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あいさつ
日本財団 常務理事 長光 正純
 この度、私ども日本財団では2004年11月24日から28日にかけて、日本最南端の島・沖ノ鳥島に民間で初めてとなる視察を行いました。この視察の目的は、様々な分野の方々にそれぞれの視点で沖ノ鳥島の現状を視察頂いた上で、この島とその周辺海域の有効利用の可能性を検討するためのものです。
 我が国にとっての沖ノ鳥島は、日本の国土面積をも上回る40万km2という排他的経済水域(EEZ)を有する大変重要な「島」なのです。近年の地球温暖化による海面上昇や波の侵食によって、「島」の存在が危ぶまれており、また、近隣国によるEEZ内での違法調査等も多発していることからも、沖ノ鳥島での経済活動を早急に検討しなければならない環境にあります。
 今回の視察団には、国際法、珊瑚、建築などの海洋の専門家や報道関係の方々にご参加いただき、それぞれの視点によるご提言をいただきました。本報告書は、それぞれの提言を報告書としてまとめたものです。私ども日本財団と致しましては、本報告書が今後の沖ノ鳥島とその周辺海域での有効利用を検討する契機となることを願っております。
 終わりに、沖縄の泊港から荒波の中、往復約80時間という航海を経ての過酷なスケジュールでの視察に積極的にご参加いただいた方々に感謝するとともに、本視察にご協力いただいた関係諸機関の方々に深く御礼申し上げます。
2005年2月
 
 
 
沖ノ鳥島の有効利用について
日本財団海洋グループ
 沖ノ鳥島を基点とした排他的経済水域(EEZ)を維持するために当面必要な課題等について次の通り検討を行う。
1. 問題点
(1)地球温暖化による海面上昇への対応策
 地球温暖化により今後100年間で40cmの海面上昇が予想されている。高潮時、沖ノ鳥島の北小島は16cm、東小島は6cmしか海上に出ない。島が水没しては領海すら認められなくなる。沖ノ鳥島が水没するのも時間の問題であり、早急に対策をとらなければならない。
(2)国連海洋法条約第121条3項で言うところの「人間の居住又は経済的生活の維持」に相当する明確でかつ継続的な事業の実施
 現在も沖ノ鳥島では、金属やコンクリートの耐久実験や気象観測などが行なわれてきたが、小規模であり認知度が低い。そのため、中国から「岩」であるとの指摘を受けている。国際的な場において「経済的生活の維持」であると評価される事業を実施する必要がある。
 
2. 検討
 まず、早急にしなければならないことは、日本の主張を対外的に示すため、わが国の発行する海図に排他的経済水域(EEZ)を記載することである。EEZを海図に示すことは国連海洋法条約でも定められており、EEZの主張をするためには不可欠である。
(1)サンゴ及び有孔虫の培養による砂浜の自然造成
 沖ノ鳥島リーフ内の潮流を研究し、吹き溜まりを作り砂浜の自然造成を行なう。砂の材料としてサンゴや有孔虫(星の砂)の培養を行なう。環礁内の一部に防波堤を造り、潮流に合わせ吹き溜まりが出来やすい状態にする。出来た砂浜には、即座にマングローブや熱帯性の低木を植樹する。2004年夏、南大東島(沖縄県)にて、台風により、一夜にして砂浜ができた例もあり、台風や高波の多い沖ノ鳥島では有効なプランと考える。
(2)灯台、電波航路標識および通信施設の整備
 沖ノ鳥島近海は、豪州と日本西部の港湾を結ぶ航路にあたる。この海域を日本が輸入する石炭の10%、鉄鉱石の6%が通過している。海図上、沖ノ鳥島が示されているため、船舶は沖ノ鳥島から離れて航行しているが、灯台があれば最短距離でかつ安全に日本への航路が取れる。また、灯台は世界中の海図に記載されるため、島の領有の明確な意思表示となるシンボリックなものである。
 沖ノ鳥島近海の漁業や気象観測を支援するため、機能が充実した通信機器の配備が望まれる。沖ノ鳥島近海の海洋データをリアルタイムで小笠原諸島などの漁業者に送付し、出漁判断のための情報提供を行なうことができる。また、台風発生に最も近い位置での気象データを取り配信し、針路等の予報に利用する。絶海の孤島であり、地球温暖化のモニタリングを行なう事が出来る。情報発信は、経済的生活の維持であると言える。
 
 (1)、(2)の実施のためには、ヘリポートの建設と現在ある観測施設を改築し研究者の滞在に耐えられるものにしなければならない。
 
 
 
沖ノ鳥島の再生と有効利用について
(財)シップ・アンド・オーシャン財団 海洋政策研究所 所長 寺島 紘士
1. はじめに
 わが国最南端の沖ノ鳥島の有効利用については、次の3点を中心に検討する必要がある。
(1)沖ノ鳥島の維持再生
(2)沖ノ鳥島の利用計画
(3)沖ノ鳥島の法的地位
 
2. 沖ノ鳥島の維持再生
 地球温暖化による海面上昇、風浪による浸食及びプレートの沈下によって、沖ノ鳥島は沈みつつある。このうち、一番影響の大きいのが地球温暖化による海面上昇で、今世紀中に40cmすると予想されている。このほか、風浪の影響は明確でないが、1952-1980年代に3つに小島が消失したといわれており、その影響も注意する必要がある。プレートの沈下の影響は100年間に1cm程度といわれており、その影響は小さい。
 高潮時には東小島が数センチ、北小島が10cmしか水面上に出ないとすれば、温暖化で海面上昇が20cmあればすべてが水没してしまうことになり、沖ノ鳥島の維持再生は喫緊の課題である。
 このような状況に鑑み、サンゴ、サンゴ礁地質、海潮流などの専門家を中心とした沖ノ鳥島の維持再生プロジェクトを提案する。
 具体的には、サンゴ、有孔虫の力を借りて島を維持再生することを目的として、沖ノ鳥島の主として島の東側半分を用いてサンゴ、有孔虫の成育を促進する方法の研究および実験事業の実施並びに本格事業実施の提案を行なうものである。研究及び実験は、11月の視察に参加した茅根、大森両氏を中心として行なうこととする。
 
3. 沖ノ鳥島の利用計画
 沖ノ鳥島の有効利用については、沖ノ鳥島で行なうことに意味のあるものを考える必要がある。このような観点から、沖ノ鳥島に上記2. の研究・実験を行なうための沖ノ鳥島地球温暖化対策サンゴ礁研究施設を設置することを提案する。
 地球温暖化による海面上昇で影響を受けるのは、沖ノ鳥島に限らず、太平洋上の環礁、卓礁の島に共通の問題であるので、この研究施設は、国内の研究者だけでなく太平洋島嶼国やオーストラリア等の国々の研究者にも参加を呼びかけて国際的な共同研究施設として運営するものとする。
 また、海底数千mから屹立しているその地形を利用して、深層水を利用した発電、淡水化、栽培などの複合プロジェクトも有力であり、この場合も沖ノ鳥島だけでなく太平洋の小島嶼国の開発利用にどう役立てるかを含めて研究課題とするのが望ましい。ただし、サンゴの生育は、貧栄養のところが適しており、栄養が豊かになると藻類が発生してサンゴが育たなくなるという。したがって深層水関係のプロジェクトを行なう場合には、上記2. の島の維持再生の研究、実験に影響がでないように留意する必要がある。
 その他、沖ノ鳥島には早急に灯台を設置すべきである。豪州航路の利用もあり、何よりも灯台の設置は、国が島の活用を重視している姿勢を示す基本的な意思表示である。
 
4. 沖ノ鳥島の法的地位
 沖ノ鳥島については、中国が、同島は「人の居住又は独自の経済生活を維持することのできない岩」(国連海洋法条約第121条第3項)であって、EEZ・大陸棚を有しない、と主張したことから、同島の法的地位が問題となっている。しかし、わが国が沖ノ鳥島をEEZ・大陸棚を持つ島とする解釈はあながち不当ではなく、現行国際法上では沿岸国の解釈が尊重されなくてはならない。
 しかしながら、国連海洋法条約に「岩」の定義がないために、第1項で定める「島」と第3項の「岩」との関係については学説が分かれている。そこで「沖ノ鳥島の国際法上の地位」研究プロジェクトを立ち上げてこの問題を研究し、わが国が不当に不利益をこうむらないようにすることを提案する。
 具体的には、国際法の専門家による研究会を組織して、国連海洋法条約第121条の成立過程における議論を整理するとともに、世界中に散らばっている沖ノ鳥島と同様な状況にある島(仏クリッパートン島、英ロッコール島、墨クラリオン島、ベネズエラのアベス島ほか多数)の状況と各国の実行を調査し、国連海洋法条約第121条の解釈、適用を研究し、その成果を内外に発表する。この研究では必要に応じて海外の専門家の意見も聴取する。
 この調査研究は、11月の視察に参加した栗林教授を中心として行うものとする。
(以上)







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