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平成15年第二審第9号
件名

油送船南宝丸漁船海進丸衝突事件[原審門司]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年1月22日

審判庁区分
高等海難審判庁(山崎重勝、東 晴二、平田照彦、山田豊三郎、工藤民雄)

理事官
伊藤 實

受審人
A 職名:南宝丸船長 海技免許:三級海技士(航海)(旧就業範囲)
D 職名:海進丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:南宝丸甲板長 
C 職名:南宝丸甲板手 

第二審請求者
理事官畑中美秀

損害
南宝丸・・・右舷後部外板に擦過傷及び塗料を剥離
海進丸・・・船首錨台及び船首部ブルワークを破損

原因
南宝丸・・・横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
海進丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、南宝丸が、前路を左方に横切る海進丸の進路を避けなかったことによって発生したが、海進丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Dを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年5月14日01時55分
 島根県江津港沖合 

2 船舶の要目
船種船名 油送船南宝丸 漁船海進丸
総トン数 2,065トン 14トン
全長 93.82メートル 23.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,574キロワット 478キロワット

3 事実の経過
(1)航海計器等の設備状況
ア 南宝丸
 南宝丸は、平成5年9月に進水した限定沿海区域を航行区域とする船尾船橋型の油送船で、船首端から船橋楼前端までの距離が72.3メートル、航海船橋甲板の平均喫水線上の高さが約7メートルであった。
 航海船橋甲板は、操舵室の両舷側が暴露甲板で、操舵室には前端中央にジャイロコンパスレピーターが、同前端から約1.5メートル後方の中央に操舵スタンド、同スタンドの左舷側にアルパ付レーダー2台及び右舷側に機関制御用のコンソールがあり、プロッター付GPSが左舷後部の海図台横に備えてあった。
イ 海進丸
 海進丸は、平成9年7月に進水した小型底引き網漁業に従事するFRP製の漁船で、操舵室は船体のほぼ中央部にあり、操舵室甲板の水線上の高さが約2.1メートルであった。
 操舵室には、前面窓の下方に左舷側から右舷側まで棚が設けられ、棚の上には左舷側から順にアルパ付レーダー、プロッター付GPS、ジャイロコンパス、遠隔操舵装置、機関制御レバー及び機関関係の各種メーター表示器が設置され、棚の後面中央やや右舷寄りに舵輪があり、その左舷側に潮流計、魚群探知機が組み込まれていたが、舵輪の後方に設けられた椅子に腰掛けても、棚の上に設置された機器などによって前方の見通しが妨げられる状況ではなかった。
(2)航行海域及び当直体制等
ア 南宝丸
 南宝丸は、ガソリン、軽油などの石油製品を積荷とする油送船で、主として水島港、徳山下松港などの瀬戸内海各港から金沢港への航海を行っていた。
 船橋当直は、甲板長が午前及び午後0時から4時までの、一等航海士が同4時から8時までの、及び船長が同8時から0時までの各時間帯の当直責任者として、各時間帯に甲板手1名を当直補助の相当直者として各直2人による4時間交替3直制で行われており、各当直時間帯の責任者は固定されていたが、相当直の甲板手の当直時間帯は適宜変更されていた
イ 海進丸
 海進丸は、荒天で出漁できない日を除いて市場の休日に合わせ、毎週土曜日と隔週水曜日を休漁日として日帰りの操業を行っており、05時ごろから操業を始められるように漁場までの距離を勘案して発航し、同日夕刻の市場開始時刻に間に合うように帰航していた。
 船橋当直は、漁場までの航行時間が2ないし3時間のときには船長の単独当直で行われ、それ以上の航行時間となるときには甲板員1人をつけて2人で行われていた。
(3)受審人等
ア A受審人
 A受審人は、昭和37年近海で操業するマグロ漁船の乗組員となり、その後外航貨物船などの甲板員を経て、昭和48年4月乙種船長の海技免許を取得し、内航貨物船などの航海士及び船長を経験していた。
 A受審人は、平成4年E社に入社以来船長として乗船し、平成13年5月12日有給休暇を終えて南宝丸に乗船した。
イ B指定海難関係人
 B指定海難関係人は、昭和39年遠洋底引き網漁船の乗組員となり、その後外航貨物船などの甲板員を経験したのち、平成10年E社に入社し、航海当直部員の認定を受け、同社の船舶に甲板長または甲板手として乗船し、甲板長で乗船したときには当直責任者として、甲板手で乗船したときには相当直者として船橋当直に従事していた。
 B指定海難関係人は、平成13年2月27日有給休暇を終えて南宝丸に甲板長で乗船し、午前及び午後0時から4時までの責任者として船橋当直に従事していた。
ウ C指定海難関係人
 C指定海難関係人は、遠洋底引き網漁船の乗組員を経験したのち、平成2年E社に入社し、航海当直部員の認定を受け、同社の船舶に甲板手または甲板長として乗船し、甲板手で乗船したときには相当直者として、甲板長で乗船したときには当直責任者として船橋当直に従事していた。
 C指定海難関係人は、平成13年5月12日有給休暇を終えて南宝丸に甲板手で乗船し、午前及び午後0時から4時までの時間帯の相当直者として船橋当直に従事していた。
エ D受審人
 D受審人は、昭和58年小型底引き網漁船の甲板員として乗船し、同年4月4日一級小型船舶操縦士の免許を取得し、平成13年1月から海進丸の船長として乗船していた。
(4)本件発生に至る経緯
 南宝丸は、A受審人、B指定海難関係人及びC指定海難関係人ほか7人が乗り組み、ガソリン及び軽油などの石油製品4,090キロリットルを積み、船首5.00メートル船尾6.30メートルの喫水をもって、平成13年5月12日19時40分和歌山下津港を発し、瀬戸内海を経由して金沢港に向かった。
 A受審人は、発航当日乗船したとき、B指定海難関係人が甲板長であることを知り、同指定海難関係人とは通算3年ばかり一緒に乗船し、当直業務の遂行状況などについても特に疑問を持っていなかったので、同指定海難関係人を、従前どおり、午前及び午後0時から4時までの責任者とし、同責任者の経験があるC指定海難関係人を相当直者として船橋当直を行わせることとした。
 こうして、A受審人は、翌13日00時から04時までをB及びC両指定海難関係人に当直させたが、同時間帯に備讃瀬戸東航路及び同北航路を航行することから、自ら操船指揮に当たり、同日12時から16時までのB指定海難関係人の当直時間には、同指定海難関係人に甲板作業を行わせ、自らとC指定海難関係人の二人で船橋当直に当たり、15時35分部埼灯台沖を通過し、操船指揮をとって関門海峡を通航した。
 A受審人は、関門海峡の通航を終えたのち降橋して休息をとり、20時ごろ角島北方沖合で昇橋して船橋当直に就いた。
 A受審人は、23時50分高島灯台から306度(真方位、以下同じ。)10.7海里の地点において針路を053度に定め、12.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行し、船橋当直のため昇橋したB指定海難関係人に針路、速力などを引き継ぎ、見張りを十分に行うよう指示したものの、接近する他船を避航するときなどには当直責任者として的確に操船指揮をとるよう指示することなく、翌14日0時にB指定海難関係人と同当直を交替して降橋した。
 B指定海難関係人は、C指定海難関係人とともに船橋当直に就き、気象観測、船位の確認及び主要地点の通過時刻の確認などの当直業務を適宜交替で行い、自らが機関制御用コンソールの前方に置いた椅子に、C指定海難関係人がレーダーの前方に置いた椅子に座って見張りに当たった。
 B指定海難関係人は、当直責任者であることを自覚していたが、他船と接近するときの避航操船などでC指定海難関係人が舵輪に就いたときには、同指定海難関係人が当直責任者の経験があったので、遠慮の気持ちから自ら操舵号令を出すなど操船指揮をとることなく、同指定海難関係人に任せたまま当直を続けた。
 14日01時40分B指定海難関係人は、江津灯台から311度12.9海里の地点に達したとき、右舷船首32度5.5海里のところに海進丸の白灯1個と作業灯を認め、その右方に白灯1個と作業灯を表示した多数の漁船を認めた。
 01時50分B指定海難関係人は、江津灯台から320度12.8海里の地点に至り、右舷船首32度1.9海里のところに海進丸の紅灯を認めるようになり、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め、同船の進路を自船が避けなければならないと思ったが、C指定海難関係人が舵輪に就いたので、同指定海難関係人が自発的に転舵してくれるものと思い、同船の進路を避けるための操船指揮をとらないで、窓際に立ってその動静監視を続けた。
 C指定海難関係人は、海進丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることを知って舵輪に就き、手動操舵に切り替えたのち、同船の接近模様を見ながら操舵に当たった。
 01時54分B指定海難関係人は、海進丸の方位に変化がないまま、670メートルに接近したとき衝突の危険を感じたものの、そのうちC指定海難関係人が転舵して同船の進路を避けるものと思い、探照灯を点滅しただけで操舵号令を発することも、機関を使用するなどして同船の進路を避けることもしないで続航中、同時55分少し前同船が間近に迫ったとき汽笛による長音1回を吹鳴した。
 C指定海難関係人は、B指定海難関係人が汽笛を吹鳴したのと同時ぐらいに衝突の危険を感じたので、自らの判断で左舵一杯としたが、効なく、01時55分江津灯台から325度12.8海里の地点において、南宝丸は、358度を向き原速力のまま、その右舷後部に、海進丸の船首が後方から60度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で、風力3の南南西風が吹き、視界は良好であった。
 また、海進丸は、D審人ほか甲板員5人が乗り組み、操業の目的で、船首0.75メートル船尾2.50メートルの喫水をもって、同月14日00時48分温泉津港を発し、同港西北西方50海里の漁場に向かった。
 D受審人は、発航操船に引き続いて、自らは操舵位置の椅子に座り、甲板員1人を操舵室左舷後方の長椅子に座らせて船橋当直に当たり、00時54分温泉津港灯台から300度1,400メートルの地点において針路を298度に定めて自動操舵とし、13.0ノットの速力で進行した。
 01時22分D受審人は、江津灯台から352度7.2海里の地点で、左舷船首33度12海里に南宝丸のレーダー映像を認め、アルパ機能によって同船の針路、速力を確認したところ、北東方に13ノットばかりであったことから互いに進路を横切る態勢であることを知った。その後同受審人は、同船が6海里ばかりに接近し、その白、白、緑3灯を目視できるようになったとき、最接近距離を表示させるなど、アルパ機能を有効に活用しないで、操舵室の窓枠との関係で方位の変化を監視したところ、わずかに右方に変化しているように見えたので自船の前路を航過すると思って続航した。
 01時50分D受審人は、江津灯台から328度11.8海里の地点に達したとき、南宝丸が衝突のおそれがある態勢で左舷船首33度1.9海里に接近したが、右舷方1海里ばかりを航行している漁船群の監視を行い、南宝丸の動静監視を十分に行わなかったので、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近しても行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとることもしないで進行した。
 01時55分わずか前D受審人は、南宝丸との接近模様を確認してから漁船群を避けようと思い、南宝丸の方に視線を移したところ、同船が至近に接近していることを知り、機関のクラッチを後進一杯としたのと同時に原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、南宝丸は右舷後部外板に擦過傷と塗料の剥離を生じ、海進丸は船首錨台及び船首部ブルワークを破損したが、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、島根県江津港沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、南宝丸が、前路を左方に横切る海進丸の進路を避けなかったことによって発生したが、海進丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 南宝丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直責任者に対して操船指揮についての指示を十分に行わなかったことと、同責任者が操船指揮をとらなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、甲板長を船橋当直責任者及び甲板手を相当直者として船橋当直を行わせ、金沢港に向けて山口県角島沖合を航行中、甲板長のB指定海難関係人と同当直を交替する場合、当直責任者として的確な操船指揮をとるよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、B指定海難関係人に対し、当直責任者として的確に操船指揮をとるよう指示しなかった職務上の過失により、当直責任者が操船指揮をとらないで海進丸との衝突を招き、南宝丸の外板に擦過傷を、海進丸の左舷船首錨台及び船首部ブルワークに損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 D受審人は、夜間、島根県江津港沖合を漁場に向けて航行中、前路を右方に横切る態勢の南宝丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、窓枠との関係で方位がわずかに右方に変化しているように見えたことから、南宝丸が自船の前路を無難に航過するものと思い、右舷側を航行している漁船群の監視を行い、南宝丸の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、間近に接近しても行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとることもしないで、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、自らが当直責任者として相当直の甲板手と船橋当直に従事中、海進丸と衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め、相当直の甲板手が舵輪に就いたのを知った際、相当直者が当直責任者の経験があったことから、同人に対する遠慮の気持から操船指揮をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対して勧告しないが、相当直者と船橋当直に当たる際には、同当直者に遠慮せず、当直責任者として操船指揮をとらなければならない。
 C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。
 
(参考)原審裁決主文 平成15年2月28日門審言渡
 本件衝突は、南宝丸が、前路を左方に横切る海進丸の進路を避けなかったことによって発生したが、海進丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Dを戒告する。


参考図
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