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平成14年第二審第59号
件名

巡視艇ゆらかぜプレジャーボートタカ衝突事件[原審神戸]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年1月20日

審判庁区分
高等海難審判庁(東 晴二、上野延之、雲林院信行、山本哲也、工藤民雄)

理事官
保田 稔

受審人
A 職名:ゆらかぜ船長 海技免許:二級海技士(航海)
B 職名:タカ船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
ゆらかぜ・・・右舷外板に擦過傷
タ カ・・・右舷外板に亀裂を伴う損傷、船長が右額及び右耳の裂傷

原因
タ カ・・・見張り不十分、港則法の航法(避航動作)不遵守(主因)
ゆらかぜ・・・港則法の航法(右側航行)不遵守(一因)

第二審請求者
受審人A

主文

 本件衝突は、両船が航路内で行き会う際、タカが、見張り不十分で、航路の右側を航行せず、ゆらかぜと右舷を対して無難に航過する態勢のとき、同船の前路に向け、衝突の危険を生じさせたことによって発生したが、ゆらかぜが、航路の右側を航行しなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年10月14日18時32分
 京都府舞鶴港

2 船舶の要目
船種船名 巡視艇ゆらかぜ プレジャーボートタカ
総トン数 25トン  
全長 19.60メートル 10.84メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,338キロワット 110キロワット

3 事実の経過
 ゆらかぜは、操舵室が船体中央部船首寄りに配置された鋼製巡視艇で、舞鶴市東神崎沖合でプレジャーボートが機関故障のため漂流している旨の118番電話による連絡があったことから、救助のため、A受審人ほか3人が乗り組み、船首1.1メートル、船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年10月14日18時18分舞鶴港を発し、同沖合に向かって緊急出動した。
 出港時A受審人は、マスト灯、両舷灯及び船尾灯を表示したほか、赤色回転灯を点灯し、操舵室の中央座席に腰掛け、運航指揮及び操船に当たり、右座席の航海士補をレーダー監視と見張りに、左座席の機関長を機関監視と見張りに、右後部座席の機関士補を見張りにそれぞれ当たらせた。
 A受審人は、舞鶴航路(以下「航路」という。)南口に向かい、18時28分舞鶴港戸島灯台(以下「戸島灯台」という。)から203度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点に達したとき、南下する数隻の小型船の灯火とともに、左舷船首2.0海里のところにタカの白灯を初めて認め、これらに注意しながら北上した。
 A受審人は、航路の南口に差し掛かり、18時29分半戸島灯台から204度1,580メートルの地点で、針路を航路北口東側の関西電力火力発電所工事地区の明かりに向首する015度に定め、機関を半速力前進にかけ、14.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 A受審人は、航路のほぼ中央を北上中、18時31分戸島灯台から210度940メートルの地点に達し、タカがほぼ正船首930メートルとなったとき、航海士補の報告により、同船の白灯のほか、両色灯の紅、緑両灯を認めた。
 A受審人は、タカと航路内で行き会う態勢であったが、タカが航路の左側を進行しているので、そのうちに針路を左に転じて舞鶴市和田方面に向かうのではないかと思い、速やかに針路を右に転じて航路の右側を航行することなく、同じ針路のまま続航した。
 A受審人は、やがてタカの両色灯の紅よりも緑が明確に見えるようになり、その方位が少しずつ右に変わり、右舷を対して航過する態勢となったことから、同じ針路を維持しながら進行した。
 18時31分半少し過ぎA受審人は、戸島灯台から217度670メートルの地点に達し、タカが右舷船首6度300メートルとなったとき、タカの緑灯のみを見る状況にあり、右舷を対して約40メートルの距離をもって無難に航過する態勢であったことから、大丈夫と思い、左舷船首方の南下する2隻の反航船に注意するためタカから目を離した。
 A受審人は、同時刻ごろタカが針路を右に転じたことにより衝突の危険が生じたが、このことに気付かないでいるうち、18時32分わずか前航海士補の叫びで、右舷船首至近のところに自船の前路に向いているタカを認め、船尾にかわそうと、機関を全速力前進にかけたが、18時32分戸島灯台から223度530メートルの地点において、ゆらかぜの船尾部右舷に、タカの船首が前方から10度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で、風力2の北東風が吹き、視界は良好、潮候は上げ潮の初期で、日没時刻は17時25分であった。
 また、タカは、船体中央部に船室兼操舵室が設けられたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、釣りの目的で、船首、船尾共に0.5メートルの喫水をもって、同日04時00分定係地点としていた舞鶴市青井のCマリーナを発し、京都府奥丹後半島経ヶ岬北東方の白石礁の釣り場に至って錨泊し、同日17時18分帰途に就いた。
 ところで、B受審人は、平成9年7月四級小型船舶操縦士の免許を取得し、タカを使用して舞鶴港沖合で友人とともに3月から10月にかけて釣りを楽しんでおり、舞鶴港については夜間航行を何度も経験していた。
 Cマリーナの入口水路は、東西方向となっていて、北側に赤色塗装、赤色回転灯付きの標識灯3基が80メートル置きに、南側に緑色塗装、緑色回転灯付きの標識灯3基が同様に80メートル置きにそれぞれ並び、その水路幅は140メートルで、北側の最も東側の標識灯は戸島灯台から233度1,330メートルの位置に設置されていた。
 日没時B受審人は、白色全周灯及び両色灯を表示し、その後友人を船室で休息させ、航路の北口を経て南下した。
 18時29分少し前B受審人は、三本松鼻灯台から265度500メートルの地点で、針路を舞鶴市の街の明かりに向首する191度に定め、機関を半速力前進にかけ、16.2ノットの速力で、操舵に当たって進行した。
 B受審人は、航路の左側を南下中、18時31分戸島灯台から292度250メートルの地点に達したとき、右舷船首方にマリーナ入口水路の標識灯を認めたものの、船首方は街の明かりにまぎれて船舶の灯火を発見し難い状況下、ゆらかぜが右舷船首4度930メートルのところに白灯及び両舷灯を表示したほか、赤色回転灯を見せて航路を北上中で、行き会う態勢の同船を視認できる状況であったが、マリーナ入口水路の標識灯の方向を主に見ていて、船首方の見張りを十分に行っていなかったので、その存在に気付かず、速やかに針路を右に転じて航路の右側を航行することなく、同じ針路のまま続航した。
 18時31分半少し過ぎB受審人は、戸島灯台から230度390メートルの地点に達し、ゆらかぜが右舷船首10度300メートルとなったとき、同船の緑灯のみを見る状況にあり、右舷を対して約40メートルの距離をもって無難に航過する態勢のところ、依然ゆらかぜの存在に気付かないまま、マリーナ入口水路の標識灯を目標に右転して205度とし、ゆらかぜの前路に向け、衝突の危険を生じさせた。
 18時32分わずか前B受審人は、ゆらかぜが右舷船首至近となったとき、更に針路を右に転じて210度とし、そのころゆらかぜの白灯を、次いで船体を認め、左舵一杯としたが、タカは205度に向いて前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ゆらかぜは右舷外板に擦過傷を生じ、タカは右舷外板に亀裂を伴う損傷を生じ、のち修理され、B受審人は、右額及び右耳の裂傷を負った。

(主張に対する判断)
1 タカ側補佐人は、「両船は18時31分以降もほとんど真向かいに行き会う状況であったが、ゆらかぜ側はこれを確認せず、方位の変化があるものと早々に判断(誤認)し、そして、直ちに針路を右に転じなかった。」旨、及び「ゆらかぜ側は、18時31分半少し過ぎタカが右舷 船首4度350メートルとなったとき、わずかに右転して自船に向く状態となったが、これに 気付かなかった。」旨主張するので、これらについて検討する。
(1)18時31分互いに930メートルとなったとき、行き会う態勢であったことは事実認定のとおりである。しかし、18時31分以降時間の経過とともにゆらかぜから見たタカの両色灯は次第に緑の方が強くなり、やがて緑のみとなった。そして18時31分半少し過ぎ互いに300メートルとなったとき、ゆらかぜ側はタカの両色灯を同船の進行方向右方10度から見るようになった。一方タカ側はゆらかぜの舷灯を同船の進行方向右方6度から見るようになった。両船ともに同じ針路を維持していれば、約40メートルの距離をもって右舷を対して航過する状況であった。
 A受審人に対する質問調書中の供述記載、原審審判調書中の同受審人の供述記載及び当廷における同受審人の供述により、ゆらかぜ側はこのことを認識していた。
 したがって、「直ちに針路を右に転じなかった。」旨の主張は事実認定のとおり認められるが、「18時31分以降も両船はほとんど真向かいに行き会う状況であった。」、「ゆらかぜ側がこれを確認しなかった。」及び「方位の変化があるものと早々に判断(誤認)した。」旨の主張は認められない。
(2)タカの実況見分調書写により、タカは18時31分半少し過ぎ互いに300メートルとなったとき、14度右転したと認められる。
 また、A受審人に対する質問調書中の供述記載、原審審判調書中の同受審人の供述記載及び当廷における同受審人の供述により、タカの右転前は緑灯のみが見える状況であり、方位も右に変化していたことから、A受審人は、同船と互いに右舷を対して無難に航過するものと判断し、左舷船首方の反航船を見るためタカから目を離し、そして18時32分わずか前タカが自船に向いていることに気付いたと認められる。これらのことから、ゆらかぜ側は、約15秒の間、タカが右転したことに気付かなかったということになる。
 したがって、「ゆらかぜ側は、18時31分半少し過ぎタカが右舷船首4度350メートルとなったとき、同船がわずかに右転して自船に向く状態となったが、これに気付かなかった。」旨の主張は認められる。
2 更にタカ側補佐人は、「本件において、航路の可航幅、両船の船幅から、港則法第14条3項(航路内で行き会うとき)を適用するのは適当ではなく、海上衝突予防法第14条(行会い船の航法)を適用すべきであ
る。」旨主張するので、このことについて検討する。
(1)A受審人に対する質問調書中の供述記載、同受審人の原審審判調書中の供述記載及び当廷における同受審人の供述、並びに両船の各実況見分調書写により、両船は航路内を航路に沿って航行し、行き会う態勢で接近したこと、ゆらかぜは航路のほぼ中央を航行し、タカは明らかに航路の左側を航行していたと認められること、18時31分両船間が930メートルとなった時点では、ゆらかぜ側はタカの両色灯を同船の進行方向の右方4度から見る状況であり、タカ側はゆらかぜの両舷灯を同船の進行方向ほぼ真向かいから見る状況であったことなど、及び時間的、距離的余裕を考慮すれば、互いに航路の右側を航行する措置をとることが可能であった。
(2)舞鶴港は港則法における特定港であり、港則法に基づく航路が定められている。そして航路の航行については、港則法第14条3項に「船舶は、航路内において、他の船舶と行き会うときは、右側を航行しなければならない。」とある。しかし、船舶の大きさについて規定した条項はない。
(3)港則法は海上衝突予防法(以下「予防法」という。)の特別法であることにより、航法については予防法に優先して適用されるが、本件の場合、両船が行き会う態勢で次第に接近して航路の右側を航行するのが困難となるある時期までは港則法第14条3項を適用することには何ら問題はなく、むしろ同条項を遵守すべきものである。
 したがって、タカ側補佐人の「予防法第14条(行会い船の航法)を適用すべきである。」旨の主張は認められない。

(原因に対する考察)
1 適用航法
 前述のとおり、両船は、航路内で互いに行き会うときであったから、本件の場合港則法第14条3項を適用することに何ら問題はなく、本条項により律することとなる。
2 しかしながら、両船は衝突の約1分前以降のある時期からは互いに舷灯及び両色灯の緑灯のみを見るようになるとともに、方位も右に変わり、かつ距離も狭まる状況となることから、針路を右に転じて航路の右側を航行する措置をとることは、むしろ互いの進路を妨げることとなり、かえって危険である。そして両船ともに同じ針路を維持していれば、無難に右舷を対して約40メートルでかわる状況であった。全長19.60メートルのゆらかぜと全長10.84メートルのタカとが行き会う距離としては十分であったものと認められる。
3 ところが、両船が無難に右舷を対して航過する態勢のところ、タカの突然の右転により両 船間には衝突の危険が生じた。そのような場合について、港則法には航法の規定はなく、また予防法にも定型的航法の規定はない。したがって、予防法の船員の常務により律するのが 相当である。そして、タカの右転は互いに300メートルとなったときであり、衝突の約20秒前と認められ、ゆらかぜ側がタカの右転に気付き、直ちに衝突を避けるための措置をとったとしても、両船の速力を勘案すれば、ゆらかぜ側に衝突の回避を期待することはできない。
4 以上により、ゆらかぜが、タカと行き会う態勢のとき、航路の右側を航行しなかったことについては、原因となるが、タカの転針後のことについては、ゆらかぜに原因はないとするのが相当である。
 タカが、見張り不十分で、ゆらかぜと行き会う態勢のとき、航路の右側を航行しなかったばかりか、互いに接近し、ゆらかぜと右舷を対して無難に航過する態勢のとき、右転して同船の前路に向け、衝突の危険を生じさせたことは、原因となる。

(原因)
 本件衝突は、夜間、舞鶴港において、同港の航路に沿って北上中のゆらかぜと南下中のタカとが航路内で行き会う態勢の際、タカが、見張り不十分で、航路の右側を航行しなかったばかりか、互いに接近し、ゆらかぜと右舷を対して無難に航過する態勢のとき、右転して同船の前路に向け、衝突の危険を生じさせたことによって発生したが、ゆらかぜが、航路の右側を航行しなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、舞鶴港の航路をこれに沿って南下する場合、船首方は街の明かりにまぎれて船舶の灯火を発見し難い状況であったから、行き会う態勢のゆらかぜを見落とさないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、マリーナ入口水路の標識灯の方向を主に見ていて、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ゆらかぜに気付かず、航路の右側を航行しなかったばかりか、互いに接近し、右舷を対して無難に航過する態勢のとき、右転して同船の前路に向け、衝突の危険を生じさせたまま進行して衝突を招き、ゆらかぜの右舷外板に擦過傷を、タカの右舷外板に亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じさせ、自身が右額及び右耳の裂傷を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
 A受審人が、夜間、舞鶴港の航路をこれに沿って北上中、同航路をこれに沿って南下するタカと行き会う態勢のとき、航路の右側を航行しなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、このことは、時間の経過とともに互いに右舷を対して無難に航過する態勢となった点、衝突の危険が生じたのは、互いに接近したときタカが突然右転したことによるものである点に徴し、A受審人の職務上の過失とするまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文 平成14年12月11日神審言渡
 本件衝突は、両船が航路内で行き会う際、タカが、見張り不十分で、航路の右側を航行せず、右舷を対して航過する態勢をのゆらかぜの至近で、定係地に向けて右転したことによって発生したが、ゆらかぜが、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。


参考図(1)

(拡大画面:30KB)

参考図(2)

(拡大画面:11KB)





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