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 この[伊勢船型木造船建造記録書]は、日本財団及び伊勢市の助成を受けて行った平成16年度伊勢地域活性化に資する木造船建造技術の伝承事業」の課題の一つである伊勢の歴史ある木造船の復元に際して、その建造手法(技術)を子細に記録し技術伝承の手立てとするため作成したものである。
 
1. 伊勢船型木造船の歴史
 伊勢の大湊は、宮川、勢田川及び五十鈴川の三川によって出来た三角州に在り、宮川の上流は、杉及び槍等の造船用材に適した森林を豊富に有する大台ケ原山系をひかえ、また、宮川の水利を活かして造船用材を筏を組んで搬出することが、容易であることから、これらの立地条件に恵まれて、古くから、全国有数の木造船建造地域として発展し、そのなかから伊勢船型は生み出された。
 
 伊勢船型は15世紀代に確立され、16世紀初期に伊勢の大湊を中心に伊勢地方のみならず、西は瀬戸内海から東は関東地方まで広がり、戦国時代から江戸初一期にかけて大型荷船として最盛期を迎えている。
 
 また、いくさぶね(軍船)として石山本願寺攻め、朝鮮戦役等、また小田原攻めの料食補給船としても多数建造され、元禄元年(1688年)水戸光圀が蝦夷地探検のため建造した快風丸は、伊勢船型を採用している。
 
 江戸中期以降は、帆走性能を向上させた弁才船(船首材が一本材の千石船と云われている船)に大型荷船の地位を奪われた。
 
 大型荷船としての主役の座を譲った伊勢船型は、現代に至るまで主として各地の川船(利根川の高瀬船)等として継承されるが、昭和30年代まで伊勢湾、三河湾沿岸域の海運の主役を務めた伊勢団平船及び尾張団平船は、伊勢船型の流れを汲む船型であり、船首前端は、戸立構造、船底は、敷構造にて構成され、外板は、棚構造であるが、棚押えと称して肋骨を設置した西洋型構造と和船型構造との折衷構造の木造機帆船として建造されていた。
 
有限会社 出口造船所
 天保元年(1830年)創業の伊勢地方では、現存する最も歴史ある造船所であり昭和40年まで、伊勢船型の流れを汲む伊勢団平船(木造貨物船)を建造していた。
 
 伊勢型船は、船首材が、一本材ではなく、戸立(平板)にて造られている。
 
 船体構造は、棚板構造即ち、棚(外板)と敷(船底部材)により船体縦強度を担い、横強度は、横梁(船梁)により担う構造である。
 
(1)当時の伊勢船型木造船は、推進装置として、櫨・櫂・帆を装備する構造仕様であることから、推進装置を動力駆動機関(船外機 4サイクル・40馬力)にすることにより、動力駆動機関の振動の伝播を極力抑える構造とする。
 
(2)この船は、旅客船として使われる事から旅客の便宜のため旅客場所には、横梁を設けない構造とする。
 
 上記(1)及び(2)を伊勢船型の本来の構造仕様を損なうことなく補完する構造として屋形の柱(6本)を結ぶ、屋形柱支柱・敷押え・板子縦受け材・屋根の横梁・屋根の縦梁・手摺を各々一材にて構成し、且つ、連続性を持たせて固着し、船体の縦強度及び横強度の補完に役立たせ、動力駆動機関の振動の伝播を極力抑える事が出来た。
 
 
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船舶の長さ(全長) 11.26メートル
船舶の長さ(登録) 10.74メートル
船舶の幅(登録) 2.21メートル
船舶の深さ(登録) 0.86メートル
総トン数 2.0トン
航行区域 平水区域
用途 旅客船
最大搭載人員 23人(旅客:20人 船員:2人 その他の乗船者:1人)
船舶番号 第243-36701号
船体識別番号 JP-DKAH1611K4YA
推進機関 船外機:1機(4サイクル・40馬力・ヤマハ67CX)
最大速力 10ノット(公試運転成績)
航海速力 8ノット(公試運転成績)
 
 
建造工程
工程 工期 備考
(船体)
1 長尺木材の選定〜伐採 2月28日 宮川村春日谷山麓にて
2 長尺木材の乾燥
山から製材所への搬入
〜5月5日 枝付きのまま山麓にて乾燥
3 〜製材所での製材
〜製材木で造船所への搬入
〜5月24日
4 製材木の乾燥 〜7月19日 積み重ね造船所屋外にて乾燥
5 製作開始 7月20日
6 しき製作 〜7月24日
第1回 見学会 7月25日
7 木材の再度の乾燥 〜8月20日 乾燥不十分のため作業中断し、屋内にて再乾燥
8 製作再開 8月21日
9 しき据え〜みよし取り付け 〜9月10日
10 戸建付け 〜9月12日
11 中棚付け 〜9月16日
12 上棚付け 〜9月18日
13 スバン、しき押さえ、船梁取り付け 〜9月24日
14 船首尾隔壁付け 〜9月30日
15 船首尾甲板付け 〜10月2日
第2回 見学会 10月3日
16 板子敷き 〜10月7日
17 子縁付け 〜10月7日
18 屋形(柱、梁、桁、屋根板)付け 〜10月23日
19 船底塗料塗装 〜10月24日
20 櫓製作
(電気艤装)
〜10月23日
21 電気艤装
(機関艤装)
〜10月24日
22 船外機艤装
(完成〜検査〜引渡し)
〜10月23日
23 進水式 10月25日
24 JCI最終検査〜海上公試運転 10月26日
25 重心査定傾斜試験 10月26日
26 懸魚付け 〜11月10日 銅板にて製作
27 調整運転 〜11月12日
28 竣工披露〜引渡し 11月13日







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