昨年十二月二十六日、トウカイテイオーが優勝した中央競馬のグランプリ、有馬記念。レースの売り上げは七百八十九億円と過去最高を記録、オグリキャップの登場で始まった戦後幾度目かの競馬ブームが、不況下でも一向に衰えていないことを見せつけた。
主催する日本中央競馬会(JRA)の一九九三年の売り上げは、前年比四%増の三兆七千五百億円。五六年以来、三十八年連続の増収だ。同じ公営ギャンブルの競艇、競輪などがいずれも「九一年度が売り上げのピーク」(主管の運輸、通産両省)だったのに比べると、独り勝ちに近い。こんなに稼いでいるJRAだが、では、売り上げからファンに還元される「配当」は十分といえるのだろうか。
競馬をはじめ公営ギャンブルの配当率は、いずれも関係法が約七五%となるよう定めている。競馬の単勝、複勝は九一年三月から特別給付金名目で五%上乗せされ配当率八〇%となったが、売り上げの七割以上を占める連勝複式は馬券代の四分の一が天引きされているわけだ。この二五%のうち一〇%は国庫納付金として政府の畜産振興事業などに回され、残り一五%をJRAがレースの賞金や競馬場の改修、場外馬券売り場の開設などに使う仕組み。九三年決算でいうと、JRAが使えるお金は五千六百二十五億円に上る計算になる。
ところが、英国や米国の競馬配当率は八〇%以上に達するうえ、ブックメーカーと呼ばれる業者らが“胴元”になって主催者と併存。ブックメーカーはレースによって配当率を変えたり、結果が出る前に配当を決めておくなど、ファンの気を引く工夫を凝らしている。馬券も、その日の七つのレースの単勝を当てるものや、二頭を選び一―三着に入れば配当が出るものなど多種多彩だ。
「晴耕雨読土日競馬」をモットーにする競馬歴三十年の作家、石川喬司さんは「ファンの間には以前から配当率アップの要求が強い。それに、連勝複式は一、二着の着順まで当てる連勝単式に変え、海外諸国並みにいろいろな馬券も出して欲しい」と求める。
JRAは「投機熱、射幸心を過度にあおらないことを考え」ながら、馬券配当策を模索しているという。九一年には馬番連勝が導入されたが、ファンの間には「JRAは配当をいじったり、馬券の種類を増やさなくてもブームは続くと思っているのでは」の声も。あるべき配当の姿は、なかなか見えてこない。=つづく
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。