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6. まとめ
 Goal-based Standards for New Ship Construction(GBS)を構築することを目標として、IMOの場で審議が開始された。
 わが国では、国土交通省の新構造基準検討委員会を頂点として、日本造船研究協会に新しいプロジェクト(MP1)が設置され、委託事業として実施されることとなった。
 MP1では、わが国の国益を反映したGBSの草案を作成しIMOへ提案することを第1の目標に、さらに、船舶の安全目標を達成するために重要な要件としてわが国が主張してきた船体のメンテナンス基準、運航基準等に関する調査研究、及び、MSC79においてバルクキャリア二重船側構造部に対する塗装塗布の規則化(SOLAS12章6.3規則)の採択に伴い、わが国造船海運業界への影響が少なからずあるため、本プロジェクトの課題として、IMOで規定すべき塗装基準案を検討し、提案することが、平成16年度の課題として取り上げた。
 平成16年度の調査研究結果をまとめると以下のとおりである。
 
6.1 GBS草案の検討
 GBSの実質審議はMSC78から開始された。MSC78において、GBS作成の基本方針については、以下が基本的に合意された。
(1)基準のTier Iとして設定するGoal(目標)は仕様的な規定ではなく、目標指向型基準として本質的なものであること。
(2)目標は、メンバー国が達成を望むことを明示すること。
(3)目的は、明確で計り得るものであること。
(4)基準は、目標へ至る段階(step)を明示すること。
 我が国は、船舶の安全性を確保するためには、構造要件だけではなく、船主のメンテナンスやオペレーションが重要であるとの立場から、構造基準の策定に当たっては、メンテナンス及びオペレーションの基準も策定すべきとの提案を行った。これに対しては、支持する国と、それらは船主等に任せるべき事項であり、また、詳細ではなく、設計思想をまず検討すべきとする慎重な意見も出された。
 具体的な基準の内容については、MSC79から審議されることとなった。
 
 MSC79の本会議では、議論の中で、新船構造GBSを作成するための方途として、以下のような大筋の合意が得られた。
(a)国際海事業界的でそろったレベルを得るために、GBSの性能要件は、船級協会が世界的に同一に実行できるような均一の使用基準を作成できるに十分なものでなければならない。
(b)船舶の建造、修繕及び運行において、その船舶がGBSに合致していることを評価し得るものでなければならない。
(c)船舶の建造場所や建造者によって基準が変わらないことを確保できるものでなければならない。
(d)IMOが作成するGBSは、世界的に均一に理解されるものであって、不明瞭ではなく、これを実現するための仕様的基準が作成され得るものでなければならない。
(e)ゴールは長期間の目標として設定されるものであるが、許容基準は技術の進展に従って替え得るものでなければならない。
 
 これらの基本方針の下に、議長の10の質問について議論し、以下の大筋の合意を得た。
(1)船舶の安全が建造段階及び就航中でも評価できるよう、GBSは広範で包括的なゴール(目標)を設定するものでなければならない。
(2)Tier Iは安全目標とすることは大枠で支持されたが、提案されている枠組みはさらに充分な議論が必要である。メンテナンス、修繕、運航、残存強度、建造材料及びリアイクリングなど、さらに追加すべき項目が示された。
(3)Tier IIは機能要件とすることは大枠で支持されたが、さらに議論が必要である。また、設計のaccessibility、構造強度とその信頼性、及びメンテナンスなど、さらに追加すべき項目が示された。さらに、Tier IとTier IIはさらに整合を取る必要があり、総合的に検討する必要があることが理解された。
(4)長期的には、GBSは船舶の多くの機能に適用可能すべきであるが、そのような作業は、新船構造についての適用が出来上がった後の作業であろう。
(5)Tier IIには、解釈の差異を避けるために、安全と環境に対する明確な量的許容基準が示されるべきである。しかし、これは建造における柔軟性を損なう恐れがあり、WGはこのことについて特段の注意を払う必要がある。
(6)GBSへの適合性は、主管庁及び/またはそれが承認した機関による船舶の設計の審査、建造検査及び船舶の生涯にわたる定期検査によって実証されなければならない。
(7)(GBSの下で作成された実行基準がGBSに合致していることを)審査するシステムが必要である。この議論の過程で、これを実行するのは、主管庁か、IMOか、あるいは船級協会か、意見が分かれた。本件はGBS作成の過程で、後に議論すべきである。
(8)Ship Construction File及びShip Inspection and Maintenance Fileの開発は理解された。その詳細内容は、後の段階で検討する。
(9)船舶検査制度を変更する必要がある。但し、現段階で議論することは時期尚早である。
 
 さらに、IMOにおけるGBSの役割やその基本理念(所謂Tier 0)については、後の段階(新船構造GBSを作成した後)で充分議論することに合意した。また、MEPCが海洋環境保護の面からGBSを検討する必要があることに合意した。
 これら受けて、本プロジェクトでは、草案作成を行い、資料3-1のTierI及びTierIIに対するGBS案(MSC80/6/1)を提案した。
 
6.2 船体メンテナンスにかかる調査
 船体の安全を確保するためには、適正なメンテナンスやオペレーションが重要な要件であるとわが国は主張してきた。また、このことは、国際的に共通して認識されているところである。将来的に、メンテナンスの在り方を条約に規定することを目的として、現行条約の体系及び過去の事故事例の調査を行い、さらに、日本海洋科学(株)に依頼し、実際に船会社/船舶管理会社で行われている船体メンテナンスの現状を調査した。
 その結果、得られた概要を以下に示す。
○定期的検査及びドック時の修繕負荷を日常の点検保守で軽減し、如何に低コストでクリアするかは、船主・船舶管理会社のノウハウであり、義務付けることは困難である。
○メンテナンス基準ができたとしても、本当に点検しているかどうかの確認はできない(虚偽のチェックシートを提出することもあり得る)。板厚検査のデータに頼るのが現状である。
○日常点検は、ISMコードの要件であるSMSマニュアル及びそれに付随する手順書に規定されており、例えば、バラストタンクは6ヶ月に一度、タンク内に入って、塗装、沈殿物の堆積状態、アノード等の点検を義務付けている。確認はSI(Super Intendant: 管理監督)によって行われる。
○保守の考え方はDock to Dock(または中間、更新検査毎)で考えるのが一般的であり、保船コストの掛け方は、大別すると2通りある。ひとつは、日常からこまめに点検補修を励行し、ドック(中間、更新検査)時に極力コストを抑える方法と、もうひとつは、Dock to Dock(または中間、更新検査毎)の間は最低限のマンパワーでの点検補修にとどめることで日常の保船コストを抑え、ドック中または検査の時期に合わせてコストを費やす方法である。
 
 現行基準の調査及び船主への現状調査の結果を踏まえ、船体強度が、一生涯に亘り、安全に維持管理される方策を検討した。その結果、以下について、条約上なんらかの規制を行うことが必要であると考えられる。
(1)船体補修履歴の船上保管
(2)切替え基準
(3)状態評価手法の確立
(4)船主による自主メンテナンス計画の保持と確実な履行
 
6.3 バラストタンク塗装に関する調査研究
 バルクキャリアの二重船側部分の塗装に関して、IMOにおいて塗装の基準を定める事が決まっており、当該基準が採択された場合には、今後、同基準がバルクキャリアの二重船側部に対する塗装基準としてだけでなく、バラストタンクの塗装基準として採択される可能性がある。このため、塗装WGを立ち上げ、バラストタンクの塗装に関する調査を開始した。
 当該基準は、DE48(2005.2.21〜25)で本格的に検討されることが決定され、IACS-Industry Joint Working Groupで検討された塗装基準がDE48に提案された。
 このドラフトは、TSCF15年仕様をベースとしたものであり、我が国からも、対案を提出した。
 DE48では、2006年を目標として、専門的議論が必要であることから、コレスポンデンス・グループ(CG)を設置して検討を進めていくことなった。主な議論は、以下の通りであった。
(1)Performance Standards for Protective Coatingのスコープ
 本件は、将来的にはバルカーの二重船側部と海水バラストタンクだけでなく、全船種のバラストタンクとボイドスペースに強制的に適用されるようになるだろうとの見解が各国から示され、日本もこれを支持した。
(2)Coating Lifeについて
 目標とする塗装寿命を15年とすることについてはどの国からも異論は出ず、各国合意した。
(3)代替手段について
 我が国提案にあるオルタナティブ・プロシージャ(代替手段)については、有用なものであるとの考えがギリシャ等から示され、各国の支持が得られ、CGの中で検討することとなった。
(4)検証スキームについて
 塗装システムの有効性を証明するスキームについて、どこが主体になるべきかについての議論では、英国が、Standard Organizationが扱うべき事柄であって主管庁又はROが行うことについて難色を示し、それに対し我が国は主管庁又はROが行うことを提案したが、我が国の意見に同調したのは数カ国であった。具体的な内容については、CGで検討するべきとの考えが各国からしめされた。我が国から提案したコーティング・テクニカル・ファイル(CTF)については支持する意見が多く、その内容についてはCGで検討されることとなった。
(5)プライマ除去の是非について
 ライマの取り扱い(70%除去)は永年使ってきた業界の標準であるが、それ以外の方法でも同等性が立証されるならばDE 48/12の4章に規定されるオルタナティブとして認められ得るとし、CGで検討したい旨発言した。
(6)CGの設置について
 CGの設置は、特段の反対意見はなく、設置することで議場内合意した。CGのコーディネータについては、中国にコーディネータを要請し、特段の反対意見が出されなかった。今後、中国との情報交換を密にし、我が国提案を支持する国を増やすような対策が必要である。
(7)日本提案に対する各国の反応
 ロシアが明示的に支持を表明したほか、我が国の提案がグレードを下げることは意図するものではなく、透明性のあるテスト、ベリフィケーション・システムに基づくオルタナティブによってIACS提案のレベルの達成を意図するものである、という基本的な姿勢は概ね理解された。
 
6.4 塗装耐久試験の実験計画の策定と塗装耐久試験機の製作
(1)塗装耐久試験の実験計画の策定
 WGにおいて、日本提案の塗装仕様の検証を行うために、TSCFガイドラインに記載されている試験法や評価法を調査し、実験計画を策定した。
 当WGの議論の結果、塗装前の下地処理等の程度ならびに塗膜厚さの耐久性に及ぼす影響についての調査を目的として以下の項目について検証することとした。
1. 処理グレードの影響(健全なショッププライマーの有無の影響)
2. 処理グレードの影響(継手部等のプライマー損傷部の処理(ブラスト処理、パワーツールによる処理の影響)
3. 塩分濃度
4. ゴミ付着
5. 膜厚
6. 塗料の質
 
(2)塗装耐久試験装置の製作
 日本提案を検証するためのTSCFガイドラインに記載されている試験法を調査し、バラストタンク環境を模擬した塗装耐久試験装置(バラストタンク腐食試験装置および湿潤試験装置)を設計・製作した。
 今年度は、塗装仕様の在り方、IACS提案の仕様に対する日本提案の検討、及び、塗装仕様の検証のための試験計画の立案と装置の設計及び製作が主な作業であった。次回DE49に向けて、塗装試験を早急に開始し、提案の裏付けとなる結果をまとめる必要がある。







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