(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年9月17日07時20分
福井県福井港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船新盛丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
25.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
294キロワット |
3 事実の経過
新盛丸は、平成9年5月に進水した、沖合底びき網漁業に従事する一層甲板型のFRP製漁船で、上甲板下は船首側から順に燃料油タンク、魚倉、機関室、船員室及び舵取機室などに区画され、上甲板上の船体中央部から船尾寄りにかけて、操舵室及び機関室囲壁などを有する船橋甲板室が配置されていた。
機関室は、長さ約5.6メートル幅約4メートルで、上段左舷側に配電盤を設置し、下段には、中央部に主機、左舷前部に主機駆動発電機、左舷後部にディーゼル原動機(以下「補機」という。)駆動発電機、右舷後部に電動遠心式の雑用兼ビルジポンプ(以下「ビルジポンプ」という。)を備え、主機の右舷下方にシーチェストを設け、同ポンプ海水吸入弁(以下「呼び水弁」という。)などを付設していた。
機関室のビルジ系統は、同室船尾に設けられたビルジだめのビルジが、ビルジポンプにより、ごみよけ箱、青銅製スイング逆止め弁(以下「逆止め弁」という。)、呼び径40Aのステンレス鋼鋼管製ビルジ吸引管及び同ポンプのビルジ吸入弁(以下「吸入弁」という。)を経て吸引され、吐出弁を経て右舷海面上の排出口から船外に排出されるようになっており、吸入弁とビルジポンプの間の吸引管には、呼び水用として、呼び水弁からステンレス鋼鋼管が配管されていた。
ところで、シーチェストとビルジ吸引管とが連絡する管装置では、逆止め弁にごみなどの異物がかみ込むなどして同弁の逆止め機能が阻害されたとき、呼び水弁及び吸入弁が開弁状態でビルジポンプが休止された場合、海水が同吸引管を経て、機関室に浸入するおそれがあった。
A受審人は、平成13年6月から小型第2種の従業制限を有する本船に乗船し、平素、1晩泊まりの出漁中に、1ないし2回の割合でビルジポンプを3ないし4分間運転し、その際、連続した排出を可能にするため呼び水弁を微開して呼び水を通水した状態としてから、吸入弁を開弁し、ビルジ排出後は、これらの弁をいずれも閉弁したのち、同ポンプを停止する手順で弁操作を行っていた。
新盛丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首1.6メートル船尾1.9メートルの喫水をもって、平成14年9月16日01時00分基地とする福井県福井港三国区を発し、04時30分ごろ同港北西方沖合の漁場に至って操業を開始し、探索を繰り返しながら投網を3回行ったところ、荒天模様となったので、18時ごろ操業を打ち切り、帰途についた。
A受審人は、20時過ぎビルジポンプを始動し、程なくビルジの排出を終えたものの、漁労機器の後片付けなどで停止することを失念し、船体動揺の激しい状況で帰港中、同ポンプの運転を続け、21時00分基地に入港したとき、機関室配電盤のスイッチで停止したが、それまで吸入弁及び呼び水弁の閉弁措置を失念しても大事に至らなかったことから支障ないものと思い、両弁を速やかに閉弁せず、上甲板上に出て水揚げ及び氷積みなどの次回の出漁準備作業に従事した。
新盛丸は、ビルジポンプが停止されたとき、逆止め弁に合成樹脂製の電線結束用バンドの切れ端をかみ込み、逆止め機能の阻害された同弁を経て、逆流した海水がビルジ吸引管を経て機関室に浸入し始めたものの、出漁準備を整えて係留岸壁へ港内シフトを行い、左舷付けで着岸したのち、22時ごろ主機を止めるため機関室に入ったA受審人がビルジを点検しなかったので、このことが気付かれなかった。
こうして、新盛丸は、A受審人が陸電に切り替えたのち、22時10分帰宅して無人の状態で係留中、機関室に海水の浸入が続き、翌17日07時20分三国防波堤灯台から真方位083度1,260メートルの地点において、帰船して機関室に入ったA受審人により、同室床上約0.3メートルまで浸水していることが発見された。
当時、天候は曇で風力1の南風が吹き、港内は穏やかであった。
その結果、A受審人は、帰船した船長に報告し、移動式水中ポンプによる排水作業を行い、新盛丸は、主機、補機、主機及び補機駆動各発電機並びに電動機などの電気機器に濡損(ぬれそん)を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件浸水は、機関室ビルジ排出後における、ビルジ吸引管系統諸弁の閉弁措置が不十分で、無人の状態として岸壁係留中、海水がシーチェストからビルジ系統に逆流し、異物をかみ込み逆止め機能の阻害されていた逆止め弁を経て機関室に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、入港して機関室ビルジの排出作業を終えた場合、海水がビルジ系統に逆流することのないよう、吸入弁及び呼び水弁を速やかに閉弁すべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまで閉弁措置を失念しても大事に至らなかったことから支障ないものと思い、吸入弁及び呼び水弁を速やかに閉弁しなかった職務上の過失により、岸壁係留中、海水がシーチェストからビルジ系統に逆流し、異物をかみ込み逆止め機能の阻害されていた逆止め弁を経て機関室に浸入する事態を招き、主機、補機、主機及び補機駆動各発電機並びに電動機などの電気機器に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。