本結果では、緯距・経距が約(900m、1100m)当たりから東北東に約200mフロートが漂流しており、ここに離岸流がある。ただし、現地踏査だけによる離岸流発生箇所の特定に関しては、干潮時汀線およびH. W. L. ともに屈曲が顕著でなく地形だけで発生箇所を特定することは困難であったが、目視により波の形状や海表面の様子を観察することで、ほぼこの周辺に離岸流があると推定し、この周辺でHGPSフロートの投入を繰り返した。なお、本記録は沖に移動したHGPSフロートをいったん巻き戻し、再度流れに投入したものである。離岸流(i)、(ii)の流速記録を見れば、ともに、平均流速が0.5m/s以上の時間が長く、一般の人が泳ぐには十分危険な場所だという事が再確認できた。離岸流(i)は、平均流速が0.78m/s、最大流速が2.09m/sで、離岸流(ii)は平均流速が0.67m/s、最大流速が2.45m/sであった。このことからも、本調査地域は遊泳禁止であるが、一方、サーフィンなどの利用や、離岸流内での救出訓練には適していることが分かる。なお、ビデオカメラ・赤外線カメラによる離岸流域の観測時に、本離岸流域に男女二人連れが浮き輪一個を持参して入水し沖に流された。双眼鏡で注意深く観察した結果パニックには陥っていないことや、循環流に乗る可能性もあったために離岸流内での具体的な救出行動をとらなかったが、最終的には約15分程度で循環流により砂浜の方へ流されてきた。本人達は、遊泳禁止箇所であることを知らないようであり、海域利用者への啓発教育の重要性を知らされることとなった。
本観測海岸においては2002年から3年間観測を行っている。観測体験から離岸流発生域が比較的一定の箇所に発生しやすいような印象があったので、2002年度、2003年度、2004年度に観測された代表的な離岸流軌跡を重ね合わせてみた。その結果、当海岸では規模の大きい離岸流および、小さい離岸流もほぼ発生箇所が特定の箇所に集中していることが分かった。
図3.2.12 青島海岸における2002年、2003年、2004年の離岸流発生箇所と汀線形状(観測時) |
ほぼ2週間、Wave Hunterを設置し波と流れを計測したが、干潮時の一部の時間帯については、前述したように機械が露出するために、特に流速に異常値が生じる場合がある。そのために、計測データのうち水位が0.9m以下の時間帯のデータについては、省いて図示する。
図3.2.13 観測時の平均水位、波高、流れの記録(8月2日〜16日)
(2)志布志湾内押切海岸と柏原海岸
前述した青島海岸は、自然海岸における地形成の離岸流が発生しやすい海岸であった。一方、わが国の海岸には海岸保全構造物が多く設置されており、人工構造物に起因した離岸流も発生している。そこで、海岸保全構造物の設置された人工海岸において発生する離岸流について調べるために、突堤構造物のある押切海岸および柏原海岸においてWave HunerおよびADCPを用いた長期観測と、フロートや染料を用いた短期観測を行った。また、押切海岸側においては、マルチビームを用いた測深作業を行い、地形成の強い離岸流を誘引しやすい海底の3次元地形なども詳細に調べることにした。
長期観測用の計測機器設置位置は、図3.2.14中に赤丸印で示す。観測箇所の様子は、図3.2.1および図3.2.2に既に示されているように、それぞれ一文字突堤とT字型突堤の左側海域の突堤付け根付近に計測器を設置した。計測器設置後すぐに染料を投入して、計測器上を染料が沖合に流出することを目視で確認し、離岸流域に計測器が適切に配置されるようにしてある。
図3.2.14 志布志湾内の観測箇所(図中赤丸印で示す)
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1)測深結果
第十管区海上保安本部所属のいそしおおよび搭載艇により志布志港南側の安楽川から菱田川沖合の海域の測深作業をマルチビームを用いて行った。作業風景および測深結果を図3 .2. 15と図3. 2. 16に示す。また、図3.2.17に離岸流が発生しやすい浅い海域の拡大図を示す。
図3.2.15 搭載艇による測深作業の様子
図3.2.16 測深結果
図3.2.17には離岸流の発生箇所になりやすい窪地地形(リップチャンネル)が6箇所形成されていること、および、突堤両側には突堤に沿う形で溝状の地形が形成され、沖合への流れを誘引しやすいことが分かる。また、突堤基部にWave HunterΣを設置してあり、観測箇所としても妥当であったことが分かる。なお、本海域には観測期間中に台風0416号と0418号による高波浪が来襲し顕著な地形変化が生じていた。その結果、現時点では観測機材を回収できておらず、長期観測結果については割愛する。
図3.2.17 押切海岸の浅海域の海底地形
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