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沖の鳥島有効利用について。
文藝春秋「週刊文春」 山本 皓一
 日本の国境を特定する海域・地域で作今、様々な問題が生じている。北方領土問題もさることながら、中国・台湾と紛争のある尖閣列島、また韓国が実行支配している竹島(韓国名・独島)などは相手国との領土問題が関係しているため各国政府間での交渉を積極的に進め、主張しなければならない。
 特に海底資源や漁業権、また航空識別圏の特定など不透明な要因を解明・確定しなければならない。
 今年、11月には中国海軍の原子力潜水艦が先島諸島を不法に領海侵犯した。この潜水艦は日本の最南端・沖の鳥島をかすめ米海軍基地があるグアム島を強行偵察した疑いも持たれている。さらに中国の海洋調査船と称する正規海軍が日本近海を海底資源の調査目的で縦横無尽に遊弋している。
 沖の鳥島に関する問題は先述した「国境」とは違って「国土の消滅」の危険性を孕んでいることだ。沖の鳥島は長さ4km、幅2kmの珊瑚礁の中にある。満潮時にはこの島は水面下に沈み、わずか高さ60数mm、周囲2mほどの岩礁である。今後、地球の温暖化や潮流に浸食され完全水没の恐れも少なくはない。仮に沖の鳥島が海中に没することになれば日本の領土は大きく後退し、海洋資源、漁業権などの国益を損なうことになる。現在、コンクリートと鉄製のトライポットで侵攻をくい止めている。
 この沖の鳥島を日本の領土として保全する為には大きく分けてふたつの条件が必要とされる。
国土としての防衛の問題
 例えば自然現象を装った砲撃や岩礁融解薬品の使用など他国による人為的(島の)破壊消滅への対策。これには海上保安庁や海上自衛隊などによる監視体制の強化とショー・ザ・フラッグとしての人員の常備配置が効果的である。
 
国土としての有効利用の問題
 このポイントが最も重要なショー・ザ・フラッグの役目を果たすことにもなる。文化的、経済的、および学術的な有効利用として以下のことを提案したい。
 
●国際海洋研究所の最前線基地化をはかる。
 日本が主導権を握ったうえで世界各国の研究者が大同団結し研究所として沖の鳥島を開発する。温暖化や潮流、魚群探知、気性など地球規模の研究成果は日本のみならず、各国共同の利益として世界に貢献する。当然ながら拡充をはかるため相当規模の施設建設が必要。絶海の孤島、太平洋の荒波に絶えうる建設には逆転の発想をもって、岩礁の真上に設置すればよい。岩礁が建造物の一部に含まれていれば論理的に国土上とならないだろうか。また、水中2階、水上5階ほどの建造物を造れば、あるいは未来へ向けて海底都市としての実験も可能かも知れない。規模が拡大すれば研究所のみならず気象庁関係者や警備担当の人員も配備できるであろう。プロジェクトの軸となる研究所が実現すれば、それに付随する灯台や港湾設備、その他、海水から真水を生産する工場、ヘリコプター空港ができれば垂直離着機・ハリアー攻撃機などを改良した民間機開発によって本土からのアクセスも利便になる。
 また、漁業関係の研究成果として大型回遊魚の養殖や海産・海底地下資源探索、などの基地としても有効利用の可能性は増大するのではなかろうか。さらにこの海底海上都市をリゾート化すれば世界に類をみない観光開発も実現できる。
 もちろん、このプロジェクトにかかる資金は膨大であるが、国境の地に配備する軍事費や他国との軋轢に対する費用(例えばODA)を考慮比較すれば実現可能のように思える。
 地球規模で考慮すれば、近未来の国境地帯では軍事パワーで防衛するのではなく、相互乗り入れ可能な「地球の平和」を指針とする発想を持つべきではなかろうか。
 
 
 
文藝春秋 西本 幸恒
 この度は一方ならぬお世話になり、誠に有り難うございました。季節風の影響で大変な旅だったようですが、お蔭様で良い写真を撮影でき、山本さんも満足していました。小生は那覇でフィルムを受け取って東京にトンボ帰りし、山本さんは与那国島に向かいました。次回は小生も参加できればと思っております。
 前回(北方領土)では吹浦先生にお骨折りいただき、今回もすっかりお世話になってしまい、財団さんには感謝しております。今後とも宜しくお願い申し上げます。
 なお、今回の写真は予定通り木曜発売の「週刊文春」(12月9日号)に掲載されます。見本誌をお送りしておきますので、御一読いただければ幸甚です。
 取り急ぎ、御礼のみにて失礼します。
 
 追記:沖ノ鳥島の有効利用というテーマで、ひとつ。ここをタックスヘイブンに指定し、欧米系投資銀行の登記を承知するという案をふと思い付きました。他のタックスヘイブンと同様、実務は東京やNYで行うわけですから、登記を置いてもらうだけです。日本領土であることを海外に広く認めさせるには良いのではと思った次第です。
 単なる思いつきですが・・・。
 
 
 
「沖の鳥島」視察を終えて
小学館「週刊ポスト」 小笠原 亜人矛
 日本財団主催による「沖の鳥島視察団」にプレスとして随行取材させて頂き、本来ならば有効活用についての所見を申し述べなければならないのですが、同行された識者の方々以上の物など思い浮かべる訳もありません。
 そこで一個人としての素朴な感想を。幼少より地図を見てまだ見ぬ異国を旅する夢想をするのが好きだったので、日本の最南端が「沖の鳥島」であることは知っていました。しかし彼の地が東京都、郵便番号までありながら高潮時には海面上6センチの小島にすぎない存在とは思いもよりませんでした。またその地図上では点、いや実際にも大人一人で抱え込めるくらいの岩一つで得られる既得権益を考えた時、有効活用以前に島の存亡を危惧せずにはいられません。現在でさえ波による浸食と飛来物によっての破損を防ぐべく保全保護をしていますが、これはでは現状維持以上のことは望めないよう思います。
 産業革命以降の地球温暖化によりいずれ海面上昇した折り「沖の鳥島」消滅が懸念され、その日は近い将来確実に訪れるような気がします。国際法上の島の定義であるとか、経済活動を伴っているのかとかの見解は後生の人間に任せるとして、まずは既成事実を揺るぎない物として堅持することが早急に必要だと感じます。
 ただこの時、韓国による竹島駐留のような形を取ると国際的な賛同を得にくくなる恐れがありあくまで民間ベースが望まれます。それが商業目的がいいのか研究目的なのかの判断は識者に委ねますが、いずれにしても「沖の鳥島」の立地を考えた時国家的なバックアップ体制が無いと成立しないよう思われます。
 今回の「沖の鳥島」視察団派遣は対外的なアピールもさることながら、その実国民意識に訴えるよい契機になったのではないかと思います。
 週刊ポストの報道がその一助になれば幸いです。
 
 
 
沖ノ鳥島視察を終えて
講談社「FRIDAY」 中村 勝彦
 はじめに、今回の沖ノ鳥島視察を計画、実行していただいた日本財団の関係者の方々にお礼申し上げたい。この視察に同行させていただく機会を得られたことは個人的にも非常に貴重な経験となり、あの本当に小さな島(東露岩)に降り立つことで、「日本の領土、領海とはなにか」というものを強く意識することができ、日本の領海を取り巻く様々な問題を再認識することが出来た。
 日本は四方を海に囲まれた島国である。我々は海からの恩恵を受け、またあるときには被害を受けている。にもかかわらず海に関する問題意識は希薄であるように思えてならない。陸地だけでなく海も日本の「領域」なのだという意識となるとさらに希薄だ。その根底には「日本は安全な国」という意識があるわけだが、それももう過去の話と捉えるべきだ。他国の領土・領海内への侵入事件は後を絶たない。その最たるものは北朝鮮拉致事件である。
 視察を終えたばかりの12月10日には、沖ノ鳥島の南を中国船が領海侵犯するという事件が起きた。今年に入ってすでに18件、昨年に比べるとすでに10件上回っている。日本政府にいま必要なのは、国民の生命や財産を脅かす海の向こうからの脅威への高い危機意識と備えだ。
 沖ノ鳥島が日本にとってどれほど重要であるかは言うまでもない。中国は国連海洋法条約第121条の3貢を根拠に、沖ノ鳥島を島ではなく岩であるとしているが。沖ノ鳥島を経済活動の拠点とすれば中国の主張は意味をなさなくなる。(はじめに経済活動ありきだと反論も予想されるが)
 そのためにまずは現在無人となっている沖ノ鳥島環礁内の観測施設の充実を図り、
・石原東京都知事が表明している沖ノ鳥島近海での漁業の中継基地
(物資補給、緊急退避港など)
・地球温暖化などに伴う海面の水位変化の観測所
・さんご礁など自然環境の調査研究所
・地下資源の調査基地
などに活用し、経済活動の拠点とし監視員、観測員を常駐させたらどうか。名称も国が直轄管理していることを前面に押し出すような、「国土交通省沖ノ鳥島出張所」とでもしたらいい。そもそも、沖ノ鳥島近海で漁業をするなどと、都知事が言うべきことではない。まず先に政府が言うべきことである。漁業の助成金も東京都がするのではなく、沖ノ鳥島保全予算に計上すべきだ。ヘリポートも整備すれば非常時にも対応できるだろう。また、そのヘリや船舶を利用して島に渡り、日本の領土領海に理解を深める教育の一環として短期滞在の研修を行うことは出来ないだろうか。
 戦前、沖ノ鳥島には5個の露岩が確認されていたが、わずか70年ほどの間に3つがなくなってしまった。現在は大規模な保全事業により、辛うじて残された2島の損傷は最小限にとどめられている。だが現在一番危惧されるのは温暖化による島の「水没」である。グローバルな視点で環境問題を議論するのはもちろんだが、その先に領土の保全をも戦略的に見据えたうえで国内外に訴えていかなければならないと感じた。







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