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4)河川流・離岸堤による沖向き流れ
 2004年丹後由良海岸では離岸堤測部に沿うような沖向き流れが観測された(図3.1.34)。画像のすぐ下側が由良川河口になっており、河川流によって形成された沿岸方向の流れが離岸堤によって方向を変え、沖方向への流れへと変わっていく様子が分かる。この流れによる事故例が報告されており非常に危険な流れである。
 
図3.1.34 河川流・構造物による沖向き流れ
(a)start
 
(b)30s
 
(c)60s
 
3.1.2 離岸流実測手法に関する考察
(1)実測機器の設置方法
 過去3年間の現地実測で様々な計測機器や観測システムを用いて離岸流の観測を行った。その結果については前章で考察を行った。しかし、その結果だけでは突発的な離岸流の発生原因の解明には至ることができなかったのが事実である。この原因として明らかに突発性離岸流だと思われる実測結果の不足と、広範囲な現地海岸での実測において計測機器の数量に限度がある事が考えられる。そこでまずは計測機器の設置方法について検討を行う。
 
1)実測機器設置方法の問題点
 2002年の浅海域における計測機器の設置位置(図3.1.35(a))は、圧力式波高計を沿岸方向に一直線上に設置することで、広範囲での沿岸方向の波の分布状況や伝播について議論するには非常に有効な設置方法である。しかし、その一方で離岸流発生位置周辺の詳細な波浪状況を観測することはできない。2003年や2004年のような浅海域における計測機器の設置位置(図3.1.35(b))は計測機器を離岸流発生位置に集中的に設置することで周辺の波高分布を詳細に知ることができる。逆に広範囲での波浪状況の把握ができない。
 この2種類の設置方法のメリット、デメリットは対照的であり、離岸流の現地実測においてはその設置方法の選択が非常に重要である。その実測の対象がどのパターンの離岸流(2.1参照)かによって、実測機器の設置方法を決定すべきである。なお、別途神戸大学との共同研究で行っている長周期波の波向推定法に関する研究においては、極浅海域での複数地点における水位計測結果からMUSICスペクトルを計算し、波向を推定することになる。このときに検出可能な長周期波の波長は、波高計設置間隔のほぼ4倍までとなる。したがって直線型配置を行うほうが検出可能な長周期波の周期は長くなるという利点はある。
 
図3.1.35 計測機器の設置形式
 
2)離岸流パターン別の実測機器設置方法の検討
 2章2.1で述べたように、離岸流の発生原因はいくつかのパターンがあり、地形性の離岸流であれば発生位置と継続時間は比較的安定しており、直接発生位置周辺に計測機器を設置することができる。しかし、2002年や2003年に観測された突発性離岸流は、その発生位置や継続時間が非常に不安定で、その観測は偶然性に頼るしか現在のところ方法がない。実際に、過去3年間の実測においても突発性離岸流はほんの数回の観測にとどまり、その発生要因の究明には過去の機器設置方法では非常に困難なものであった。その観測にはやはり同時に広範囲の波浪や流況を観測することが最も合理的で確実な方法である。しかし、その観測方法はいくつか開発されているが(堀川1971)、波高計等の現地実測機器による計測結果の精度には未だ劣っているというのが現状である。
 そこで、計測機器によるオイラー的なデータ収集と後述するLocal Remote-Sensingを用いたビデオ画像解析による空間的なデータ収集を組み合わせ、互いにデータを補完することで対応することが可能であると考える。では、それぞれの離岸流パターンに対してどのタイプの設置方法が適切であるのかを検討する。
 離岸流パターンに対しての検討は2章で述べた分類を用いる。まず、Type-B1、B2、B3は地形性に起因する離岸流であるため、離岸流発生位置や継続時間が安定した定常流となり、計測機器の設置位置の特定は比較的容易である。したがって、図3.1.35(b)の局所集中型配置が適していると考えられる。逆にType-A1やA2のような突発性離岸流及びType-Cのエッジ波が形成されることによって引き起こされる入射波浪場の空間的な不均一性によって発生する離岸流の場合は、その発生場所の特定が非常に困難でその継続時間も比較的短いため、図3.1.35(a)の直線型配置が適していると考えられる。
 
(2)GPSによる現地測量
 現地海岸において汀線位置や形状、海底地形形状は時々刻々と変化し、その測量は非常に困難を極め、高性能で使用効率の良いトータルステーションを用いたとしても正確で多量のデータを得ることは難しい。そこで、今回の現地実測ではキネマティックGPS位置計測装置を用いて汀線測量や海底地形測量を行った。GPS計測器は周波数5Hz、精度はcm精度で計測するため、非常に正確で詳細な計測データを得ることができる計測器である。
 
1)汀線測量における検討
 図3.1.36は2004年8月30日と9月2日のほぼ同時刻に行われたGPSによる汀線測量の結果である。この図の汀線に対して、上側が海、下側が陸である。この図より汀線形状が精度良く計測されていることが分かる。また8月30日から9月2日にかけて汀線がやや後退し、この図の中間付近で長さ約150m程度のラージカスプ地形を形成している様子が分かる。このカスプ地形は上空からのビデオ画像でも確認されており、GPSによる汀線測量の有用性を証明している。
 
図3.1.36 GPS汀線測量で計測された汀線位置の変化
 
2)海底地形測量における検討
 2004年の浦富海岸における現地実測において、海底地形の測量を行った。得られたデータをサーフェス画像にしたものが図3.1.37である。さらに広範囲のデータを収集することによって現地地形を基に数値計算を行い、海浜流系の再現を行うことができる。しかし、これには一つの大きな問題点がある。このGPS計測器は背中に背負って対象海域周辺を歩行しデータを得る方法を用いたため、せいぜい水深1m前後が計測の限界である。今後は水深1m以上の位置での地形測量ができるような新たな手法を開発する必要がある。
 
図3.1.37 GPSによる深浅測量結果
 
(3)Local Remote-Sensingによる現地実測
 前述のとおり現地海岸のような広範囲の海域を同時に波高や流況の観測を行うには、Local Remote-Sensingシステムによるデジタルビデオ画像の利用が非常に有効であると思われる。実際に三崎ら(2000)は気球にデジタルビデオカメラを搭載し、上空から撮影したビデオ画像を幾何補正し、従来の計測器による計測では得ることのできない面的な時系列データを入手し、広範囲な現地での観測システムを開発している。


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