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1996/09/06 産経新聞朝刊
【主張】甘さが招く中国領海侵犯
 
 尖閣諸島の日本領海に中国の海洋調査船がついに侵入する事態が発生した。今月に入って同諸島の一つである赤尾嶼(大正島)周辺で領海侵犯、退去を繰り返し、海上保安庁の警告を無視して航行していた。東シナ海最大の海洋資源埋蔵量を誇るとされる同諸島周辺では、中国の海洋調査船が九四年以来、日中中間線を越えて度々わが国の大陸棚海域に進入していたが、領海侵犯は初めてのことである。
 政府は「外交ルートを通じて事実関係を中国に確認している。その結果によって、対応策を検討する」(外務省中国課)としているが、わが国主権の侵害であり、看過できない重大な事態であることを認識し、迅速適切な措置をとることを望みたい。
 領海侵犯は、先の政治結社による灯台設置・国旗掲揚や池田行彦外相の同諸島固有領土発言など、日本側の領有主張の実際行動に対する中国の反発であり、対抗措置であるとみることができる。その前触れは、灯台設置が明らかになった直後に行った中国外務省の「中国領土の侵犯」という抗議である。さらに、先月末には主要メディアを総動員して大々的な対日批判キャンペーン「日本はばかなことをするな」が展開されたこととも無縁ではなかろう。
 だが、日本側にも領海侵犯を誘発するような甘さがあったことを忘れてはならない。政府はこれまで、東シナ海における中国の海洋(資源)調査・開発活動に極めて穏やかに対応してきた。昨年五月から六月にかけて海洋調査船が、また昨年暮れから今年二月にかけては石油掘削船がそれぞれ日本の主張する「日中中間線」の日本側海域に進入し、日本政府の許可なく活動を続けたが、政府はいずれの場合にも退去要請を出したにとどまっている。
 国連海洋法条約では、日中中間線の日本側海域について日本は主権的権利をもつが、その一方で公海上での各国による「科学調査」の自由も認められている。これに配慮するあまり政府は中国調査船の中間線越境行為に対して厳しい態度を取らずにきたことが、今回の領海侵犯につながったとみることができよう。
 
 
 
 
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