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2.2 前年度研究結果の概要
2.2.1 現地観測結果
(1)波浪・潮位等の変動と離岸流発生特性
(1)入射波高が1m程度以上で離岸流は発生しやすい。その場合、離岸流流速は0.5〜1.0m/sにもなることもある。
(2)沖合いに構造物があり、潮位変化の小さい浦富海岸の場合、離岸流の発生頻度や流況パターンに、波向きが重要な要因となっていることが明らかになった。
(3)浦富海岸では、不安定性に起因する離岸流が発生している状態では、発生地点での平均水位が、周辺の平均水位よりも低下している事がわかった。しかし、水位が低下することによって離岸流が発生したのか、離岸流が発生したから水位が低下したのかを判断するには至らなかった。
(4)潮位変化が大きい青島海岸の場合、離岸流の発生頻度に、潮位が重要な要因となっていることが明らかになった。すなわち、離岸流は干潮時に発生頻度が高く、流速も大きい傾向にあるのに対し、満潮時には離岸流の発生がほとんど見られなかった。
 
(2)海岸地形と離岸流発生特性
(1)rip-channel/feeder-channelシステムで発生する離岸流の詳細をビデオ解析及び流速測定で捕らえることができた。同じ地形上でも入射波浪特性によって離岸流が発生しないことも明らかになった。
(2)青島海岸の場合、離岸流の発生しやすい場所は干潮時の汀線が入込んだ場所(澪筋を示す海底形状)と一致するなど、海岸地形と離岸流発生は密接に関連している。
(3)吹上浜海岸の場合、汀線に並行に複数の沿岸砂州(多段バー)があり、この地形特性から離岸流よりも沿岸流が卓越する。
 
(3)離岸流機構の特性
(1)広い範囲で入射波浪が制御される場合に発生する離岸流(たとえば浦富海岸の潜堤開口部の離岸流)は、従来の余剰運動量フラックスの勾配を外力とする海浜流数値計算手法で再現されることがわかった。
(2)カスプ地形の凹部(あるいはrip-channel)から発生する離岸流も、上記の方法で予測可能であることもわかった。
(3)離岸流の発達時に水温が低下する傾向が、Wave Hunter等により観測された。また、上空からの熱赤外ビデオカメラで、離岸流域と低水温分布がかなり一致していることが観測された。これは今後の実用レベルで、離岸流域の判読・推定に極めて有効な情報と考えられる。
 
2.2.2 現地における離岸流判読・推定の指標
 一般の海域利用者や海岸(海浜)管理者が水難事故の危険性を避けようとする場合、あるいは、水難事故が発生した場合、現地では観測機器を携帯せずに離岸流位置を判読・推定しなければならない。そこで、青島海岸の現地観測時に得られた知見に基づいて、人間の五感だけに基づいた離岸流の判読・推定のポイントを考察した。
 
【指標1】
 汀線の凹凸(波状)地形、背後の浜崖の屈曲した侵食状況、また、直接目には見えないかもしれないが砕波状況から沖合いの浅瀬が不連続(離散的)になっている等の、地形の状況の見極めをつける必要がある。
 
【指標2】
 水表面(海水表面)の一部だけが周辺に比べて乱れている、ざわついている、擾乱がある、小さな漣(さざなみ)がある等の何らかの違いを見極める必要がある。
 
【指標3】
 波の峰線(波峰線)形状に着目する必要がある。砕波(白波:ホワイトキャップ)が見られない、波峰線が一部海側に曲がっているところは、波に対する逆流(離岸流)の存在を示唆するものである。
 
【指標4】
 離岸流域には浮遊物(漂流物、ゴミ)等が集積しやすい特性がある。また、離岸流域に海藻などが集積している場合には周辺海域に比べて色が黒く(暗く)見えがちとなるので、この様なゴミの集積状況をみることが大切である。
 
【指標5】
 マリーンレジャーで知らない海岸に行く場合には、基本的に地元海域を通常利用している人々に海岸の様子を尋ねるということである。
 
【その他】
 実際の漂流実体験によると、波浪がそれほど高く無い状況では、離岸流に乗り沖合へ移動し離岸流頭で岸に向かい泳ぎ始めることは一般的には妥当と考えられるが、波浪の高い状況では離岸流に対して横方向、あるいは汀線に対して平行にできるだけ早くから泳ぎ始め、離岸流から脱出し、その後、岸向に泳ぐ方が良いと思われる。
 
2.3 本年度研究の内容
2.3.1 現地観測
(1)モデル海岸I
1)観測場所
・浦富海岸:8月30日〜9月6日
・由良海岸:9月10日〜9月12日
2)観測のねらい
・発生条件、流況パターン等の確認
・地形、波、流れの相互干渉解明
3)観測方法
・流況、海象条件、海底地形の同時観測
・昨年までの観測方法+GPSによる海底地形測量
・ステレオカメラによる海面情報解析
4)解析着眼点
・発生条件に関する理論解析と観測値の比較検証
・カスプ地形の形成機構の解明
・Rip channelの形成機構の解明
 
(2)モデル海岸II
1)観測場所
・青島海岸:8月2日から2週間
・志布志湾押切海岸:8月1日から9月上旬
・志布志湾柏原海岸:8月1日から9月上旬
2)観測のねらい
 長期間の観測を行い、来襲する様々な波浪条件において発生する離岸流を観測する。
・発生条件、流況パターン等の確認
・地形、波、流れの相互干渉の解明
・離岸流探査手法としての熱赤外画像観測の有効性の確認
3)観測方法
・長期観測(計測機器を設置し、1ヶ月観測を行う)
観測機器:Wave Hunter、ADCP、小型水圧式波高計
・定期観測(各海岸で1回/月の観測を行う)
観測機器:GPSフロート
・熱赤外画像観測の有効性の確認観測
観測機器:熱赤外線カメラ
4)解析の着眼点
・沖合波浪観測データと発生条件・流況パターンの関連解析
・地形や潮位変動と離岸流発生条件の関連の解明
・熱赤外画像とフロート観測による離岸流位置の比較
 
2.3.2 数値モデルの改良・開発
(1)モデル海岸I
 モデル海岸Iに適用する数値モデルの改良・開発を行う。昨年度の数値モデルの試算の結果、「広い範囲で入射波浪が制御される場合に発生する離岸流:Type-B3」、「入射波の集中・発散に起因する地形性離岸流(汀線の凹部からの発生):Type-B1」については、従来の余剰運動量フラックスの勾配を外力とする海浜流数値計算手法で、再現可能なことがわかった。従って、本年度は更に数値モデル精度を高めるとともに、波浪条件、沿岸砂州等の地形条件による離岸流の再現について検証する。
 
(2)モデル海岸II
 モデル海岸IIに適用する数値モデルの改良・開発を行う。数値モデルは、当面海岸Iと同じく地形性の離岸流を対象に、E. K. Nodaタイプ(1974)、磯部(1986)タイプを基本として、モデル改良を試みる。
 
2.3.3 海難事故の防止に向けた予備的研究
 海難事故の視点から離岸流の発生機構、海岸管理のあり方、利用者への啓発・教育等について、現状での知見をとりまとめる。


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