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VIII まとめ
 本調査研究により得られた知見は以下のとおりである。
 
・杉樹皮製油吸着材に吸着させたC重油は、100m3バーク堆肥微生物パイルにおける分解処理により、開始直後の油分濃度(約0.6%)は60日後に約1/2程度に、120日後に約1/5〜1/6に低下していることが判明した。120日後以降には油分濃度に大きな変化は見られなかった。
 
・36m3パイルによる実験(15年度)との比較においては、油分濃度の減少傾向は共通する結果が得られた。また、今回の100m3パイルによる実験の方が油分濃度はより安定に減少する傾向があるほか、各時点における油分濃度測定値のバラつきがより小さいことが確認された。
 
・油分の定性分析により、油分解過程における残留油分のクロマトグラムにおいて、投入したC重油そのもののピーク分布とほぼ一致するものの、いずれもC重油の組成成分炭化水素のピーク強度が減少していることが判明した。
 
・微生物相の変化については、油分解後には特異的にCFB(サイトファーガ・フラボバクテリウム・バクテロイデスグループ)が確認された。CFBは石油分解菌として働くとの報告がある微生物であり、この微生物が油分解に関与している可能性が示された。
 
・環境影響評価において、杉樹皮製油吸着材はポリプロピレンよりも製造工程におけるエネルギー使用量が少ないことが判明した。
 
・ブルー・オ−シャン号事故での実験により、杉樹皮製油吸着材の実海域における油回収性能が評価された。回収物の微生物分解処理については一定の知見が得られたものの、さらなるデータ蓄積による検証が必要である。
 
・ブルー・オ−シャン号事故においては、関係者に“杉の油取り”の性能が認められ、船主によりマット型80c/s、フェンス型3c/s、万国旗型10c/sの計約140万円分が購入された。今後も実際の事故で使用し、その性能を認知してもらい販売を拡大するよう努力するつもりである。
 
 必要な課題がいくつかあげられるものの、微生物分解処理技術は実用化すると、製造、使用、処分時における熱処理が原則として不要な環境負荷の低い油回収・処理システムと成り得る。「杉樹皮」という生分解性材料から成る油吸着材の特徴を活かしたさらなる環境負荷低減技術とするため、今後も研究開発を進め、本技術の実用化を目指す。
 
参考文献
1)「杉樹皮製油吸着材の有効利用及び微生物分解処理技術に関する調査研究報告書」((独)海上災害防止センター)(2004)
 
2)「杉樹皮製油吸着材(杉の油取り)に関する調査研究」(海上災害防止センター)、自己攪拌型油分散剤の効果的な使用方法及び散布装置に関する調査研究報告書III(2003)
 
3)「Development and Water Tank Tests of SBS (Sugi Bark Sorbent)」(Masaki Saito, Suguru Ogura et.al.)、IMO 3rd R&D Forum on High-density Oil Spill Response(2002)
 
4)「杉樹皮製油吸着材の開発と海洋流出油回収への適用(第1報)」(大分県産業科学技術センター 斉藤雅樹 他)、日本造船学会論文集第190号(2001)
 
5)「2003地球環境保護 土壌・地下水浄化技術展パンフレット」((社)土壌環境センター)(2003)
 
6)「新規綿糸の製造原単位」(経済産業省製造産業局繊維課、産業情報研究センター資料)(2003)
 
7)「LCA実務入門」((社)産業環境管理協会)(1998)
 
8)「吸油性材料の開発」((株)シーエムシー)(1991)
 
9)「RESPONSE TO MARINE OIL SPILLS」(THE INTERNATIONAL TANKER OWNERS POLLUTION FEDERATION LTD)(1986)


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