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動物プランクトンの昼夜の行動
 
 
 マリンスノーの中には有機物が含まれます。この有機物が深海にすむ生物の栄養源になりそして最終的には、バクテリアに分解されて、もとの無機物である炭素や窒素、リンなどになります。従って、一般的には深層の海水には、植物プランクトンの栄養となる窒素やリンが多く含まれます。つまり、海洋の表層で、植物プランクトンが無機物を有機物に変え、動物の捕食などを経て、その一部がマリンスノーとなって深海に運ばれ、微生物がその有機物を無機物に変えるというサイクルを形成しているのです。
 赤道域では、西に暖水塊、東に湧昇流があることが知られています。西側の暖水塊では、海洋の表層を温かい海水が覆っていますが、ここでは、栄養となる窒素などが枯渇しているために基礎生産が小さくなっています。
 一方、東側では、偏西風によって表面の海水が西に運ばれるため、それを補うように深層から海水が湧き上がってきます。このように深層から表層への海水の流れを湧昇流と呼び、これには植物プランクトンが必要とする栄養塩が多量に含まれているため、この海域では、基礎生産力が高まります。すなわち、この海域では、植物プランクトンによって気候温暖化現象の最大の原因であるといわれる二酸化炭素が多量に使われる(同化される)ことになるので、この海域での基礎生産量の変動を知ることは地球環境問題を考える上で、極めて重要なことなのです。なお、このように基礎生産が西側で低く、東側で高いといった不均衡な様相は、エル・ニーニョやラ・ニーニャによって大きく変動します。
 そこで、海洋科学技術センターでは、船舶により得られた海洋観測データやNOAAの所有する人工衛星(Orbview-II)に搭載された海色センサー(Sea WiFS)で得られたデータをもとに、これらの海域のクロロフィル量を調べ、特に赤道域における植物プランクトンが炭素循環に果たす役割を解明するための研究を行っています。
 
Chlorophyll a(mg/m3)
 
 太平洋の赤道上東経135度から西経170度までのクロロフィルaの鉛直断面図。東経160度より西(図で向かって左側)では、表層で硝酸塩が枯渇しているため、クロロフィルaが少なく、太陽の光が届きかつ、栄養がある水深80m付近に極大が見られます。一方160度より西では、湧昇の影響で深層から栄養が供給されるため、表層部分でも比較的クロロフィルaが多くなっています。この時(1998年12月)はラ・ニーニャであったため、湧昇域は、概ね東経160度まで広がってきていますが、この暖水魂と湧昇域の境界は、エル・ニーニョの時にはもっと東へ移動します。
 
(3)エル・ニーニョ現象の解明
 エル・ニーニョ現象についてはP2で述べたとおりですが、そのメカニズムを解明するために、トライトンブイなどを設置して、西部熱帯太平洋における暖水の集積と散逸の過程およびそれに関連した大気・海洋の相互作用に関する種々の情報を入手し、コンピューターによる解析を行っています。
 
アトラスブイにより得られた海面水温と海上風の分布
a)1995年12月 ラニーニャ時 (エルニーニョと逆の現象で、東太平洋で水温が通常より低くなる)
 
b)1997年12月 今世紀最大のエルニーニョ時







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