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 本研究プロジェクトの各委員は、北朝鮮に拉致された人々を1日も早く救出すること、また金正日政権によって拉致されたとも言える北朝鮮の2000万人民を解放することを念頭に、運動論的な視野を持って研究討議を行ってきた。前期の研究は、5人の拉致被害者が帰国を果たした前後に始まったが、その後、日朝協議はまったく行われなくなった。西岡力委員は、平成15年12月に、死亡・未入国とされた10人その他の情報を求め、北朝鮮外務省の鄭泰和巡回大使らと非公式接触も行った。しかし、北朝鮮に拉致被害者を返す誠実さはまったくなかった。ところが、今期終了直前の2月になって日朝協議が2回も開催された。これは、当研究プロジェクトが提案した経済制裁の効果(改正外為法成立への動き)もあってのことであった。しかし、この場でも、北朝鮮は従来の発言を繰り返すばかりで誠実な対応を行わなかった。この間、日本側では北朝鮮の不誠実さに憤る世論が沸騰し、制裁支持が圧倒的多数となった。
 総括提言にあるように、北朝鮮はあらゆる国家犯罪を行ってきた。このような国家に対しては、「悪」の国家であるとの認識で交渉すべきだというのが、この研究プロジェクトの総意である。そこが一般の外交交渉と同列に論じる従来の主張とは一線を画すものである。それだけに、国民にも「悪」の国家との緊張関係に対峙する覚悟が求められる。なぜなら、他人事ではなく、北朝鮮の国家犯罪は、明日はわが身の問題だからである。なお、西岡委員は、本研究プロジェクトの成果として単行本『北朝鮮に取り込まれる韓国』(PHP研究所刊)を3月に出版したことを付記しておく。
 最後に、研究の機会を与えて頂いた東京財団と、当初より関わっていただいた東京財団の吹浦忠正常務理事、研究推進部の川野晃部長、同部の平沼光氏に、研究プロジェクトを代表して心より御礼を申し上げたい。また、研究会で貴重な示唆を与えて頂いた安明進氏、中西輝政氏、洪氏、黄長氏を初め、総括提言の末尾に記した海外で取材に応じて頂いた各氏に厚く御礼申し上げたい。
 最後に、本年度は西岡力委員が単行本を一冊まとめ、各委員が「日本人の力」に毎月連載も行ったが、次期の研究では、蓄積した情報の発信をさらに心がけたいと考えている。さらに、「北朝鮮自由化法案」私案の作成や、衛星写真画像を分析し核開発の実態を解明することも予定している。また、4月の韓国総選挙結果と盧武鉉大統領弾劾訴追決議を巡る動きや米国の対北朝鮮対策調査等海外調査も行いたい。また、海外の関係者にも協力を頂き、積み残した重い課題についてさらに掘り下げた研究を行う予定である。これらが実現すれば、随時研究成果を公表するようにしたいと考えている。
 
提言
総括提言
 
金正日政権に対する価値判断を下すべきとき
−政体変更を目指す日米韓朝諸勢力間の協力強化を
 
提言各論
 
提言1. 金正日の核武装の恐るべき実態を直視せよ
 
提言2. 日本は経済制裁を発動せよ 政府は対北朝鮮専門組織を作れ
 
提言3. 国連安保理決議1441号(対イラク)の規定を対北朝鮮政策にも適用せよ
 
提言4. 日米議会は「北朝鮮民主化法」(仮称)を早期に策定せよ
 
提言5. 韓国政府、中国政府にも圧力を行使せよ
 
金正日政権に対する価値判断を下すべきとき
政体変更を目指す日米韓朝諸勢力の協力強化を
 
ブッシュ大統領の「悪」演説
 ブッシュ大統領は2002年1月の一般教書演説で、北朝鮮を「悪の枢軸」と断定した。「悪(evil)」という表現は、「矯正不可能、打倒すべき」という明確な価値判断を含んでいる。現在の朝鮮半島問題を考える際、このブッシュ大統領の価値判断に賛成するかどうかが、もっとも根本的な問題となる。
 同演説でブッシュ大統領は、「北朝鮮は人民を飢えさせながらミサイルと大量破壊兵器で武装している」と、「悪」認識の根拠を説明した。
 われわれは、加害者である金日成・金正日独裁政権(以下、金父子政権)と被害者である北朝鮮人民を、同一視するべきでないと考える。ブッシュ演説も人民を被害者ととらえているので、そこでいわれる「北朝鮮」とは金父子政権を意味する。
 われわれが本研究プロジェクトで、昨年と今年、集中的に金父子政権の実態を検討した結果、ブッシュ大統領の挙げた「国民を飢えさせた」、「ミサイルと大量破壊兵器で武装」という2つの根拠はすべて事実であることを確認した。そして、金父子政権を「悪」と断定する根拠に「日本人と韓国人を大量に拉致していまだに帰さず」、「朝鮮戦争をしかけ大韓機爆破など多くのテロを行った」という2点を加えるべきだと考える。
 すなわち、「日本人と韓国人を大量に拉致していまだに帰さず、朝鮮戦争をしかけ大韓機爆破など多くのテロを行い、自国民を飢えさせながら、ミサイルと大量破壊兵器で武装している金父子政権」は人類の普遍的価値観から見て「悪」である。この「悪」認識が、朝鮮半島問題の大前提となる。
 国際政治において価値観を過度に介入させることは禁物だ。現実主義の立場からはまず国益の極大化と力の均衡が説かれる。しかし、金父子政権のありようは度を超している。目の前にヒットラー、ポル・ポトの大虐殺と同じことが行われていながら、黙認することは、人道への罪を定めた現行国際法に違反する。
 伝統的に米国政治においては、民主党が理想主義を掲げて対外介入を行い、共和党は現実主義からそれに否定的であった。しかし、ブッシュ大統領は共和党でありながら、政治犯収容所の実態や闇市で拾い食いをする孤児らの姿、めぐみさんら拉致被害者の悲惨な運命を心に刻み、「金正日に虫酸が走る」と明確に価値判断を下している。
 
拉致と核が解決しないのはブッシュ「悪」演説支持が孤立しているから
 「悪」認識という観点から、拉致問題と核問題の現状を検討したい。まず日本人拉致について、ブッシュ大統領は2003年5月小泉首相との会談で「拉致は忌むべき行為だ。北朝鮮に拉致された日本国民の行方が一人残らず分かるまで、米国は日本を完全に支持する。北朝鮮の拉致に対して強く抗議したい」と強く非難した。拉致問題でも明確に、金正日政権の「悪」を非難している。しかし、小泉首相は、日本人拉致についてさえ「拉致を解決して国交正常化する」などという言い方しかせず、拉致未解決を理由にした制裁発動についても「伝家の宝刀は抜かないのがよい」などと公言して消極的だ。その結果、2月に2回政府高官協議がもたれたが、(1)帰国した被害者の帰国、(2)死亡・未入国とされた被害者の消息確認、(3)政府未認定の拉致の真相究明、はまったく進んでいない。北朝鮮の時間稼ぎが続き、それに対して日本はこれといった手を打てずにいる。
 核問題でブッシュ政権は、「核の検証可能で不可逆的な完全廃棄」、「悪いことを止めるのに褒美は与えない」というハードルの高い原則を掲げた。それを実現させる方法として多国間協議を採用したが、協議が継続しているだけでまったく成果が上がらず、金正日政権の核開発は着々と進んでいる。しかし、ブッシュ政権は2月の六者協議でも協議の継続に同意し、現時点まで北朝鮮の時間稼ぎに対して、制裁発動に踏み切れないままだ。
 繰り返し書くが、ブッシュ政権は「金正日は悪」認識を明言している。ところが、日本、韓国、中国、ロシアはすべて、その認識を表明していない。ブッシュ政権は孤立している。
 とくに、小泉首相は金正日テロ政権を直接的に非難せず、制裁を発動しない。「日本人拉致問題の解決なくして、国交正常化はあり得ない。核、ミサイル問題を包括的に解決するという日朝平壌宣言の立場は変わらない。国交正常化してから経済協力を行う」としか言わない。金正日政権に対して抗議したり、「悪」を糾弾したりしない。それどころか、田中均外務審議官は北朝鮮に対する外交戦略について、「まず互いの共通利益を作り、そのうえで協議や交渉をし、国際関係を作って結果を出す」と語っている(朝日新聞2003年5月23日)。テロとの戦争を戦うブッシュ大統領からすれば、テロ政権と共通利益をつくるなどという発想は、利敵行為そのものだろう。しかし、小泉首相は現在に至るまで、田中審議官を対朝鮮外交で重用し続けている。同盟国であり、もっとも北朝鮮の脅威を受けている日本がそのような姿勢だから、ブッシュ大統領は制裁への決断を下さないのだ。
 本プロジェクトは、本年度の総括提言として
「日本政府は金正日政権に対して明確に「悪」だという価値判断を下し、北朝鮮の政体変更を政策目標にすえよ」
と提言する。







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