沖ノ鳥島の有効利用について観光とレジャーの可能性を考える
フォトジャーナリスト・画家 浜中 せつお
国土交通省のパンフレットのキャッチフレーズにもあるとおり、沖ノ鳥島は日本最南端の島だ。そしてそれが大海原の中に忽然と現れる珊瑚礁の環礁なのだから、本来は十分に観光地と成り得る要素を持っている。今回の視察では波が高く、環礁は白く砕ける高浪に縁取られていたが、穏やかな季節の大潮の干潮時には、きっと違った印象を得られることだろう。
最南端クルーズ
日本人はことのほか最北端、最南端、岬の突端などを好むようだ。それなのに、これまで人々からこの島を遠ざけてきたのは、やはりその地理的、時間的な距離だろう。かりに小笠原、父島に空港が出来ていたとしても、さらに900kmの航海が必要だ。東京から沖ノ鳥島観光だけを目的としたクルーズも考えにくい。しかし、これまでにも外洋客船が立ち寄るかたちで島を巡り、乗客の目を楽しませた例があるように、外洋クルーズのコースに取り込むことはいつでも可能だ。
最近では船旅の魅力も再認識されつつある。たとえば東京を出発し、小笠原諸島を巡ってから日本最南端の島を一周、最西端の与那国島、西崎を見学し那覇に至るルートが考えられる。船長による最南端、最西端到達証明書の発行といった遊び心があれば、さらに面白い。航海をさらに続けて薩南列島を通り、日本列島南岸の岬を巡り東京まで戻れば、日本の領土の南側を大きく一周する5,000kmに及ぶクルーズになる。
遊漁での利用
リゾート地となった珊瑚礁のラグーンでは、熱帯の小魚を相手に気軽な釣りができ、初心者や子供も楽しめる。しかし沖ノ鳥島は観光の目的地とはなってもリゾート地には成り得ないため、ファミリーフィッシングには不向きだ。また、距離や現地施設の問題を無視したとしても、ラグーン内での釣りは控えたほうがいいだろう。孤立した島では、そこに居付いた魚を釣ってしまうと、生態の再生、補充が難しいからだ。ラグーン内はダイビングなどのエコ・ツーリズムの場とするのが最適だ。今回の視察に同行したテレビ朝日の竹内氏によれば、以前の取材時に環礁周辺で大型のカンパチやキハダマグロが認められたという。遊漁ではこれらを狙った大物の遠征釣りがこの島に向いている。海中の独立峰も外洋の回遊魚にとっては魚礁の役割を果たす。また、沖縄の魚礁などと違い、そうは頻繁に漁船や遊漁船が訪れることにはならないはずなので、釣行したのに魚がいないなどといった、漁場荒れによる当たり外れの問題も少ないだろう。
アメリカ西海岸のロサンゼルスからサンディエゴにかけては、「ロングレンジ」と呼ばれる船中泊可能な大型遊漁船を使った遠征釣りが盛んだ。長さが1,000km以上あるバハカリフォルニア半島沿いに南へ航海し、キハダマグロやヒラマサを釣る旅だ。半島を回り込みカリフォルニア湾まで入る旅には、三週間近くかけることもある。さすがに日本人にはこの長さは休みづらいだろうが、一週間あれば東京を母港に小笠原と沖ノ鳥島で釣りをするツアーも可能だ。フィリピン領とマレーシア領の南砂諸島では母船に船中泊し、曳航した小型ボートで大物釣りをするツアーがあり、最近では日本人もよく利用する。これなどは日本から釣り場まで片道が、飛行機と船で二日はかかる旅だ。モルジブやインドネシア、パラオなどへの遠征も、大物を釣りたい人にとっては、今では当たり前になっている。
最近では日本でも船中泊可能な遊漁船が建造られている。東京都の遊漁許可をもって、小笠原諸島と組み合わせたツアーを企画し、海外釣行より安くすれば釣り客を得ることも出来るはずだ。
環礁の保護、再生との両立
遠征の釣りでも、現地に宿泊施設があればさらに利用しやすくなる。環礁内をエコツアーに利用するならばなおさらだ。また、環礁を再生し、島を育てるためにも、現地に何らかの施設が必要になる。そこで考えられるのが作業架台の改築だ。現在の架台は老朽化が進んでいるため、そのままの利用は不可能だろう。しかし、新たな施設を作るにしても、現在ある架台の基盤を再利用することが、環礁にとっても一番優しい方法だろう。
3基の架台を再建し、東寄りの1基を海洋温度差発電などの海洋エネルギープラント、中央には研究者が常駐できる研究施設、レンジャー件ガイドが利用する管理棟と、ツアー客の宿泊施設を設ける。西側の1基は上面をヘリポートを兼ねた多目的広場とし、下面に小型ボートを懸垂収容する設備を設れば、荒天や緊急時にも対応できるだろう。
さらに環礁南側に穿たれた水路に水門を建設してはどうだろうか。海洋エネルギープラントをここに持ってくれば、作業架台の再建は2基で済む。また、外洋側に桟橋が設けられれば、研究者やツアー客にとって、さらに安全な利用が可能になる。日本最南端の環礁で珊瑚礁やそこに住む生物を観察し、島を育てる研究や海洋エネルギーの利用を見学できるエコツアーをぜひ実現したいものだ。
沖ノ鳥島の有効利用を目的とした視察団に参加して
NPO法人沖縄県ダイビング安全対策協議会 環境担当 副会長 横井 仁志
2004年11月24日(水)から28日(日)5日間の日程で沖ノ鳥島視察に参加して東小島の護岸堤桟橋前の海中に入り、15分ほど水中を見ることが出来ましたので報告します。
サンゴの種類について
六放サンゴ類
コモンシコロサンゴ・イタアナサンゴモドキ・ヤツデアナサンゴモドキ・ヘラジカハナヤサイサンゴ
八放サンゴ類
ウネタケSP
魚類
トゲチョウチョウウオ・シマハギ・シテンチョウチョウウオ・メガネゴンベ・アカモンガラ・ヤマブキベラ・アオノメハタ・リュウキュウダツ・サザナミハギ・シマスズメダイ
棘皮動物
クロナマコ・ニセクロナマコ・シカクナマコ・ガンガゼ
貝類
シラナミガイ
を確認する事ができました。
今回は那覇港から沖の鳥島までの行程において海上が時化ていたため、移動に時間が掛かりすぎ、沖ノ鳥島に到着したのが昼近くになってしまい、島に渡ってゆっくり見る時間が取れなく、水中に入る場所も、東小島の桟橋前だけとなってしまったので、島の実情を観察するまでにはいたりませんでした。
1988年に潜水した友人の沖ノ鳥島海中スライドを見たところ、水路から東小島に行く途中の水深5m付近の撮影にはミドリイシサンゴがたくさん写っているので次回にチャンスがあれば、この場所を確認して、その後のミドリイシサンゴが1998年の白化現象を乗り越えて大きく成長しているのか、見てみたいものです。シャコガイの中でシラナミガイだけが、高密度で分布しているが、他の、ヒメジャコやシャゴウ・ヒレジャコ等はこの島には生息していないのか確認もしてみたい。
東小島の上に細かい砂が堆積しているのをみて、北側の礁原部や礁嶺部、礁縁部のサンゴ礁が発達しているので、このサンゴ礫を利用して、砂礫が堆積するようにコンクリートで構造物を作り、これをビーチロック化して島の一部を形成する実験をすると良いのでは無かろうか?
南側のリーフエッジの一部に下に向かって穴が開いている場所がたくさんあるのでこの中も潜って調査をしてみたい、新たにめずらしい生物が見つかるかもしれません。
「沖ノ鳥島の有効利用を目的とした視察団」参加レポート
(財)日本海事科学振興財団 学芸部 展示船管理課長 福井 洋
事務局の皆さんお疲れ様でした。
始めに、今回参加させていただき気がついたことがありますので、レポートさせていただきます。
沖ノ鳥島の周辺海域の潮流が予想以上に早い。特に環礁周りの外海に出ればでるほど早くなるように思われ、15馬力のゾーディアックでも潮に流され、方位を保つのがやっとでうねりがあると前進することすら難しい。但し、環礁に接近すると急速に潮の流れは弱くなるが、潮の流れの方向が定まらない。これは、環礁の北側から波・風等により海水が環礁を乗り越え南に流れ出て、環礁の周りを回る潮流本体と合流している為、複雑な潮の流れが作られていると思われる。
また、環礁内も意外と潮の流れが早く、複雑な流れがあるよう思われる。今回、使用した15馬力のゾーディアックでは、船体が小さすぎ(長さ)パワー無い為、定員+機材の運行は危険と思われる。また、本船からゴムボートに乗り移る時、慣れないと落水・転倒など非常に危険と思われる。(乗船者の訓練も必要)
今回、乗船者の中にライフジャケット未装着がいた。聞くとウエットスーツを着ている為いらないと言われたが、事前の説明会では必ずライフジャケットの着用を義務付けていたはず?乗船前に一人一人確認が必要と思われる。
沖ノ鳥島の有効利用については、自然環境を保全するこが良いと思われるが、環礁内部の潮流から見て侵食が進む用に思われ、自然環境破壊にはなるが、環礁の北側等に消波ブロックを設置し潮流・うねり等を小さくすることでサンゴの成長を増大させ、やがて島になる?(何十年・何百年?)何かしないと、島・岩が消滅する。自然の力に人間の英知を加えることで、自然環境を守る必要があると思われる。特に、人間に荒らせれてない自然環境を残すことも、次世代に残せる唯一の財産ではないか。但し、40万km2の排他的経済水域(EEZ)を守る為に莫大な費用と時間の代償が必要であり、今後、開発よりも学識経験者や企業などに働きかけ、島としての形成を保つ研究が必要と思われる。
沖ノ鳥島視察を終えて
横浜掖済会病院 手術室 多賀 美香
今回、沖ノ鳥島視察団の保険係としてご一緒させていただきました。洋上での看護は未経験であり、この仕事が務まるのか不安な面もありました。
まず考えられることとして、船酔い、切り傷、刺し傷の外傷、また熱帯気候である為、熱射病、船の揺れによる転倒、転落の発生を予想しておりました。
実際には、船酔い:2名(2名は内服薬を渡した人数であり、他多数の方が船酔いされていた事と思います)、感冒:1名(軽度)、転倒:1名でした。
私も船酔いに悩まされ、充分に視察団の方々の健康管理が出来なかったのでは無いかと反省しています。
しかしながら、特に大きな怪我、病気無く視察を終えることが出来たことを幸いと感じています。
至らぬ点が多々ありましたが、日本財団、視察団の方々お疲れ様でした。今回の調査で沖ノ鳥島が有効的に活用されることを祈っております。
以上
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