1999/11/17 毎日新聞朝刊
[社説]中国WTO加盟 法治の徹底で信頼構築を
世界貿易機関(WTO)加盟をめぐる米中交渉が合意し、中国の早期加盟が確実になった。
冷戦終結から10年。社会主義市場経済を目指す世界最大の発展途上国の加盟は、市場経済原則によって世界経済の発展を目指すWTO体制が、真にグローバルなものになることを意味する。
同時に、中国が推し進めてきた改革・開放路線にもはや後退がありえないことを世界に約束するものだ。中国経済のさらなる成長の原動力となり「21世紀の経済大国」が一段と現実味を増そう。
世界人口の2割を抱える中国は、経済規模、貿易量とも世界の3%を占める。関税引き下げや輸入数量制限の撤廃、貿易・経済制度の改善は、加盟国にとっても計り知れないメリットをもたらす。
グローバル経済の新段階を踏まえ、加盟国は今回の合意を、21世紀の通商システムを決める新ラウンド(多角的貿易交渉)のはずみにする必要がある。
WTO閣僚会議を目前に、13年にも及ぶマラソン交渉に事実上の終止符を打つ歩み寄りを実現させたのは、両国首脳の決断だった。
4月の朱鎔基首相訪米による交渉の決裂、ユーゴスラビア大使館の誤爆をきっかけに、中国国内では改革をリードした朱首相への反発が一挙に高まった。今回の交渉が決裂すれば、国内政治に深刻な亀裂を招きかねない状況だっただけに、江沢民国家主席が前面に出て、改革・開放政策を後押しする決意を示した。
米国内でも、巨大市場への期待を募らせる米経済界や農業関係者からの圧力が高まっていた。中国経済を世界経済に統合することで中国の政治改革をも促したいとの狙いが、米議会の中国批判を振り切り、クリントン大統領の決断になった。
米中関係の改善を象徴する歴史的合意が首脳自らの決断に待たねばならない現実は、残された課題の大きさを示すものでもある。中国への最恵国待遇(MFN)恒久化にはなお米議会の反発が強い。クリントン大統領の指導力発揮に期待したい。
より重い課題を背負い込んだのは中国側である。改革・開放で高度成長を実現したが、高関税と外国企業参入を規制する保護政策のもとで、非効率な国有企業を温存してきた。国際競争力の弱い中国企業にとって、安価な輸入品やサービスの普及は、短期的には赤字拡大や、リストラを迫る厳しい逆風となる。
すでに失業率は社会不安を引き起こしかねない危機ラインに達しているといわれる。そんな中で、国有企業、金融制度、行政機構の3大改革を、国内の動揺を防ぎながらどう果敢に推し進めるか。中国指導部には厳しい試練だ。
経済発展のかぎとなる海外からの投資を拡大するには、「法治」の確立が欠かせない。とくに地方政府による一方的な課税や罰金、規制、朝令暮改的な対応への先進国の不信は根強い。日本からの対中投資が停滞する背景に、そんな現実があることを直視すべきだ。
税制をはじめ国内法制の整備と、公平で透明な運用の定着を強く望みたい。WTOの基本は、ルールに基づく開かれた経済活動の保証にある。「法治」の浸透と実績の積み上げが、真の信頼関係構築につながることを強調しておきたい。
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