1999/08/04 毎日新聞朝刊
[社説]中国ミサイル 不安与える軍事強硬姿勢
中国が2日、新型大陸間弾道弾(ICBM)の発射実験を行ったと発表した。
ミサイルの性能については公表されていないが、米国務省は、射程8000キロの次世代ミサイル「東風31」と断定している。
米国は、7月にも東風31の発射実験があると見て、中国近海に観測艦や空母を配置して情報収集に当たっていた。予想されたことだと平静を装っているが、東風31が完成すると、米国の西海岸まで中国の核ミサイルの射程圏内に入ってしまう以上、無関心ではいられないのである。
東風31は、液体燃料から固体燃料になり、発射台に載せて移動することが可能になる。軍事衛星による監視が難しくなった。
弾頭は、複数の小型核弾頭を飛び散らせる多弾頭型で、米議会のコックス報告書は、この核の小型化技術こそ、中国が米国から盗んだものだと非難していた。
先月シンガポールで行われた米中外相会談で修復の緒についたばかりの米中関係は、これでまた冷え込むのではないかと見られている。
5日からジュネーブで始まる朝鮮半島和平4者会談への悪影響も心配である。
米国は、中国を巻き込んで朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)にミサイル発射を自制するよう求める構えだ。その矢先に、中国がミサイルを発射した。北朝鮮説得はさらに難しくなったのではないか。
さらに、中国の次世代ミサイル開発は、領土紛争で対立するインドの軍部を刺激するかもしれない。
ミサイル開発は、必然的に核弾頭の開発を誘発する。日本政府は、北朝鮮のミサイル発射に反対するだけでなく、中国のミサイル開発がアジアの緊張を高める危険性を持っていることについてもきちんと批判すべきである。
米露は、第2次戦略兵器削減条約(START2)で多弾頭型ミサイルを単弾頭型に転換することで合意した。多弾頭型ICBM保有を目指す中国の戦略は、核軍縮の流れを冷戦時代に逆戻りさせかねない。中国はむしろ率先して米国に戦略ミサイル削減を迫るべきだ。
もうひとつ気がかりなことがある。中国が今回のミサイル実験を台湾問題への政治的圧力に利用しようとしていることである。
米国が早期警戒機E2Tなど5億5000万ドル相当の台湾への武器供与を決めた直後に、米国まで届くミサイルが発射された。台湾独立を支援するなら核ミサイル攻撃を覚悟せよ、という中国の政治的なメッセージと受け取れる。それをあおるかのように、香港の中国系紙は「米国が介入したら、中国は戦争も恐れない」などと大々的に書き立てている。
1996年の台湾海峡危機の時にも、中国軍幹部が米国防総省高官に同様のメッセージを口頭で伝えたことがある。それがきっかけになってクリントン大統領は、台湾独立を認めないなど「三つのノー」発言に踏み切った。中国の強硬姿勢の背後には、この経験があるのだろう。
李登輝・台湾総統の「二国論」発言以来、中国は台湾の動向にきわめて神経質になっている。それは理解できるとしても、平和統一より、武力による軍事威嚇が目立つ。これではアジアの周辺国に中国脅威論が高まっても不思議ではない。
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