第8章 まとめ(課題と今後の改善方向)
8-1. 実験事業全体の課題と今後の改善方向
今回の実験では当初、実験の目標とした公共交通不便地区のモビリティ改善や移動ニーズに応じた路線設定(村内医院や日赤病院、八戸中心部等と居住地間の接続)ができたと考える。また、利用者アンケート結果をみても非常に便利との回答が多く、利用しやすい快適な公共交通サービスを提供できたと考える。(全体的には高評価であったが、運行便数の増加や最寄りの停車地の設置等についての要望があった。)
一方、今回はDRT事業単独の実験となり、移送サービス事業との予約センターの一元化等については見合わせる結果となった。また、現在、村で実施しているスクールバス、スケート、プールバス、福祉バス、などの交通サービスの統合については、実験としてはできなかったが、今後の方向は示せたものと考える。
(1)ユニバーサルサービス実現のための複数の交通サービスの統合
既存の公共サービス利用が不便な地区のモビリティの改善に加え、移動困難者及び軽度の障害者が利用できるコミュニティ型公共交通サービスの導入を検討する。
また、上記でカバーしきれない移動困難者に対し、ドア・ツー・ドアサービスを基本とする移送サービスの活用を検討し、複数モードによりユニバーサルサービスを実現していく。
[目標:複数の交通サービスの統合によるユニバーサルサービスの実現]
(2)基幹路線と村内アクセス路線の設定
生活の中心が八戸に向いていることを踏まえ、八戸市までの基幹路線を強化する。限られた需要を束ねながらより高いサービス(運行本数)の確保を図るため、福地村〜八戸間の基幹路線とそれへの村内アクセス線を設定する。
[目標:八戸市〜福地村の基幹路線の強化]
[目標:基幹路線(青い森鉄道、既存路線バス、基幹とするDRT路線)]
[目標:基幹路線とつながる村内アクセス線の設定]
(3)利用しやすく快適な公共交通サービスの提供
利用しやすい公共交通サービスを提供するため、基幹路線と村内アクセス路線の乗継ぎ利便性向上を図る他、終バス時間の繰り下げや、ワンコイン運賃(100円玉、500円玉)以内の運賃設定を検討する。
また、快適なコミュニティ空間を提供できるユニバーサル車両導入について検討する。
[目標:乗継ぎ利便性の向上]
[目標:ワンコイン運賃の検討(八戸〜福地間500円以内、福地村内100円]
(4)事業統合による持続する公共交通の構築
基幹路線へ接続する村内アクセスは各施設へのアクセスも兼ねるものとし、特に福祉バスとの統合を検討する。
ふれあいバスによる公共交通サービスは、全体的には高評価であったが、運行便数の増加や最寄りの停車地の設置等についての要望があった。また、予約のしやすさや運賃がバス利用において重要な項目とみられており、今後も留意していく必要がある。
●運行便数の増加(現在東線5便、西線4便)
●最寄り停車地の増設
●予約のしやすさの工夫(予約機会の拡大)
●利用しやすい運賃設定、一方、事業が維持可能な運賃設定
●青い森鉄道、既存のバス路線などとの接続の配慮を検討
各内容について、具体的な課題点と課題に対する対応策案を以下に示す。
(1)運行便数の増加
今回の実験では、特に西線において車両運用上の都合から、第4便(午後1時間から2時台の運行便)の運行ができず、東線のバス停車地まで歩いて乗った利用者もいたことから、西線でも第4便の運行をおこなうことが必要である。
また、実験では、午前10時台運行の2便、午後4時台運行の5便に利用が集中した。特に、5便の後にもう一便欲しい、といった声もあり、また、買物からの帰りが午後5時台の人も多いことから、午後5時台の増便についても検討する必要がある。さらに、今回の実験で想定し、また、実際の利用目的となった通院や買物、コミュニティ活動(娯楽)以外に、通勤・通学等の利用目的もサービス対象としていくためには、さらに、運行時間枠の拡大を検討する必要がある。
(2)最寄り停車地の増設
今回の実験では、多くの居住地から150mから300m圏内になるように停車地を配置したが、特に冬季は積雪や寒冷により歩行抵抗が高くなることから、さらに密度の高い停車地配置について検討する必要がある。
(3)予約のしやすさの工夫(予約機会の拡大)
今回の実験では、特に、携帯電話を持たない利用者のための帰り便予約方法として、村内医院からの電話予約が可能としたが、さらに、予約が可能となる施設、店舗を拡大させることが望ましい。さらには、運行中の車両からでも予約が可能となるようなシステムの開発も検討課題としてあげる。
(4)利用しやすい運賃設定、一方、事業が維持可能な運賃設定
今回、村内100円、基幹路線最大500円(変更後最大200円)の運賃設定については安いと感じている利用者がほとんどであった。今後も低廉な運賃を望む声、もう少し高くても良いから公共交通サービスを続けて欲しいとの両方の意見があるが、運賃はできるだけ抑えることが望ましい。一方、公共交通サービスを維持可能な運賃体系であることも重要であり、今後、本格運行に向けて、適切な運賃設定について検討していく必要がある。
今回の実験を踏まえ、今後の本格運用に向けた実験計画(システム)に関する課題点として、以下の4つがあげられる。
●予約センターにおける予約受付に関する作業時間
●予約締切〜車両運行までの時間(運転手への連絡・コールバック等)のロス
●無予約利用者の増加に伴う車両の追加方法
●移送サービスの予約管理システムでの利用時間枠のシステム化
各内容について、具体的な課題点と課題に対する対応策案を以下に示す。
(1)予約センターにおける予約受付に関する作業時間
⇒予約受付窓口に関する作業の効率化
○予約受付方法の改善
今回の実験では、予約受付及びコールバックの電話を1回線で行ったため、利用者の多い日では話中の時間が長く、電話がつながらないときが見られた。 電話以外の予約受付方法として、一般的に導入可能なものとして、FAX又はインターネットによる予約受付が考えられる。
しかし、対象地域の利用者層を考慮すると、インターネットによる予約受付は利用が見込まれないことが予想され、継続的な利用者向けには、FAXでの受付が有効であると考えられる。
また、バス車内での次回の予約受付に対する要望がみられ、IT技術を活用したバス車内での予約受付等の仕組みの検討が必要であると考えられる。
○電話窓口の作業効率化
今回の実験では、予約センター担当、予約希望者ともに不慣れなこともあり、予約時に必要な情報(氏名・連絡先等)の入力等に時間を要していた。
電話窓口での作業効率化に向け、NTTのナンバーディスプレイ等を活用し、システムに必要な情報等を取り込むような仕組みを構築することで、予約窓口の作業効率化を図ることが可能であると考えられる。
(2)予約締切〜車両運行までの時間(運転手への連絡・コールバック等)のロス
⇒予約運行管理システムに関する改善
○各種作業時間短縮による予約締切時間の見直し改善
実験開始当初は、予約センターにおける予約受付・運転手への運行ルートの伝達・予約者へのコールバック等の作業時間を考慮し、バス出発30分前(基幹バス出発90分前)に予約締切を行っていた。
今後の本格運用に向け、上記作業時間の短縮化により、予約締切から車両運行までの時間を短縮することが可能になると考えられる。
具体的には、運転手への伝達時間の短縮方法として、現状の手渡し又は出発地へのFAXから、運行車両へのFAXもしくは、車載機器でのオンラインでの予約受付状況の把握が可能となるようなシステム開発が考えられる。
また、コールバック時間の短縮方法としては、自動FAX送信やインターネット上での運行ルートの確定状況を提供する方法が考えられる。
ただし、対象地域の利用者層を考慮すると、インターネットの利用は見込まれず、自動FAX送信が有効であると考えられる。
(3)無予約利用者の増加に伴う車両の追加方法
⇒定員超過時における配車指示方法の取り決め
1月以降の実験改訂後、一部基幹バス区間で予約なしで乗車可能となった。
そのため、乗継ぎ便の予約をしていない方の利用によって、車両定員を超え、急遽、別の車両を手配するケースが見られた。
定員の多い通常のバス車両に変更することも考えられるが、対象地域の道路状況により、通常のバス車両が通行できないため、定員を超える利用者がいた場合、運転手・予約センターも含めた、追加車両の配車指示を行う作業手順を検討しておく必要がある。
(4)移送サービスの予約管理システムでの利用時間枠のシステム化
⇒IT技術の活用とともに、福祉団体の現状のノウハウを活用したシステムづくり
今回の実験では、対象車両が車いす乗車対応のため、車いす利用者にも利用可能であったが、実際の利用はみられなかった。
福祉車両の予約運行管理システムについては、通常の乗合バスと異なり、以下にあげられるような時間を加味した予約時間枠を設定する必要がある。
1. 病院等での診療時間(未確定)
2. 外出直前等、利用者の急な予定変更に伴う待機時間(未確定)
3. 送迎終了後の次の予約者までの迎車時間
3.については、GPSで収集した現在位置を元に、目的地までの所要時間を算出するシステムを構築することで把握が可能であると考えられる。
一方、1.2.については、ある時間をケースに応じた所要時間設定等を行う方法も考えられる。
移送サービスのシステムの構築には、福祉団体等にご協力いただき、これまでのノウハウを十分に把握した上で、予約管理を支援するシステムの構築に向け、検討することが望ましいと考えられる。
2005年4月
報告書冊子送付のご案内
石崎 聖一 様
謹啓 平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、平成16年度日本財団助成事業「高齢者・障害者に配慮した地域交通モデルの実現」につきまして、同封の通り報告書を取りまとめることができました。本事業にご協力頂いた皆様、ならびに日頃から当財団の活動を支援して頂いている皆様にご報告させて頂くと共に、この場をお借りしてご協力のお礼を申し上げます。
ご査収のほどよろしくお願い申し上げます。
謹白
お問い合わせ
交通エコロジー・モビリティ財団 バリアフリー推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町10 五番町KUビル3階
電話03-3221-6673 ファクス03-3221-6674 担当:岩佐、沢田
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