7.10 藻場 ―魚たちのゆりかご―
海で基礎生産を行う植物には、植物プランクトンの他に海藻(かいそう)と海草(かいそう)があります。海藻は仮根で岩礁に付着し葉面から栄養を吸収し、胞子で増えるコンブ、カジメ、ホンダワラなどを指します。海草は砂泥域に根を生やし、葉面と根から栄養を吸収し、種子で増えるアマモなどを指します。
海藻 |
海草 |
岩礁に付着 |
生育場所 |
砂泥域に根をはやす |
葉面 |
栄養吸収 |
根と葉面 |
胞子 |
繁殖 |
種子 |
コンブ、ホンダワラ |
例 |
アマモ |
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瀬戸内海の主な海藻はホンダワラ、主な海草はアマモです。ホンダワラは枝々に細かい葉と浮き袋を無数につけていて、気体の入った浮き袋の浮力によりしなやかな体を水中に立てています。
藻場(もば)とは、海藻や海草が茂る場所のことです。藻場は、その構成種からみて、「アマモ場」(アマモの仲間から構成される)、「ガラモ場」(ホンダワラの仲間から構成される)、「アラメ場」(アラメから構成される)、「カジメ場」(カジメから構成される)「コンブ場」、「ワカメ場」等に分けられます。
アマモ場
ガラモ場
カジメ場
アマモ場は、主に内湾や入江の波の静かな平坦な砂泥底に、ガラモ場、アラメ場、カジメ場は、潮流の速い岩礁域に形成されます。また、ガラモ場、アラメ場、カジメ場は、水深によって分布が分かれていることがあります。これは、波の強さや光量に関係していて、ガラモ場、アラメ場は比較的浅い場所に、カジメ場は比較的深い場所に分布しています。
これら海藻・海草の成長速度は極めて大きく、しかも葉面に付着した珪藻類も盛んに光合成を行うために、藻場の単位面積当たりの基礎生産速度は地球上で最も高いレベルにあります。さらに葉面には、ワレカラ類、ヨコエビ類などの小型甲殻類、小型巻き貝類が付着珪藻やデトリタスを食べて生息していますし、藻場の中にはカイアシ類やアミ類の濃密な集群(しゅうぐん)(スオーム)が形成されて、それらが藻場に蝟集(いしゅう)する(集まってくること)魚たちの餌になっているのです。
ワレカラ
ヨコエビ
藻場が作る茂みは、波や潮流による水の流れをやわらげるとともに、魚の子供や赤ちゃんである稚仔魚に、外敵から身を守る隠れ場所を与えます。アイナメやイカのように藻場を産卵場所とする生物もいます。
また、ホンダワラ類は海底から離れると海面を漂う「流れ藻(ながれも)」となり、様々な魚の産卵床(さんらんしょう)や、稚仔魚の生育場等として重要な働きをします。このように、藻場は魚の赤ちゃんを保育する「海のゆりかご」としての役割を果たしているのです。
海藻や海草を直接食べる魚は、メジナ類、ブダイ類、アイゴ類などだけです。魚が海藻・海草を食べているように見えるのは、葉上のワレカラやヨコエビなどの生物をついばんでいる場合がほとんどです。
ガラモ場のメバル稚魚
(せとうちネットより)
そのほか、海藻はアワビ、サザエ、ウニなどベントスの好餌料(じりょう)(良い餌)として重要です。さらに、枯れた後も微生物によって分解されて小さな破片(デトリタス)となり、生物のよい餌となります。
アマモの根元の砂泥はカニ類、エビ類の良いすみかとなっています。さらに、これらの小動物とともに、アマモ場には多くの魚が生息しています。そして、それらの魚はそれぞれの一生の中で、アマモ場を様々な形で利用しています。
アミメハギ、タツノオトシゴ、ヨウジウオは、アマモ場で一生を過ごします。ウミタナゴはアマモ場で稚魚を産み、ワレカラ類やヨコエビ類を食べて育ち、冬には深みに移動します。クロダイも幼稚魚期にはアマモ場でワレカラ類やヨコエビ類を食べて育ち、成長とともにアマモ場から外へ出て行きます。スズキの幼稚魚はアマモ場周辺で動物プランクトンを食べて過ごし、成魚になると内湾全域から沖合いへ移動します。メバル、クジメ、アイナメの幼魚はアマモ場で育ち、成魚になるとガラモ場へ移動します。アナゴも幼魚期にはアマモ場を良い生育場所としています。また、アオリイカは産卵のためにアマモ場にやってくることが知られています。
アマモ場の生物
(せとうちネットより)
ガラモ場、アラメ場にも多くの魚が見られます。メバルの生まれたばかりの稚魚は海面を漂い、成長とともに藻場の中で暮らすようになります。その後、群れで藻場内の中層を泳ぎながら生活し、動物プランクトンやエビ類、ワレカラ類、ヨコエビ類を餌とします。アイナメやクジメは普段は藻場付近の海底でじっとしており、餌を食べる時は葉上のワレカラ類、ヨコエビ類を海藻ごとかぶりつきます。クロダイ、ウミタナゴ、メジナ、クサフグ等は餌を食べるために藻場へやってきます。ギンポ、キヌバリ、チャガラは藻場が広がる岩礁域のくぼみや穴に産卵します。海底には、ムラサキウニやバフンウニ、サザエ、アワビが見られます。これらの生物は海藻や海草そのものを餌としています。
ガラモ場・アラメ場・カジメ場
(せとうちネットより)
沿岸海域の浅場に位置する藻場・干潟は、人間が陸地を造成するのに適当であったため、その多くが埋め立てなどにより消滅しました。また護岸工事などにより出る濁りは、海水の透明度を減少させ、深いところの海藻や海草に光を当たらなくしたために枯れさせてしまいました。そのため、瀬戸内海の藻場の面積は、近年急激に減少しています。
瀬戸内海の藻場面積の変化(せとうちネットより)
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