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2004/02/16 毎日新聞朝刊
[社説]人民元改革 完全変動制へ一歩踏み出せ
 
 中国人民銀行の周小川総裁が、人民元相場の形成メカニズム改善を表明した。中国通貨当局は、現在、人民元を1ドル=8・276〜8・280元の狭い範囲に、介入や資本取引制限でくぎ付けにしている。しかし、中国は国際通貨基金(IMF)の8条国であり、経常為替取引の制限はできないことになっており、柔軟な相場制度への改革を求める声が国際的に広がっている。
 6、7の両日、米フロリダ州で開かれた先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)も、「市場メカニズムに基づく為替調整が望ましい」との表現で、改革努力を求めた。
 今回の周総裁の発言の裏には、中国経済が世界経済の中で存在感が高まっている状況にかんがみ、為替相場制度改革は不可避との判断がある。
 中国が高い経済成長を続けていくため、国際経済、国際金融上、必要なことは第一に、輸出競争力を維持していくこと、第二に、海外からの投資を高い水準に保つことである。
 実勢に比べて割安と言われる人民元のドルに対する実質的な固定相場は、競争力維持のためとされてきた。米国や東アジア諸国の元切り上げ要求も、人為的な競争力維持政策への批判に根差している。しかし、世界の製造拠点として成長したいま、為替相場がある程度元高に動いても、競争力が急速に低下することはないだろう。
 中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)と自由貿易協定(FTA)締結交渉を行っている。将来的には地域経済統合も想定される以上、通貨制度も整合的にしておかなければならない。
 アジア通貨・金融危機に見舞われた諸国はドルに連動する通貨制度から完全変動相場制に移行し、安定を取り戻した。ひとつの通貨に経済が翻弄(ほんろう)されることを避ける手法であった。変動相場制下では、為替相場が特定の通貨に固定されているため経済実勢からかけ離れてしまうという事態も避けられ、経済調整を円滑に進めることもできる。
 このことは、資本流入を安定的に維持することにも寄与する。経済運営が硬直的な国への投資はリスクが伴う。為替市場を通じた調整が進めば、リスク回避も円滑に行うことができる。現在、中国は厳しい資本取引規制で対処している。しかし、開放経済体制を推し進めていく以上、その規制は緩和せざるを得ない。
 中国は早期に為替制度改革の日程を立案すべきだ。まず、上下10%程度の幅を持った変動制に移行することが、現実的であろう。次に変動幅を拡大するとともに、資本取引でも投機的な短期取引を除き、自由化する必要がある。
 人民元の完全変動制は東アジア地域の通貨協力にも資する。ドル支配を緩和することが目指されている通貨バスケットや共通通貨に向けた基礎ができるからである。
 為替制度改革を着実に進めることが、中国にもアジアにも利益なのである。
 
 
 
 
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