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終末期看護の実際
2003年1月23日(金)
在宅緩和支援センター「虹」
代表 中山康子
「終末期看護の実際」
在宅緩和ケア支援センター “虹” 中山 康子
 
1. 緩和ケアの定義(WHOの定義)
 “緩和ケア(Palliative care)とは、治癒を目的とした治療に反応しなくなった患者に対して行われる積極的で全体的なケアであり、痛みのコントロール、痛み以外の諸症状のコントロール、心理・社会的・スピリチュアルな問題の解決を重要課題とする。Palliative careの目標は患者とその家族にとって可能な限り良好なQOLの実現におく
 
 医療者はEnd-Of-Life Careを問題視しがちだが、患者は突然ターミナルステージになるのではない。
 身体に異常を感じたときから、病気に直面する個人を医療専門職としてどのようにサポートしていくかが大切。⇒継続看護(地域の中でどのように連携を効果的に取っていくか)
 終末期だけに目を向けていても今の問題は解決しないのでは?
 患者と家族への支援においては、その人(家族)の生き方を支える(またはその人の人生の集大成のステージを支える)という視点を持って看護職は関わっていくことが必要。
 
2. ターミナルケアに必要な要素
 
 病状の末期にいる患者とその患者を支える家族の身体的、心理的、社会的、スピリチュアルなニーズに対し、チームで対応する支援体制が必要とされる。
(1)疼痛及びその他の症状のマネジメント
(2)その人らしさを尊重した日常生活の援助(生活の質の維持)
・ターミナル期では身体的ニーズの中でADL、経口摂取量などが低下する。これは生命エネルギーが低下する過程で起こる自然なこと。口から食べたいものを食べたい量だけ食べたい時に食べる。
・バージニア・ヘンダーソンの『看護の基本となるもの』の14の基本ニーズをみ直そう!
例:排泄の支援が患者の延命につながり、望ましい姿勢を維持できるよう技術を提供することが看護に与えられた役割。この基本的なニーズの充足の支援を通して看護者は患者の『生』を最後まで支える。たとえ臨終真近でもマウスケア・安楽な体位の保持など私たち看護職には患者に(家族に)提供できるケアがある。
・援助者が変わっても同じ手順で日常ケアを提供できるように工夫する。快の追及。
(3)患者の意思の尊重
(4)チームアプローチ
・患者・家族の意思を尊重してチーム内でケア方針を統一すること。
(5)コミュニケーション
 患者 家族 医療従事者 この3者が充分なコミュニケーションを通して信頼関係を築くことが大切。安心できるチームに支えられていると患者・家族が感じること。
(6)家族のケア
 
§バージニア・ヘンダーソン
 看護者の役割は、患者が健康を維持するため、または患者が病気から回復するため、あるいは安らかな死を迎えるために人間にとって欠かせない活動を患者を補助して行いやすくすることである。
(1)患者の呼吸を助ける。
(2)患者の飲食を助ける。
(3)患者の排泄を助ける。
(4)歩行時および座位、臥位に際して患者が望ましい姿勢を保持するよう援助する。
 また、患者がひとつの体位から他の体位へと身体を動かすのを助ける。
(5)患者の休息と睡眠を助ける。
(6)患者が衣服を選択し、脱いだり着たりするのを援助する。
(7)患者が体温を正常範囲内に保つよう援助する。
(8)患者が身体を清潔に保ち、身だしなみを良く、また皮膚を保護するよう援助する。
(9)患者が環境の危険を避けるように援助する。
(10)患者が他人に意思伝達が出来、自分の欲求や気持ちを表現できるように援助する。
(11)患者が自分の宗教に基づいた生活が出来、自分の善悪の概念に従えるように援助する。
(12)患者の仕事あるいは生産的職業を助ける。
(13)患者のリクレーション活動を援助する。
(14)患者の学習を助ける。
 
 人は体力、意志の力、知識があれば自らこのような活動を行っている。
 
3. 『生』と『死』に対する医療者の姿勢(WHO緩和ケアの定義より抜粋);
 生きることを尊重し、誰にも例外なく訪れることとして死に逝く過程にも敬意を払う。死を早めることにも死を遅らせることにも手を貸さない。死が訪れるまで患者が積極的に生きていけるよう支援する体制をとる。
 
4. 患者の心理支援
 病者は様々な心理状態に否応なくおかれる
・衝撃
 
・否認
 
・怒り
 
・うつ
 
・疑念
 真の病状を知らされていない場合に自分の病状に関してや予後に対する疑いを抱くようになる。疑念は納得のいく答えが得られなければ無限に広がるという特徴があり、苛立ちの原因になる。看護職は患者が尋ねやすい雰囲気を作り、患者が今どのようなことに疑問を抱いているのか理解し、誠実に対応する必要がある。
 
・不安
 自分の病状を理解している場合でも、今後苦痛が起こるのではないか(予期不安)あるいは死の不安などを抱く。⇒信頼関係と充分な説明、本人(家族)が出来る事を見つける
 
5. いかにコミュニケーションをスムーズにとるか
○患者のコミュニケーション能力をアセスメントする
聴力・視力・文字の読解力・医学的知識・自己を表現する能力・家族内のコミュニケーションパターンなど
○患者のベットサイドで患者・家族と看護計画を立てる
○コミュニケーション技術
・絞り込んだ質問をする 「今、一番心配なことは何ですか?」「ご自宅での生活に関して一番気になっておられることは何でしょうか」
 絞り込んだ質問をすることで、患者は何が一番気になっていたかナースに話す中で自分の気持ちに気づくようになる。
・会話を促す
 うなずく、合いの手を入れる、「それで」「ええ」
・はっきりさせていく
 患者が曖昧なままの考えや思いつきを言葉に出きるように手助けする。「あなたのおっしゃりたいことが今一つ私にはまだわからないのですが、もう少し○○の部分をお話し頂けませんか」
・IF節の利用
・要約をする
 それまで話し合ってきた内容の要点をはっきりさせる効果がある。振り返りと今後の方向性を考えられるようになる。「今日は、〜について考えてみましたね。」
・沈黙する 間を置き、患者がじっくり考えられるようにする。
・スキンシップ Body Language
・患者の感情に手当てをする。
 「食べられないし、足も動きにくい・・・。」
「うん、思ったように食べられないし、足も動きにくくて・・・辛いね・・・。」
・希望 たとえささやかなものであっても希望につながる事を提示する。
 
<情報を提供する:医師との共同作業>
 医師の病状説明後に患者がどのように理解しているか確認し、患者の理解を促したり、患者が間違って理解したことを正す。患者が必要としている情報を提供する。(患者が自分のペースで最終的に真実を理解できるように導いていく。患者の言う言葉に耳を傾け、どんなことを知りたいのか掴む努力をする。「最近の身体の調子をどう感じておられる?」自由回答式の質問が良い)
 
事例;36歳 女性 胃がん
 
本人「食べたら全部吐いてしまった。小さなお饅頭を食べただけなのに・・・」
主治医「手術はうまくいって通っているけど、腸全体の動きが今は弱くなっているから吐くのだと思うよ。だから、今はがんばって食べるという事はしないほうが良いと思う。食べたいときだけ食べたいものを口にして。腸の動きが弱くなっている時に腸も苦しいからね。食べたい気持ちは強い?」
 
本人「そんなに食べたいわけではない。無理に食べないほうが良いのですね。」
主治医「無理には食べないほうがね。」
本人うなずく
本人「お尻がいたいんですけど、どうしてですか?」
主治医「お尻の痛みは胃の病気と関係してると思うよ」
本人「胃とですか?」驚いた表情
主治医「腸が詰まった事はがんの転移だと話したね」本人、主治医の目を見ながらうなずく
 
主治医「それとお尻の痛みは関係していると考えているよ」
本人「この痛みは転移という事ですか!?」
主治医「その可能性が高いと痛みの様子から考えている」
少し、時間を置いて
本人「病気は進んでいるってことですか?」
主治医:沈黙
看護師「前とは違ってきてるということかな?」
そっと本人に問いかけるように
 
本人;涙を流しながら「違ってきてるってことですよね・・・」とうなずく。「吐いちゃうし、痛みもあるしね・・・」
主治医「うん、状況が違ってきてるってことだね」静かに言う。しばらく沈黙。
本人:「痛みはどうすれば良いの?」
主治医が痛み止めの脱明、方針を理解し、
本人:「これからどうしたらいいかな・・・」
看護師「家に帰りたいとか何かこれからの事で希望することはある?」
本人「(自宅の事情を話し)私はここがいい。それよりも気になっている事があるの。」(会話が続く)







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