1985/08/02 朝日新聞朝刊
(社説)「過熱」なき日中経済交流を
昨年から今春にかけ、日中貿易はたいへんなブームにわいた。だが、ここへきて貿易不均衡が目立ち、対中輸出にブレーキがかかった。偶然とはいえ、その節目で第4回日中閣僚会議が開かれたのはよかった。
日本が製品やプラントを輸出し、見返りに石油、石炭、農産物を輸入するというのが日中貿易の構造。だいたい日本側の出超傾向にあるが、昨年は12億ドル余とこれまで最高の黒字を記録した。ところが今年上半期、すでにその倍以上の黒字が出ている。昨年夏には170億ドルもあった中国の外貨準備は100億ドルを割り込んだとみられる。
当然、今回の閣僚会議での最大のテーマは貿易の不均衡問題だった。
昨年の日中貿易は、輸入が対前年比17%増と順調だったのに対して、輸出が47%増と異常な伸びを示した。輸出のなかでも、乗用車11倍、冷蔵庫6倍、カラーテレビ5倍、洗濯機4倍と耐久消費財の異常な「突出」が目立った。
原因は、まず中国側にある。開放政策によって自由裁量の幅が広がった地方行政府や企業体が競って家電製品などを輸入した。根底にはどっと高まった中国国民の購買欲と、それをテコに生産意欲を高めたいとする指導層の近代化政策があるが、地方や企業の中には日本製品の転売で利ザヤかせぎをしようとする便乗組も現れた。
責任の一半は日本側にもある。貿易摩擦もあって米国やヨーロッパで売りにくくなった日本のメーカーが、中国市場へどっと押し寄せた。例によっての集中豪雨型輸出である。
中国政府の急ブレーキで、消費財輸出はほとんど止まっているという。こんどの閣僚会議で中国側は急激な政策転換を否定し、政府の計画にそった輸入は続ける意向を明らかにした。だが、あんな輸出ラッシュはもうないと考えた方がよい。
中国側は閣僚会議で、輸入抑制よりも輸出増加による「拡大均衡」を訴えた。建設途上の中国側は、日本から買いたい生産資材はたくさんある。問題は収支均衡上、日本が何を買ってくれるかだ。来年から更新される民間ベースの長期貿易取り決めでは依然、石油と石炭の買い付け増問題が焦点となろう。だが、ハイテク化をめざす日本としては無理な注文。当面は大豆、トウモロコシなど農産物輸入の拡大をめざすのが賢明だろう。
閣僚の個別協議の中で、日本向け作物開発の技術協力や商社などの輸入使節団派遣が合意された。望ましい方向だ。
貿易不均衡是正と並んで、中国側は直接投資と技術移転の拡大を要請した。日本は貿易ではトップを切っているが、投資・技術面では欧米に立ち遅れている。輸出環境が厳しくなる以上、産業界は合弁による現地生産化と真剣に取り組むべきだろう。「技術を教えると、後がこわい」というブーメラン効果恐怖症は、黒字大国に住む人間としては、なさけない話だ。
中国は「4つの近代化」政策で、21世紀までの20年間に生産力を4倍にするつもりだ。日本は積極的に協力し、将来は東南アジア諸国連合(ASEAN)と同様、高度化された中国工業との水平分業をめざすべきであろう。
一衣帯水、歴史的文化的つながりからお互いに思い入れが強いせいか、日中関係はとかく過熱しやすい。国交正常化以来13年、経済交流の面でも「過熱」はこれで3度目。山が高いと、谷も深い。交流も成熟段階に入ろうとしている今日、むしろ「ブームなき拡大」をめざすべきだと思う。
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