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1989/02/23 毎日新聞朝刊
「葬場殿の儀」に続き「大喪の礼」 尾を引く憲法論議
 
 東京・新宿御苑で行われる昭和天皇の「大喪の礼」まであと一日。新憲法下では初めての天皇の葬儀であり、神式の皇室行事「葬場殿の儀」に引き続いて、無宗教による国の儀式「大喪の礼」が行われることから憲法の政教分離原則を中心に再開国会で政府と野党の間で憲法論議が続いている。政府は両儀式の法的な区別による政教分離を強調する一方で「両儀式の連続性」を期待しているのに対し、野党側は政教分離、国民主権など憲法の精神の厳格な順守を要求している。一連の儀式はこれからの先例となるだけに、来年秋に予定されている神式の大嘗祭(だいじょうさい)に対する国の関与の仕方や「象徴天皇制」のあり方をめぐって今後も論議が続くと予想される。
 国会の論議の中で浮上した主要な論点は1)政教分離が厳格に図られるかどうか2)神式行事の「葬場殿の儀」への三権の長らの参列は問題ないか3)神式行事への公費支出はどうか−−など。
 野党のうち共産党は「大喪の礼」と「葬場殿の儀」の両儀式を憲法違反として中止を求めているほか、社会党は両儀式を別の会場で行うなど徹底した政教分離を主張、公明党も政教分離の不徹底に不満を表明している。一方、民社党は政府案をおおむね支持するという構図だ。こうした立場の相違は両儀式への出欠ぶりに表れている。
 政府が神式の皇室行事への三権の長の参列や公費支出について「問題なし」とする根拠は津地鎮祭訴訟の最高裁判決(昭和五十二年七月)だ。同判決は憲法二〇条三項で禁止される国やその機関の宗教的活動について「行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進、圧迫、干渉などになるような行為」と限定的な解釈を示した。味村内閣法制局長官は十日の衆院内閣委で同判決を援用し「首相が公人の資格で儀礼的に参列しても宗教的意義を目的にするわけでもなく、(宗教を)援助するというような効果を持っているわけでもないので憲法に違反しない」との見解を示した。これに対して共産党の浦井洋議員が「葬儀の状況がテレビで放映されるなど国民の隅々にまで浸透するが、これは神社神道への計り知れない援助になる」(十日、衆院内閣委)などと反論したが、政府側との議論はかみ合わなかった。
 大喪についての憲法論議は当然、来年秋の即位の礼や大嘗祭が念頭に置かれている。特に大嘗祭は新天皇が「神格」を得て一人前の天皇となるとされる。これを国の儀式としてやるかどうかが今後の焦点で、十六日の衆院予算委で社会党の山口書記長が「神式のもとにおいて国が大嘗祭という儀式を行うことは許されない」という昭和五十四年の真田内閣法制局長官(当時)の政府見解について再確認を求める場面もあった。これに対して政府は“真田見解”について「検討の余地を残しており、確定的な見解ではない」(味村法制局長官)と今後、軌道修正があり得るとの姿勢を見せた。このため社会、共産両党は「政教分離原則のなしくずしが進みかねない」(社会党幹部)として、今回の両儀式に余計、神経質になっているわけだ。
 
 
 
 
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