(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年11月28日22時00分
沖縄県那覇港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートハヤブサII |
全長 |
5.84メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
29キロワット |
3 事実の経過
ハヤブサIIは、平成6年6月に中古船として購入されたFRP製プレジャーボートで、セルモータ付船外機(以下「船外機」という。)として、ヤマハ発動機株式会社製の6H4-L型を備えていた。
ところで、船外機の始動方法として、停止、運転、始動の3位置に切替えができるメインスイッチを、運転の位置から始動の位置に回すことにより、セルモータを回して始動させる電気始動と、メインスイッチを運転の位置にし、その後、船外機の蓋であるトップカウリングを外し、フラマグカバーのボルトを取り外して同カバーを取り出し、フライホィールロータの切り込みにロープを掛け2ないし3回巻き付け、そのロープを引っ張って始動させる手動始動とがあり、手動始動の要領として、一度ゆっくりロープを引っ張り、ピストンが移動して圧力が掛かり重さを感じる状態としたのち、ロープを勢い良く引っ張る必要があった。
一方、船外機の電気系統は、直流電圧12ボルトの蓄電池1個を電源とし、始動系電気回路と点火系電気回路とで構成され、両電気回路はそれぞれ独立しているため、始動系電気回路が断線しても手動始動が可能な状態となっていた。
A受審人は、昭和54年8月24日に四級小型船舶操縦士の免許を取得し、同57年以降5月から11月にかけて、平均して月に3ないし4回、沖縄県那覇港の沖合で夜釣りを行っていたものであるが、船外機が手動により始動できることを知っており、平成14年11月25日に蓄電池を交換したとき、蓄電池の接続端子2個に錆が生じており、そのまま使用すると接触不良となってセルモータによる始動ができなくなるおそれがあったものの、これまで電気系統に不具合が生じたことがなかったことから、接触不良に至ることはないものと思い、予め始動要領を含めた船外機の手動による始動方法を十分に把握することなく復旧していた。
こうして、ハヤブサIIは、A受審人が単独で乗り組み、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、同年11月28日17時00分同県那覇新港船だまりを発し、同時30分ごろ那覇港新港第1防波堤南灯台から真方位240度1.5海里の地点付近の釣り場のポイントに錨泊したのち、船外機を停止して釣りを始めた。
その後、A受審人は、釣り場のポイントからずれていたので、同ポイントに向けて移動することとし、船外機のメインスイッチを回してみたものの、蓄電池の接続端子の接触不良で始動できず、手動により始動しようとメインスイッチを運転の位置にし、船外機の蓋を外してフラマグカバーを取り外したのち、始動ロープを引っ張って何回か始動を試みたが、手動始動の要領が分からなかったため、船外機を始動できず、22時00分前示の地点において、手動による始動を断念した。
当時、天候は晴で風力3の東北東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、携帯電話など通信手段を所持していなかったため、救助の要請ができずに錨泊中、翌29日08時40分ごろ家族からの連絡を受けて捜索中の巡視艇に発見され、ハヤブサIIは、那覇港三重城船だまりに曳航された。
A受審人は、後日、依頼した修理業者からセルモータによる始動ができなかったのは、蓄電池の接続端子の接触不良によるものであったと知らされた。
(原因)
本件運航阻害は、セルモータ付船外機を運転する際、手動による始動方法の把握が不十分であったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、セルモータ付船外機を運転する場合、蓄電池の接続端子の接触不良などにより、セルモータによる始動ができなくなることがあったから、発航前に始動要領を含めた船外機の手動による始動方法を十分に把握しておくべき注意義務があった。しかしながら、同人は、電気系統に不具合が生じたことがなかったことから、蓄電池の接続端子が接触不良に至ることはないものと思い、発航前に始動要領を含めた手動による始動方法を十分に把握しなかった職務上の過失により、セルモータによる始動ができなくなったとき、手動による始動ができず錨泊したまま救助を待ち、捜索中の巡視艇に発見され曳航されるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。