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第5章 調査結果の総括
 ここでは、利用者及び海運事業者・関係行政機関等へのアンケート調査の結果を踏まえ、新型タラップの評価や、今後新型タラップを活用していくにあたって求められる改善点、九州各地及び全国への普及拡大に向けた課題・条件等を検討する。
 
1. 利用者からの評価と改善要望
(1)新型タラップについての評価
 利用者へのアンケート調査結果からみると、新型タラップの導入によって、概ね利用しやすくなったとの評価が得られており、特に高齢者からは、ステップ使用時の危険・怖さの軽減やスロープ使用時の段差解消などが評価されている。
 
■約7割が以前より利用しやすくなったと評価、また年齢が上がるほど評価は高い
 新型タラップが以前のものに比べて利用しやすいと評価する人は、「大変利用しやすくなった」と「利用しやすくなった」を合わせて約7割にのぼる。とりわけ、65歳以上の高齢者では約7割の人が「大変利用しやすくなった」と評価しており、新型タラップの設置により、特に高齢者の乗降の負担が軽減されたことがうかがえる。
 
■ステップについては半数以上が、スロープよりも危険や怖さが少ないと評価。また車両甲板に回らなくて済むことについては、高齢者の評価が特に高い
 ステップ使用時(急勾配時)に以前より利用しやすいと評価する人は約7割近くあり、以前に比べて利用しやすい点、利用しにくい点では、約5割の人が「ステップ(階段)式のため、踏み台が水平で、スロープより危険や怖さが少ない」をあげている。また、「潮位が高いときもタラップが利用でき、車両甲板に回らなくて済む」ことについては約4割の人があげているほか、特に高齢者の評価が高い。
 一方、利用しにくい点については、全体では「ステップ(階段)の傾斜がきつく、危険や怖さを感じる」が5%程度となっているが、高齢者は約1割と、他の年齢層に比べてそのように感じる人が多いことがわかる。
 
■スロープについて高齢者の半数以上が、つぎ目に段差がないことや幅が広いことを評価
 スロープ使用時(緩勾配時)に以前より利用しやすいと評価する人は約半数である。高齢者では約6割が「タラップの幅が広いので、利用しやすい」点を、約半数が「つぎ目に段差がないので利用しやすい」点を以前に比べて利用しやすい点としてあげており、特に高齢者の評価が高い。
 
(2)今後の新型タラップの活用に向けた改善の要望
 今後の新型タラップの活用に向けた改善の要望としては、アンケート調査の自由回答から大きく以下の5点があげられる。またこれ以外に、航路の本土側の港である伊美港へ新型タラップを設置してほしいとの要望もあげられている。
 
■さらなるすべり止め対策の実施
 スロープ使用時については、約3割の人が以前と比べて「タラップの床がすべりにくいので、利用しやすい」と評価しているが、晴天時に比べて雨天時はよりすべりやすい状況となることもあり、タラップの手すりにギザギザを付ける等のさらなるすべり止め対策を実施してほしいとの意見があげられている。
 
■ステップ時の一段一段の境目の明確化、及びすき間の改善
 ステップになることによって毎回ステップの高さを確認しながら乗降しなければならないこと、夜間は一段一段の境目が見えにくいことから、つぎ目に蛍光塗料を塗る等、より安全に乗降できる対策を講じてほしいとの意見があげられている。
 さらに段と段にすき間がある現状では、足が中に入る危険や、足元から地面が見えて恐怖を感じる、あるいは気になるといった意見があげられており、すき間にふたをしてほしいとの要望があげられている。
 
■雨よけ対策として、屋根等の設置
 以前のタラップにも現在のタラップにも屋根等の設備は付けられていないが、雨天時に濡れることなく乗降ができるようにタラップに屋根等を設置することや、待合室まで濡れずに乗降できる設備を設置してほしいとの要望があげられている。
 
■スロープ・ステップの適切な切替及びその周知
 例えば、潮位が高く急勾配時であってもステップではなくスロープに設定されていたり、逆に勾配が小さな時にステップに設定されていて、小幅なためかえってつまずきやすかったりすることから、ステップとスロープの適切な切替を求める要望があげられている。
 またスロープ・ステップのどちらに設定しているかが乗船客に周知されておらず、混雑時や荷物の多いなどで足元が見えない場合、ステップかスロープか分からず危険なことから、スロープ・ステップのどちらに設定されているか周知してほしいとの意見があげられている。
 
■高齢者・車いす利用者等の利便性の向上
 ステップ使用時は、高齢者や足に障害のある人が歩きやすい歩幅で進むことができないことや、車いす利用者が利用できないことが指摘されている。前者については、現在はステップの一段一段の幅が大きいため、それを小さく改善してほしいとの要望があげられている。
 
(1)新型タラップ(スロープ・ステップ切替式タラップ)の普及・導入の可能性と課題
 九州各地や全国への普及が期待されるとの回答は9割を超えている。その理由として、「取り扱いが容易であり、作業係員への負担が少ない」が7割強と最も多く、「潮位や船舶に合わせて、適切な方式に切り替えることができる」の7割弱をも上回っていることから、運用面での省力化・低コスト化が特に評価されている。
 しかし、実際に導入を検討するかどうかについて海運事業者及び市町村に所属する人にきいた結果、「ぜひ導入したい」との回答はなく、「導入を検討する可能性がある」が約3割、「導入は考えにくい」が5割弱となっている。これより、新型タラップの特長は認めながらも、実際の導入にあたっては、コストや諸条件との合致が問題となっていることが想定される。普及・導入に向けてさらなる改善が求められる点としては、低コスト化への意見が多いことから、導入段階でのコスト負担が大きな課題といえる。このほかの改善要望として、現状では車いす乗降時に補助者が3人程度必要となることから、これを削減するための改良や、雨よけとなる屋根・シェルターの設置等があげられている。
 
(2)新型タラップ(スロープ・ステップ切替式タラップ)の普及・導入に向けた支援策
 国、地方公共団体及び公益法人に所属する人へのアンケート調査結果では、新型タラップ(スロープ・ステップ切替式タラップ)の広報・啓発活動を検討したい人が半数強、補助制度を検討したい人が2割であった。これは国や地方公共団体の厳しい財政状況を反映したものと考えられる。
 
 最後に、本調査のまとめとして、新型タラップ(スロープ・ステップ切替式タラップ)の姫島港における今後の活用・改善や、九州各地及び全国へ普及拡大に向けた課題を整理する。
 
(1)姫島港における今後の活用・改善に向けた課題
 姫島港における利用者アンケート調査結果によれば、新型タラップの導入は、高齢者を中心として、多くの利用者から利用しやすくなったとの評価が得られている。今後、新型タラップをさらに活用・改善していくためには、さらなるすべり止め対策の実施、ステップ時の段の境目の明確化及びすき間の改善といったハード面の改良について検討するとともに、スロープ・ステップの適切な切替及びその周知といった運用面においても、継続的な改善を行っていくことが望まれる。
 また、伊美港への新型タラップの導入に向けた検討も期待される。
 
(2)九州各地及び全国への普及拡大に向けた課題
 九州各地や全国の港湾への新型タラップの普及・導入を検討する際には、姫島港との港湾の特性の違いが問題となるが、干満の差の大きな港であることと、比較的規模が小さく岸壁背後のエプロン幅があまりないなど、ボーディングブリッジや長いスロープの設置には支障があることが基本的な条件となる。
 こうした基本的な条件の一致する港湾においては、利用者、特に高齢者の利用しやすさや安全性・安心感の向上につながることから、新型タラップの普及・導入が強く期待される。
 普及・導入にあたって新型タラップは、運用段階での省力化・低コスト化において優れた特性を有するが、導入段階では従来のタラップよりコスト高になることが課題となる。このため、国・地方公共団体や公益法人等による補助・助成制度の拡充が期待されるとともに、これに伴う普及拡大により新型タラップの低コスト化が進み、さらなる普及・導入が進む、といった好循環の創出が期待される。
 また、新型タラップは、ステップ使用時に車いす使用者の乗降に対応できていないことから、補助者が必要となる。このため、車いす使用者や補助者の負担をできるだけ軽減するための技術開発や、海運事業者の職員等による乗降時の補助体制の拡充、一般利用者の協力を得やすくするための交通バリアフリー化全般に対する啓発活動等が求められる。
 国・地方公共団体や公益法人等においては、新型タラップの利点を海運事業者等に広く周知するため、広報・啓発活動を推進していくことも期待される。







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