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日本のどこに結核が多いか−都市部に集中
 47都道府県(指定都市を除く)と12指定都市の合計59自治体の中で結核新登録患者数の多い順に並べると(表3), 全国患者総数の半数を占める地区は, 前年とほぼ同様, 11地区で, ほぼ大都市とその周辺である。東京と大阪が4分の1を占めている。ただし患者数, 罹患率とも微妙な動きも見られる。日本の結核患者の12.7%が東京都(特別区+都下)で, 12.3%が大阪(府+市)で発生しているが, 東京と大阪の順位は逆転した。罹患率では, 大阪市(68.1)が最高位で, 市内にさらに著しく高い地区もある(西成地区320, 浪速地区117等)。しかし全体として2年連続して改善を示した。2位は東京都特別区(37.5)で, 患者数も罹患率も前年より増えている。次は名古屋市(37.0), これに神戸市(35.9)が続く。東京都特別区では, さらに高い区もある(台東区120, 新宿区61等)。また埼玉県, 兵庫県, 千葉県, 愛知県, 横浜市, 静岡県, 福岡県等は罹患率が低くても, 患者の絶対数が多く, 対策上の課題が大きい。東京都, 東京都特別区, 横浜市, 静岡県, 福岡県は患者数, 罹患率共に昨年より増えた。これら以外で, 罹患率が全国の24.8より大きい地域は表の右側に並べた。患者数及び罹患率そして対策への取り組みの面から, 量的, 質的に地域の結核問題を分析する必要がある。昨年同様これらの地域の高齢者や若年層の割合, 外国人の割合, その他のリスク要因等で見た分析も必要であろう。
 
対策指標の動き
 対策に関するいくつかの指標で最近の動きを見ると(表4), 患者発見に関して, 症状発現後2カ月以上の受診の遅れ, 受診後1カ月以上の診断の遅れは, それぞれ18.8%, 26.0%でわずかに改善が見られるが, 更なる改善が必要である(『結核の統計2004年版』p57・表7)。治療に関しては, 治療コホート情報入力率は顕著に向上しているが、入力は評価の必須条件なので100%近くを目指したい。治癒と治療完了を加えた治療成功率は78.7%で, 前年よりわずかに悪化しており, この値も満足する値とは言えない(『結核の統計2004年版』グラビア17, p99・表26)。これ以外の対策指標に関してもその動きを各地域で分析すれば, それぞれの課題を見つけることができよう。
 
表3 新登録患者数及び結核罹患率の大きい県・市(2003年)
全国新登録患者数の半数までを占める自治体 左記以外で罹患率が全国24.8以上の自治体
県・市名 新登録患者数(人) 罹患率
(10万対)
新登録
患者累積(%)
県・市名 新登録
患者数(人)
罹患率
(10万対)
2003年 <2002年>
東京 4,029 <3,926> 32.7 12.7% 神戸市 544 35.9
東京都特別区(再) 3,129 <3,032> 37.5 (9.9%) 京都市 494 33.7
大阪府 2,091 <2,207> 33.8 19.3% 長崎 449 29.9
大阪市 1,789 <1,949> 68.1 25.0% 北九州市 282 28.1
埼玉 1,253 <1,528> 21.0 29.0% 岐阜 566 26.8
兵庫 1,212 <1,306> 29.8 32.8% 和歌山 280 26.5
千葉 1,168 <1,152> 22.9 36.4% 奈良 379 26.4
愛知 1,132 <1,161> 22.8 40.0% 川崎市 340 26.3
横浜市 928 <875> 26.3 43.0% 千葉市 231 25.3
静岡 852 <808> 22.5 45.7% さいたま市 267 25.2
名古屋市 812 <856> 37.0 48.3% 京都 295 25.1
福岡 796 <769> 29.8 50.8% 香川 256 25.1
          徳島 205 25.1
全国 31,638 <32,828> 24.8 100.0% (小計) 4,588  
 
新しくなった結核予防法や日本版DOTSの進展
 新しい結核予防法, 対策の動き, 日本版DOTSの内容や動きについては, グラビア11〜15に整理されている。患者や地域の状況に応じた様々なDOTSの取り組みの事例も示されている。
 
日本は国際的にはまだ結核中まん延国
 わが国の結核罹患率は, 西欧諸国のほとんどが10万対10かそれ以下であるのに比べ, まだかなり高く, それらの国の状態に達するにはさらに20〜30年はかかるであろう(図4)。これは, 主に結核の流行が遅れて始まった日本の歴史的背景によるためで, 国際的には結核中まん延国と言われ, 西欧先進国より対策上の課題が大きい。旧ソ連諸国や東欧諸国は, 対策の不備等により, 結核高まん延状態とも言える。
 
各自治体・保健所の課題
 罹患率は4年連続して減少したが, 3万千人以上もの新しい患者が発生していることは, 結核が国内最大の感染症として依然「結核緊急事態宣言」下にあると言える。各自治体, 保健所にとっても, それぞれの地域予防計画策定のためにも疫学的推移や問題の分析が必要である。「結核の統計2004」では様々な情報, 課題が示されている。結核担当者はそれぞれの地域の情報に加え, 長期間の疫学的推移, 対策指標を用いた評価, 他地区との比較など様々な分析・検討を行うことができよう。それにより発生動向調査の内容がさらに充実したものになろう。
 
 
表4 対策指標の動き
指標 2001年 2002年 2003年
2ヵ月以上受診の遅れ 19.2% 19.3% 18.8%
1ヵ月以上診断の遅れ 26.8% 27.2% 26.0%
コホート情報入力率 60.6% 73.7% 80.0%
喀痰塗抹陽性治療成功率 74.9% 79.1% 78.7%
 
図4 先進諸国の結核罹患率(2002年)
(WHO, 2003)*日本は2003年







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