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解剖学への招待 −私と献体 解剖学習を終えて−

 事業名 篤志献体の普及啓発
 団体名 日本篤志献体協会 注目度注目度5


解剖学への招待
私と献体
解剖学実習を終えて
平成15年度
(財)日本篤志献体協会
 
日本財団 The Nippon Foundation
 
献体の意味
 人間の生命には限りがありますし、寿命がきたりあるいは病気になれば、わたくしたちは必ず医師にかかります。その時、わたくしたちは医師にこの体のすべてをあずけることになります。
 わたくしたちの体のすべてを知るために医学や歯学の教育を受ける学生たちにとって人体を解剖する実習は絶対に必要です。しかし、この大切な解剖学実習に欠かすことの出来ない解剖体は決して充分ではありません。自分の死後の遺体を医学や歯学の大学へ解剖学教育や研究のために寄贈する献体は、このような意味から、医学、歯学のため、そして良い医師を作り出すためにまことに尊い意義あることであります。
 しかも、献体は自分の意志で、無償で行うことでありますから、社会にとってもこれ以上の善意はありません。
 
■会長挨拶
充実した解剖学実習と正しい献体運動
篤志解剖全国連合会会長 熊木克治
 
マクロにノイエスなし
 肉眼解剖学では新しいことはもう出てこない〈マクロにノイエスなし〉とさえ言われるようになって久しい。これは解剖学の実習では単に現在、臨床医学に必要なことだけ伝授すれば事足れりとする考えと同じといえます。将来の臨床医学、新知識に活かされることが期待できるものを目指した「充実した解剖学実習」が行われねばなりません。
 わたくしは二十年前に新潟に来たときに、新潟に「潟」の付く地名が多いことは当然ながら、同時に「山」の付く地名も多いことに疑問と興味が湧きました。自分の足での探検の〈旅〉を始めたのです。潟は信濃川と阿賀野川の下流にできた沼地や湿地、山は日本海に面して幾筋もできた砂丘によるもの、などというさまざまの発見がありました。全体を概観していくと、実に大きい地理と歴史が重なり合って見えてくることに感動しました。解剖学もこれとまったく同様だと思います。
肉眼から分子遺伝子レベルまでの形態学
 肉眼解剖学におけるヒトの体の「分節構造」、「二重の筒」などという原理や理論はヒトや動物を解剖し、発生学を調べて学者が直感によって作り上げてきたもので、実験科学で証明できないと思われてきました。しかし近年、ホメオボックス遺伝子という形を決める遺伝子が発見され、にわかに現実味を帯びてきました。一昨年秋、学術会議の形態科学シンポジウム「肉眼から分子遺伝子のレベルまでの形態学」で発表と討論の機会がありました。なるほどルネッサンスの時はさもありなんと感じる程の興奮を経験しました。肉眼解剖学と遺伝子のレベルの物語がつながっていくことは楽しい夢です。
セレンディピティと小発見
 白川英樹博士、野依良治教授、に続いて田中耕一フェローのノーベル賞に沸いた年でした。関連して「セレンディピティ:serendipity」という言葉を見聞きする機会が多くなりました。たまたまの予期しなかった偶然の小さな発見が基になって『偶然と洞察力によって』本来求めていなかった発見をする能力のことをいいます。上記の日本人のノーベル賞受賞者に限らず、フレミングのペニシリンやレントゲンのX線など多くの医学を変えた偉大な発見へつながるセレンディピティの物語は枚挙にいとまなしです。
 また朝日新聞のコラム「遠めがね 虫めがね」の欄で、数学者の藤原正彦先生が三人のご子息に日常の生活の中での『発見』を奨励し、「小発見」、「中発見」、「大発見」と査定して誉めておられることに関連した出来事を興味深く、科学することの楽しさという視点で書いておられます。
科学的解剖学実習へ
 医学、歯学の解剖学実習においても、この「セレンディピティ」、「小発見」の精神がとても大切です。単に人体をバラバラにしていく解剖から、楽しく充実した解剖学実習に高めていくことのできるキッカケになるのです。遺体の前で丁寧に黙祷を捧げて礼を正すことはもちろんですが、それ以上に、考えて解剖し、科学することこそが献体者の意志を活かすことに通じるのです。また、これは研究への第一歩でもありますが、特別のことはなく、実習室でやっていることをそのまま延長させていけば、研究につながるのです。研究は再び学生の教育にフィードバックされ、教育と研究を一致させることが大切です。大学ではこの両者がお互いに影響し合って切磋琢磨しているのです。幸いにも肉眼解剖学では大規模で高価な精密機械もいらない、メスとピンセットだけの作業です。学生も教授、研究者も同じ道場で解剖し、技をかけ合って試合に臨んでいるといえます。
解剖学実習を終えた学生は
 もちろん、物言わぬ献体者から、人生や人の生と死を哲学し、その心を学びます。
 解剖学実習を終えた学生はそれぞれの表現で、解剖学実習の意義と重要性を述べています。「毎日が新しい発見の連続」、「見たつもりとわかったつもりと、本当に見た、わかったとはちがう」、「解剖を通して人体の美しさに感動」、「生物、生命の神秘を感じた」、「百聞不如一見、百見不如一行」、「遺体は初めての患者さん」、「屍は師なり」。
献体実務担当者の研修会
 日本解剖学会では絶えず解剖学実習、教育のあり方が論じられています。全連でも最近の献体実務担当者研修会で繰り返し話題として取り上げています。すなわち解剖学実習と研究との関連について(第十七回、平成十一年、山形大医)、激動する医学教育における解剖学実習について(第十九回、平成十三年、順天堂大医)などです。さらにコメディカル教育における解剖学実習の必要性についても問題になっています。すなわち、解剖学実習の現況と法律問題を通してコメディカルの解剖学実習について(第十六回、平成十年、東京歯大)、公開シンポジウム「解剖学と献体、その新しい展開」(解剖学会と共催、第十八回、平成十二年、昭和大医)を企画して初めて直接にコメディカルの分野からの意見を発表する機会が作られました。第二十回、平成十四年、金沢大医では解剖学実習の環境に関する問題を討議しました。
 これらは「篤志献体」四十二号[全連総会三十回の記録]にまとめられています。
団体部会の研修会
 一方、ここには昭和五十一年以来の団体部会研修会の貴重な記録もあり、献体に関する変遷と現状、将来の展望を捉えるために大切なものです。献体の意義、理念の確認はもちろん直面する献体の実務上の諸問題、その他献体を取り巻く環境の変化、高齢社会などの現状と将来の展望や対策も絶えず検討せねばならぬ重要な問題です。臓器移植、脳死の問題、病理解剖や司法(法医)解剖などとの関係は、両立はしないけれども、どの道もなんらかの形で医学に貢献し、医学教育に参加できることなのです。少し肩の力を抜いて多様に考えることが必要です。遺骨や散骨、納骨や墓の問題も多様になり人の考えや気持ちも変化してきている現況です。
本人の意志と家族の同意
 本人の意志と家族の同意という二つの柱は献体の基本だと考えられます。もちろん死んでからは自分で歩いて大学へは来られないので、家族の理解は重要です。しかし特に前者の『本人の意志』は重要で、個人の意志に基づき大学に登録するだけで、なんら献体の団体はなくともよい、不要だというのが究極の理想だと思います。しかし現実には東洋的なウエットな関係、総会や集い、会報や手紙などといった親睦と啓蒙的な活動は必要なことだと思います。
英国における献体、解剖学実習事情
 かつて英国の中部ノッチンガム大学に留学していたとき(一九八〇〜八一年)、ここには総会も集いもなく、稀に大学へ登録にやって来る年配の人に出会うことがあるくらいでした。廊下の片隅には実際に献体した人々の名前を記念に書き入れた立派な名簿が備えてありました。誰が登録しているかなどは誰も気にもしていないようでした。下宿の近くの時々訪れるパブの女主人は「大学に献体の登録をしている」ということをポツリと話題にしたことがあったというくらいのものでした。
 一方、スコットランドのセントアンドリュースの医学部を訪問したとき、ちょうど遺骨の返還式に当たる日で、先生方は今日は一日かかっていろいろのキリスト教の宗派の様式に従って何種類もの追悼式を行ってやっと終わったところだとのことでした。
 正しいという答えはないのかもしれませんが、「正しい献体運動」と「医学、解剖学実習の充実」が車の両輪だと思います。全連はその両方の理解と発展を願って情報を収集し発信していく組織として尽くしたいと思います。
 
献体と人体解剖実習の将来
財団法人日本篤志献体協会理事長
東京医科大学名誉教授
内野滋雄
 
 日本の近代医学の夜明けは、山脇東洋が京都で刑死体を解剖し(一七五四年)「臓志」を刊行した時代に遡ります。また一七七一年に江戸の小塚原で腑分けを見学した杉田玄白、前野良沢らがオランダの解剖書「ターヘル・アナトミア」を翻訳し「解体新書」を著しましたが、これらは実際に自分の目で確かめた人体の構造と中国の図譜とがあまりにも違っていたため成されたものです。
 医学・医療は実証的な学問ですので、解剖学にしても図譜や模型での勉学だけでは目的を達することはできません。あくまで自分の手で解剖し自分の目で確かめた知識や経験が役に立つのです。江戸時代には「大患は一医に任ずべし」という教えがありました。重病人は一人の医師が責任をもって診ることが病人を救う道だということです。その時代は医師のみが医療の現場にあって、コメディカルという専門職の存在はありませんでした。
 ところが現代医学ではどうでしょう。医療の現場では医師の他に、看護師、臨床検査技師、理学療法士、視能訓練士等々、多くのコメディカルの専門職によるチーム医療が行われています。大患は一医に任ずる時代ではないのです。
 明治以来、医学・歯学の教育には解剖学と人体解剖実習が必須科目となり、全教科の中で最も多い時間数が当てられていました。コメディカルの教育の中でも解剖学は教えられていますが、人体解剖学実習は図譜や模型が多く、実際は人体を解剖して内部を詳細に観察することはなく、せいぜい一、二回の見学程度です。これではチーム医療を担うコメディカル教育は不完全であり、日本の医療水準をさらに向上させることは困難だと考えています。事実、多くのコメディカルの現場から人体解剖実習を望む声が大きく、そのため最近では全国の医・歯系の大学でコメディカルの方々に人体解剖実習が行われるようになってきました。しかしその恩恵を受けられる人数はごくわずかです。
 本誌も第二十四集からは内容が大きく変わり、コメディカルからも、救急業務に携わる消防学校の方からも感想文が寄せられ、実習の必要性と感謝の気持ちが熱く語られています。医療は医師・歯科医師の手によるだけではなく、多くの専門職のチームワークによって成り立っていることを再確認し、コメディカルが望む教育を提供することが医・歯系大学の使命の一つであろうと考えています。そのためには自らの遺体を捧げて下さる献体登録者の方々のご理解ご協力なしではでき得ないことであり、また、全国の解剖学教室のご協力がなければ実施できないことです。日本解剖学会の参加が予定されいる今年の篤志解剖全国連合会総会の成果に大いに期待しているところです。







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更新日: 2018年6月9日

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