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1989/01/08 毎日新聞朝刊
「天皇論」さまざま−−天皇ご逝去で世界のマスコミの論調
 
 世界の主な訪問やテレビは世界史に残る「天皇ヒロヒト」と歴史の一時期、日本の社会に根を張った「天皇制」について特集や社説、インタビューで詳細に分析した。その一部を紹介すると−−。
 「天皇は軍国主義政治家に対し“消極的な黙認”を与えた。戦争以前の天皇像は陛下の意思によってではなく、神格化されていた。天皇ヒロヒトの真価は戦後、人間天皇として国民の精神的シンボルとなったことで発揮された」
(米ニューヨーク・タイムズ紙)
 「過去六十二年間に米国では十一人の大統領が誕生したが、日本では天皇が一人その地位にあった」
(米ロサンゼルス・タイムス紙)
 「天皇は戦後の困難な時代、輝かしい発展の時代と同様、常に日本の変化を映し出す鏡の役割を果たしていた」
(伊コリエーレ・デラ・セラ紙)
 「世間と隔絶した操り人形か、あるいは好戦家か?彼が戦時に果たした役割については論争が続くだろうが、いずれにしてもこの人あたりのよい戦士は、すべてを失っても体面は保てるということを身をもって証明した」
(英国内通信社PA)
 「天皇個人のページだけでなく(過去の侵略的軍国主義の)歴史の本全体を閉じるにふさわしい時だ」
(ベルギーのリーブル・ベルジック紙)
 「日本のカイザーが百十一日間にわたった闘病生活のあと、おなくなりになった」
(西独夕刊紙ハンブルガー・アーベントブラット)
 「多数の日本人は彼(天皇)の死を悲しむだろうが、日本以外の多くの人々は悲しまないだろう。天皇の名前は第二次大戦中、アジアを侵略した日本人兵士のスローガンに使われた。中国や東南アジアの古い世代は、戦争中の日本人の残虐な行為に対する個人的責任が、依然彼にあると思っている」
(シンガポールの夕刊紙ザ・ニュー・ペーパー紙)
 「(天皇の戦争責任は)歴史家が事実を解明するだろう。それが彼らの仕事である」
(スイス・ジュルナル・ド・ジュネーブ紙)
 「現在世界は、様々な歴史的事件において天皇の役割と責任に関して日本で起きている激しい論議に再び注目している。これは昭和の全期間を通じてすべての日本国民がたどった道がどれほど平たんでなかったかということを改めて考えさせるものである」
(日本向けモスクワ放送)。
 「天皇在位期間中に、日本は対華侵略戦争、太平洋戦争を起こした」
(上海夕刊紙・新民晩報)
 「このつつましい学者的人物は天恵だったが、一九三〇年代には、軍国主義的政治家に対する彼の受け身の黙認姿勢は天恵ではなかった」「米国を含む太平洋の隣人に日本が押しつけた大混乱の責任の一端を負う」
(米ニューヨーク・タイムズ紙)
 「軍部の侵略主義の支持者だったのか、あるいは隠れた反戦主義者だったのかについては多くの論議が残っており、答えは出ないだろう」
(米ワシントン・ポスト紙)
 「昭和の天皇の死はシヨービニズム(排他的愛国主義)を呼びさます可能性があるが、日本の海外の利権にとってはこれは有害となる」
(タイムズ紙のヒュー・コータッチ元駐日大使の寄稿文)
 「日本はドイツと異なり第二次大戦の過去を明確に清算していないため、日本人の潜在意識の中には、長命を保った天皇が本当の戦争の勝利者だった、との認識が広がっている」
(西独DPA通信東京特派員電)
 
 
 
 
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