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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 施設等損傷事件一覧 >  事件





平成15年門審第100号
件名

貨物船第十八青雲丸養殖施設損傷事件(簡易)

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成15年10月29日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長浜義昭)

理事官
半間俊士

受審人
A 職名:第十八青雲丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
養殖施設の幹綱、養成綱、係留索及びアンカーブロック等を破損

原因
水路調査不十分

裁決主文

 本件養殖施設損傷は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年10月21日05時01分
 岩手県宮古湾
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十八青雲丸
総トン数 499トン
全長 76.23メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット

3 事実の経過
 第十八青雲丸は、船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、木更津港で釜石、苫小牧両港揚げの鋼材を積載し、平成14年10月19日15時40分釜石港に至って揚荷役を行った。
 A受審人は、釜石港停泊中に九州南方海上にある低気圧が本州東岸沖合を北東進するとの気象情報を得たが、釜石港から苫小牧港の間で荒天となったときには、入港経験のある八戸港に避難すれば大丈夫と思い、八戸港以外の海域に避泊する必要が生じたときに備え、本州東岸の水路誌や漁具定置箇所一覧図を購入するなどして避泊海域の水路調査を行わなかった。
 ところで、宮古湾内には、宮古港検疫錨地の南方約300メートルから湾奥にかけてわかめ養殖施設(以下「養殖施設」という。)が設置され、その設置範囲は、宮古港藤原防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から113度(真方位、以下同じ。)660メートルの地点(以下「ア点」という。)、ア点から139度130メートルの地点(以下「イ点」という。)、イ点から218度495メートルの地点(以下「ウ点」という。)、ウ点から130度465メートルの地点(以下「エ点」という。)、エ点から217度365メートルの地点(以下「オ点」という。)、オ点から308度465メートルの地点(以下「カ点」という。)、カ点から223度415メートルの地点(以下「キ点」という。)、キ点から133度95メートルの地点(以下「ク点」という。)、ク点から216度90メートルの地点(以下「ケ点」という。)、ケ点から130度150メートルの地点(以下「コ点」という。)、コ点から223度395メートルの地点(以下「サ点」という。)、サ点から317度370メートルの地点(以下「シ点」という。)及びア点の各点を順次結んだ線に囲まれた区域で、ア、シ両点に各1個、及びア、シ両点の中間付近に2個の光達距離約4ないし3海里で黄色4秒1閃光の灯付浮標が、同施設の北西側を示すようにそれぞれ設置されており、本州南・東岸水路誌、プレジャーボート小型船用港湾案内(本州北岸・東岸)及び漁具定置箇所一覧図第6に同施設の位置が記載されていた。
 こうしてA受審人は、翌々21日00時40分鋼材1,353トンを載せ、船首3.25メートル船尾4.40メートルの喫水をもって、苫小牧港に向け釜石港を発し、01時20分出港操船を終えて降橋した。
 A受審人は、03時20分ケ埼(とどがさき)灯台の東1.1海里沖合で、波の衝撃を感じて昇橋したところ、すでに時化模様となっていたので、入湾した経験のない宮古湾に海図第54号を頼りに避泊することとしたが、水路調査不十分で、宮古港検疫錨地の南方300メートル付近から湾奥にかけて養殖施設が存在していることを知らないまま、同検疫錨地に向かうこととし、03時52分閉伊埼灯台から126度3.0海里の地点で一等航海士と船橋当直を交替し、同人を見張りに就け、針路を宮古湾に向けて325度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.1ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 A受審人は、04時05分機関を7.3ノットの港内全速力前進に減じ、同時11分閉伊埼灯台から057度1,800メートルの地点で針路を298度に転じ、同時18分少し過ぎ同灯台から000度1,780メートルの地点で針路を237度に転じ、以降、機関適宜として5.0ノットの行きあしとし、同時29分少し前同灯台から304度1,630メートルの地点で針路を217度に転じて続航した。
 A受審人は、04時47分わずか前防波堤灯台から035度1,920メートルの地点で針路を検疫錨地に向く198度に転じて手動操舵とし、同時55分同灯台から062度800メートルの地点で、錨泊を予定していた同錨地に至ったものの、思いのほかうねりが高く、約0.5海里前方を先航していた漁船が同錨地を通過して湾奥に向かうのを認めたこともあって、より静かな避泊海域を求めてさらに湾奥に向かうこととし、依然、水路調査不十分で、左舷船首9度650メートルのア点灯付浮標の灯火に気付かないまま、針路を181度に転じ、一等航海士を船首に配置して単独で手動操舵にあたり、3.7ノットの前進行きあしで進行した。
 A受審人は、05時00分防波堤灯台から107度740メートルの地点でレーダーを見て宮古湾東岸に沿うよう、針路を212度に転じ、養殖施設に向首したことにも、右舷側至近のア点灯付浮標にも気付かないまま、原速力で続航中、05時01分同灯台から116度720メートルの地点において、養殖施設に乗り入れた。
 当時、天候は雨で風力5の北風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、日出時刻は05時47分であった。
 A受審人は、投錨作業を開始し、05時10分防波堤灯台から169度1,050メートルの地点に錨泊したのち、同時40分薄明の中に自船の周囲に養殖施設を視認して、ようやく同施設に乗り入れたことに気付き、事後の措置にあたった。
 その結果、船体に損傷はなかったが、養殖施設は幹綱、養成綱、係留索及びアンカーブロック等を破損した。 

(原因)
 本件養殖施設損傷は、本州東岸沖合を低気圧が北東進する気象情報を得て、釜石港から苫小牧港へ向かうにあたり、避泊海域の水路調査が不十分で、夜間、宮古湾内の養殖施設に向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、本州東岸沖合を低気圧が北東進する気象情報を得て、釜石港から苫小牧港へ向かう場合、入港経験のある八戸港以外の海域に避泊する必要が生じたときに備え、釜石港停泊中に本州東岸の水路誌や漁具定置箇所一覧図を購入し、それらにあたるなどして避泊海域の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、八戸港に避難する予定なので大丈夫と思い、避泊海域の水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、夜間、海図第54号を頼りに、入湾した経験のない宮古湾の宮古港検疫錨地で避泊するすることとし、同湾内に設置された養殖施設の状況を知らないまま、より静かな避泊海域を求めてさらに湾奥に向かい、養殖施設に向首進行して同施設に乗り入れ、同施設の幹綱、養成綱、係留索及びアンカーブロック等を破損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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