機関の回転数調整レバー及び前後進レバーに触った記憶がなく、大田川の存在に気付かず、原針路、原速力のまま衝突した。」旨の供述及びE証人の当廷のおける、「大田川の左舷船尾で釣りをしているとB受審人が『何かを聞きに来たぞ』と言ったので、あらいそを初めて見ると、本船に向首して接近するような感じであった。その後、生け簀に餌を取りに行ってあじをたもですくったりしているとき、B受審人が『船が至近に迫って来た。』と言った。」旨の供述をしており、また、あらいそが、衝突前に増速及び変針したことについては、B受審人の供述のみで、同船が増速及び変針しなければならない特別な事情があったとする証拠がない。
従って、あらいそが衝突前に増速及び変針したとは認めることができず、このことから、大田川側補佐人の「あらいその一方的な過失で発生したものである。」との主張は認められない。