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III-3. 海外における変異型イチイヅタの繁茂・被害状況
III-3-1. 地中海での繁茂域拡大
 変異型イチイヅタ(キラー海藻)の繁茂は、1984年に初めてモナコの浅海域での1m2の群落がはじまりとされ、その5年後の1989年には1〜2haへと拡大した。その後、1997年にはモナコを中心とした沿岸10kmだけで3,000ha、その被覆率は90%以上となった。また、フランス以外には、イタリア、スペイン、クロアチアの3か国で1,500ha以上にまで繁茂域は拡がっていた。現在では、地中海域で13,000ha以上もの大群落を形成している(図III-6)。この群落の大部分は、変異型イチイヅタによる純群落に近い状態である。
 
図III-6. 変異型イチイヅタの被覆面積(地中海)
 
 数mmの藻体片からでも群落を形成することができること(変異型イチイヅタのみで見られる特徴的な無性生殖法)、成長速度が早いことなどから、わずか一片の藻体からでも1年後には7m2、2年後には28m2と、1年に群落は同心円状に直径約3mずつその被覆領域を拡大させる。
 
III-3-2. その他の地域への分布拡大
 地中海中心に繁茂域を拡大し続けてきた変異型イチイヅタ(キラー海藻)が、1990年代後半にアメリカとオーストラリアにおいて、生育が確認された。
 変異型イチイヅタが、2000年6月にアメリカで初めて、南カリフォルニアの2箇所(ロサンジェルス、サンディエゴ)で発見された。発見当時、生育分布は20万m2以上と広大であり、その面積からシミュレートすると、1995〜97年ごろの入植が考えられた。オーストラリアにおいては、1996年にブリスベーン、1999年にシドニーで発見された。
 
III-3-3. 地中海での問題点
(1)生態系への影響(植物相)
 変異型イチイヅタは、岩礁、砂礫、泥や他の植物の上など海底基質を選ばず、また、波浪の強さに関係なく入植する能力を持っている。その繁殖力の強さと成長の早さから、在来の植物相を破壊してしまう危険性は非常に高い。
 実際、地中海の藻場の重要種である海産顕花植物のPosidonia oceanicaCymodocea nodosaは変異型イチイヅタの繁茂域拡大に伴い、その分布を減少させている(図III-7)。P. oceanicaには、変異型イチイヅタとの競争において、防御反応を持つことが確認されている。形態上は、変異型イチイヅタと混在する場合に葉の平均長が短くなること、一株当りの葉の平均枚数が減少することが確認されている。しかし、この特徴がイチイヅタの付着基盤を減少させることには一役買うが、逆に、そのことがP. oceanica自身の現存量の減少を引き起こしてしまう。その後、イチイヅタに被覆された場合、群落が消失しやすくなるのである。さらに、P. oceanicaが枯死した後に残る地下茎は、変異型イチイヅタにとって藻体を固定するのに大変よい基盤となってしまう。
 
図III-7. 変異型イチイヅタによって消失したPosidonia oceanica藻場
 
(2)生態系への影響(動物相)
 変異型イチイヅタは二次代謝産物を持つ。これは、草食魚類、軟体動物、ウニ類の捕食者に対する化学的自己防御の役割を持っており毒として機能する。そのため、動物からの摂食圧はほとんどない。
 変異型イチイヅタに被覆されている海域と被覆されていない海域の動物群集の比較結果は、軟体動物・端脚類・多毛類などのベントス類ではその生育が撹乱され、変異型イチイヅタが存在しない海域と比べ、集団数、個体数、共に減少した。
 地中海の代表的なウニで、食品として最も消費量の多いParacentrotus lividusは、変異型イチイヅタの分布しない海域では213個体/m2と豊かだが、変異型イチイヅタにより被覆されている場所では0.2個体/m2と、ほとんど生息していない。
 
(3)経済的影響
1)変異型イチイヅタは、藻体を切断することが繁茂域拡大につながる(藻体片が次の群落を作るため)。そのため、イチイヅタ繁茂域の浚渫が不可能になっている。
2)食用ウニを初めとする水産物が減少した。変異型イチイヅタが分布することにより、魚介類の餌料となりうる小動物が減少するとともに、体内に持つ毒成分の影響で変異型イチイヅタ生育域における、魚介類等の卵の発生率が低下している。
 
III-3-4. 各国で講じられた対策
 アメリカでは、地中海での被害を踏まえ、1998年に、イチイヅタの流通についての禁止を求める請願書が、100人の研究者から政府に対し出された。それを受け、1999年、連邦有害海藻条例によってイチイヅタの輸入売買が禁止された。各種規制制定にもかかわらず、2000年6月に変異型イチイヅタの入植が確認された。その後、直ちに、政府・地方自治体・民間の専門家らにより、SCCAT(サウス・カリフォルニア・コーレルパ・アクション・チーム)が結成され、撲滅活動が始まった。また、同年、連邦植物保護法によってもイチイヅタは商取引を禁止された。そして、2002年にイチイヅタを撲滅した。一年経過後の2003年においても群落形成は確認されず、撲滅は成功したといえる。
 オーストラリアで見つかったイチイヅタは、地中海と同じ変異型イチイヅタ(キラー海藻)とわかり、2000年オーストラリアの検疫所が有害種として認定し、同種の所有、販売、輸入が禁止された。現在、被害地域は、監視下に置かれ、根絶計画が実施されている。また、ニュージーランドではオーストラリアでの被害を踏まえて、2002年、水産庁が植物安全法に基づき、イチイヅタの販売、飼育、頒布を禁止している。







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