日本政府は中台危機を対岸の火事と見ているのではないか。抗議の首相親書ひとつ出さぬ政府の無為無策を改めて問う。日本のすぐ近くで顕在化したこの危機は、中国の武力威嚇の執ようさから見て、今後も東アジアの継続的な緊張要因になるであろう。
ところが、公海上で行われる中国の軍事演習は国際法違反とはいいにくいというのが、日本政府首脳部の見解なのである。軍事演習が台湾総統選挙に照準を合わせた脅しであることを百も承知のうえで、こうした形式論理を繰り返すのなら、それは現実から目をそらしたあまりに無責任な対応である。この局面で手をこまぬいていれば、いずれ同盟国である米国はじめ国際社会の厳しい批判にさらされよう。
では日本単独で何ができるかといえば手段は限られている。それは中国に対する突出した経済援助国として当然の影響力を行使することだ。現在の対中円借款の在り方、進め方を見直す措置も十分あり得るという意思を先方に明確に伝える以外にないであろう。
中国の改革・開放路線を後押しすることがアジアの安定に寄与するという外務省などの戦略論は理解できる。しかし、いわずもがな援助は外交の手段であり、とりわけ日本にとっては外交政策の柱だ。日本が対中援助にまったく手をつけないなら、国際社会で一応存在を認められた一地域の民主的な最高指導者選挙に対する軍事的な脅しまで容認したことになってしまう。
中国に対する円借款は内諾済みの第四次円借款(九六年度から三年間)の五千八百億円を加えると累計で二兆円を超す。他国とのバランスを欠くこの巨額ODA(政府開発援助)自体にすでに見直し論が出ている。
何も一気に対中円借款を減らせというのではない。中国が台湾総統選挙前にただちに武力威嚇をやめない場合、第四次円借款の供与を減速したり、援助対象の優先順位を環境案件にしぼることなども考慮すべきである。中国に対して有効な意思表示を一度も行わないまま総統選挙を迎えるようでは話にならない。
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