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1998/03/06 読売新聞朝刊
[社説]中国のやるしかない三大改革
 
 中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)の会議が五日開幕した。新たに選出された代表による最初の会議だ。
 十九日までの会期中、施政方針を含む政府活動報告などを審議、採択するほか、任期五年の、二十一世紀にまたがる新国家指導部を選出する。改革・開放が新段階を迎えているなかでの重要な会議となる。
 人事では江沢民・国家主席の再選、李鵬・首相の全人代常務委員長への転出、朱鎔基・副首相の首相昇格が内定している。
 五日の政府活動報告で、李首相は人民元を切り下げないことを改めて明言した。切り下げはアジア通貨の一層の下落を誘発しかねない。回避すべきだ。今年の経済成長率の目標は8%(昨年実績8.8%)とされた。雇用創出のぎりぎりの線だが、輸出競争力低下や外資の直接投資の鈍化など環境は厳しく、内需振興がカギとなる。
 報告で注目されるのは、国有企業改革、金融体制改革、行政機構改革の三大改革だ。報告は三年前後で大多数の大・中型国有赤字企業を苦境から脱却させるとの目標を再確認した。国有企業は都市労働力の七割をかかえるが、四割は赤字とされる。
 このため、昨年の党大会では、いわゆる社会主義市場経済の所有制の主体とされる「公有制」を柔軟に解釈し、国有企業の株式会社化を正当化した。報告は株式会社化を含め多角的に国有企業改革を本格化させることをうたった。正念場である。
 国有企業は銀行の不良債権を膨張させてもきた。国有銀行の国有企業への融資残高の22%は不良債権。地方では党幹部や地方政府の銀行支店への圧力で、その支配下の国有企業への安易な融資が横行した。
 報告は今年の金融体制改革の重点として中国人民銀行(中央銀行)の金融調整、監督・管理機能の強化、国有商業銀行の集中的統一管理をあげ、決済規律の厳格化、金融秩序の確立をうたっている。
 今年の報告が新たに打ち出したのは、行政機構の大規模な改革だ。中央省庁を四十から二十九に減らす。現業部門の企業化、行政と企業の職責分離などが含まれる。国有企業の経営効率の悪さの一因は、行政と企業の経営権の分離の不徹底があった。
 報告は行政機構の基本的枠組みが計画経済体制下で形成されたものであり、社会主義市場経済の発展との矛盾が突出してきたと行政機構改革の必要を説く。
 それは、まさに、行政機構に限らず、国有企業や金融体制にも言えることだろう。市場経済化をさらに進めるには、計画経済の残滓(ざんし)を洗い落とさなければならない。そういう段階がきたと言える。政府活動報告のイデオロギー色が年々薄れていることとも無縁ではあるまい。国際化に対応する上でも、三つの改革は不可欠だ。
 だが、改革は痛みを伴う。現在、失業者五百万人、一時帰休が千万人とされるが、今後さらに増えるだろう。報告がこの問題の処理を政府の今年の重大任務とするのも当然だ。間違えば、大局安定の局面を脅かしかねない。江・李・朱体制の力量が改めて問われるところである。
 
 
 
 
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