日本財団 図書館


2002/11/16 毎日新聞朝刊
[社説]中国共産党 中華民族の前衛党とは?
 
 中国共産党の第16回党大会が閉幕した。江沢民前総書記ら70歳代の指導者が一斉に引退し、胡錦濤氏ら50〜60歳代に世代交代した。
 抗日戦争も国共内戦も直接知らない世代が、6600万党員の頂点に立つ。市場経済化の浸透で変容を続ける中国にふさわしい変化である。
 中国共産党のトップが党内抗争なく交代したのは、建国以来初めてだ。政治的成熟の証拠だが、惜しむらくは、党の政治局から引退した江氏が、党中央軍事委員会の主席に残り、画竜点睛(がりょうてんせい)を欠いたことである。
 トウ小平氏の例にならったのだろうが、未練なくやめていたら、トウ氏もできなかった功績だった。中国の軍は、国家に対してではなく、共産党に忠誠を誓う旧式な党軍である。党の最高指導者が軍の最高指導者を兼ねていないと、党の一元的指揮の原理は崩れる。
 とはいえ、13年に及ぶ長期政権を担った江氏の功績は大きい。89年、天安門事件の直後に政権の座についてから改革開放政策を進め、国内総生産(GDP)の2倍増を達成し、世界第6位の経済力となった。次の目標は7%成長を維持し2020年にGDP4倍増。米国に次ぐ経済大国である。
 党大会では江氏の提唱で党規約が改正され、「三つの代表」理論が追加された。プロレタリア階級の前衛党という一枚看板を共産党自身が持て余している、ということだ。共産党を「中国の最も幅広い人民の根本的利益を代表する」党だと定義して、階級性を薄めた。
 規約の前文部分に「中国労働者階級の前衛部隊」という古い看板を残しながら、「中国人民と中華民族の前衛部隊」というあいまいな新しい看板を追加した。
 入党を求める私営企業家を吸収するという建前だが、現実には共産党の高級幹部やその一族が私営企業の経営者となり、「官商癒着」によって富裕の道を歩んでいる。いまや有産階級化した党員の側が、資産家や私有財産の存在を認知するよう求めている。
 高度成長の実現が、共産党の立脚してきた理論を揺るがしている。「三つの代表」理論の成立過程で社民主義も研究された。
 だが、いきなり共産党が国民政党へ進むわけではない。党が「幅広い中国人民の代表」というのは、フルシチョフ時代のソ連共産党第22回党大会で提起された「全民党」を連想させる。一党独裁を前提とした「全民党」は、複数政党制下の国民政党とは別ものだ。
 胡総書記は、江沢民時代の「光」と同時に「影」の部分も引き継いだ。激しい貧富の格差、共産党幹部の腐敗、都市の失業者、農村の棄農。高まる社会不満を解決するには、政治体制の民主化を着実に進めるしか道はない。
 かつてプロレタリア階級政党は「階級の敵」を弾圧することで党の団結を維持した。新登場の「中華民族の前衛」党は、内外に「中華民族の敵」を作り出す過激な民族主義へ走らないか。それは避けてほしいものだ。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION