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3.3 バラスト水処理装置の現状及び評価
3.3.1 最新の国際展示会(シンガポール)での情報
 本年(2004年)5月にシンガポールで開催された「2nd International Conference & Exhibition on Ballast Water Management」は、2004年2月にバラスト水管理条約が採択され、処理装置の性能基準(規則D-2基準)が最終的に決定した後に開催された最初の国際展示会であり、基準の内容及び開発現状を最も反映したものと考えられる。以下には、本展示会の概要と注目される処理装置及び開発の方向性を示した。
3.3.1.1 最新の国際展示会(シンガポール)の概要
(1)発表の概要
 参加者から発表されたのは、開発中の処理装置を中心に、開発の条件や背景となるバラスト水管理条約、リスクアセスメント、処理装置の型式承認システム等(米国のUSCG-STEP、ETV施設等)、活性化物質、バラスト交換の現状に関してであった。
(2)発表された処理装置
 処理装置に関しての発表では、物理処理に関しては、ろ過(3件)、機械的殺滅(1件)、熱処理(3件)、UV(1件)、化学薬品処理に関しては、過酸化水素、オゾン、銅イオン、銀イオン、ハロゲン化合物、塩素、グルタールアルデヒド、ビタミンK、Ferrate酸化鉄を使用したものが紹介された。なお、最も多かったのは、ろ過や遠心分離の物理的処理とUV、超音波、化学薬品を組み合わせた複合技術で9件の発表があった。その他では、イナートガスとビタミンK、イナートガスと電気分解、電気分解で塩素を発生、電気分解で水酸基を発生、オゾン処理が発表された。
(3)処理装置開発の方向性
 本展示会での発表は、2004年2月に決定した処理性能基準(規則D-2基準)を反映したものとなっている。
 以前の処理装置に関するシンポジウムや展示会では、ろ過や遠心分離といった物理的に水生生物を除去する装置が主体で、環境への影響等が懸念される化学物質を使用する方式は敬遠される傾向にあった。しかし、規則D-2基準が1um以下のバクテリアも対象にすることに決定したことで、バラスト水処理装置は、センチメートルレベルからサブミクロンレベルまでの、つまり水中に分布する全ての生物への対応が要求されることになった。つまり、大型の生物を主体に処理するろ過等の装置では、バクテリアなどの微小な生物には対応ができないために、環境への影響や船体腐食等の問題があるものの化学薬品処理や、化学薬品及び薬品製造機器と組み合わせる複合処理が注目されてきていると考えられる。なお、シンガポールの国際展示会で発表された処理技術数は、2000年頃に開かれたシンポジウムの時よりも減少した。撤退した技術の多くは、陸上における水処理技術を船舶に応用しようとしたもので、理由は、厳しい基準が決まったことと、開発を進めるにしたがって、船舶での実施の困難性が認識されてきたためと考えらる。
3.3.1.2 最新の国際展示会(シンガポール)で注目された処理技術
 シンガポールの国際展示会では、規則D-2基準を想定した幾つかの処理装置が新たに発表された。以下には、それら新装置の要点を示す。
 なお、熱処理は、熱によって全ての生物に対する効果ねらったものである。オゾンと水酸基処理は、船内の搭載する装置によって化学薬品を生成し、その殺滅作用を活用するものであり、他の技術は、物理的方法と化学処理を複合させたものである。これら技術を見ても、D-2基準決定後は化学処理を何らかの方式で組み入れて主にバクテリアに対する効果をねらうと共に、化学処理も可能な限り船内へ搭載する方式が検討されている。
(1)熱処理1)
 英国が、300,000Gtの石油タンカーを想定して、バラスト水を高温(65℃)にすることが可能な熱処理システム(図3.3.1)をシミュレーションで検証したものである。
 装置の要点は、次の通りである。
(1)原理:バラスト水を生物のタンパク変成を起こす65℃に昇温させ、全ての生物を不活性化する。
(2)処理量:4,450m3/h
(3)熱源:既存のボイラーに加え、44,444kWの電力を使用し、3380kg/hの燃料を消費する補助ボイラーを使用
(4)イニシャルコスト:約6000万円(300,000Gtの石油タンカー)
(5)ランニングコスト:約40万円/(300,000Gtの石油タンカーのバラスティング1回当たり)
 
図3.3.1 300,000Gtの石油タンカーを想定した熱処理システムフロー
(英国、シミュレーション)
 
(2)オゾン処理
 米国が125,000DWTの石油タンカーに導入したオゾン処理システム(Nutech-O3、図3.3.2)である(国際展示会でのヒヤリング情報)。
 装置の要点は、次の通りである。
(1)原理:バラスト水中の残留オキシダント濃度が4mg/Lになるようにジェネレーターで生成したオゾンをバラストタンクに注入し、水生生物を殺滅。
(2)水生生物に対する効果:バクテリア99.9%以上、植物プランクトン90%以上を殺滅、動物プランクトンに対しては大きな効果なし。
(3)問題点:効果が低い、装置が大きい、消費電力が大きい
 
図3.3.2 125,000DWTの石油タンカーに導入したオゾン処理システム(米国)
(拡大画面:43KB)
 
(3)水酸基処理2)
 中国が検討中の清水を電気分解して、発生する水酸基で水生生物を殺滅する装置(図3.3.3)である。なお、現時点では、陸上試験の段階である。
 装置の要点は、次の通りである。
(1)原理:清水を電気分解して、生成される水酸基で水生生物を殺滅。
(2)現時点での処理水量:20m3/h
(3)水生生物に対する効果:水酸基0.6mg/Lの濃度で微小藻類とバクテリアを100%殺滅
(4)問題点:バラスト水処理用の清水を確保する必要がある。
 
図3.3.3 清水電気分解による水酸基処理装置の
フロー(中国)
(拡大画面:39KB)
 
(4)ろ過とUVの複合処理
 米国とノルウェー等が中心になって開発中のろ過とUVを組み合わせたシステム(図3.3.4)であり、客船等にも搭載済みである(国際展示会でのヒヤリング情報)。なお、米国では他の化学薬品との組合せも同時に検討している。
 装置の要点は、次の通りである。
(1)原理:開口径50umのフィルターを用いたろ過で50um以上の水生生物を除去し、UVで50um未満の水生生物とバクテリアを殺滅する。
(2)現時点での処理水量:250m3/h
(3)水生生物に対する効果:フィルター開口径よりも大きい74um以上の水生生物に対しても除去・殺滅効果が100%に至らない。
(4)問題点:処理効果が低い。また、処理水量が小さいことも課題となる。
 
図3.3.4 ろ過とUVを組み合わせた複合処理装置(米国等)







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