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平成15年広審第87号
件名

貨物船ニューしんこう丸運航阻害事件(簡易)

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成15年11月14日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄)

理事官
平野浩三

受審人
A 職名:ニューしんこう丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:ニューしんこう丸機関長 

損害
浅瀬に乗り揚げ、運航が阻害された

原因
水路調査不十分

裁決主文

 本件運航阻害は、水路調査が十分に行われなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年1月21日14時20分
 愛媛県西条港
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船ニューしんこう丸
総トン数 195トン
全長 55.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット

3 事実の経過
 ニューしんこう丸は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人及び船主のB指定海難関係人とその息子との3人が乗り組み、石膏550トンを載せ、船首2.60メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、平成15年1月21日14時10分愛媛県西条港を発し、兵庫県赤穂港に向かった。
 ところで、西条港は、西条市内を流れる本陣川河口に築造され、河口両岸から沖に埋立てられた造成地の東西護岸間に北方に開口した水路が設けられていた。そして、水路の中間付近から港口にかけて両護岸から浅瀬が張り出し、その可航幅が100メートル余りに狭められた状況であった。この状況を考慮して本船備え付けの港湾資料には、その出入港の針路法に関して港口付近の水路口の左右舷を示す西条港第1号灯浮標及び同2号灯浮標(以下、単に「灯浮標」という。)と港奥の西条港導灯(前灯及び後灯)とによって水路の中央をこれに沿った針路で航行すべき注意が記載されていた。
 ところが、A受審人は、当時月1回の割合で西条港に出入港していたことから、同水路内に浅い所があることを知っていたが、護岸寄りが浅く出入航に支障となるほどまで浅瀬が張り出していないと思い、所持していた港湾資料などによって水路調査を十分に行わなかった。
 一方、B指定海難関係人は、約35年もの長い内航船の乗船経験を有し、当時船主兼機関長として乗り組んで離着岸時の操舵も行うなど運航に直接携わり、船長が係留作業を行う体制を採っていた。そして、同作業を終えた船長の昇橋を得て針路法や操船法などのアドバイスを適宜受け得る体制で操舵を行っていたが、同人に対して出入航する港湾等の水路調査まで求めるには至っていなかった。
 こうして、A受審人は、船尾での離岸作業を済ませると直ちに昇橋し、必要に応じて操船等の指示を出す体制で、B指定海難関係人に操舵を行わせながら徐々に水路の中央に進出して港口に向かった。
 14時18分半A受審人は、西条港導灯(前灯)から338度(真方位、以下同じ。)650メートルの地点に達したころ、水路口にあたる灯浮標付近に入航する引船列を認めた。そこで、その進路を避けようとしたとき、手動で操舵にあたっていたB指定海難関係人が右舵を取って針路を東側護岸に近づく350度に定めたことで、同引船列の進路を避ける妥当な操舵法と認めて、その後機関を微速力前進にかけて5ノットの速力で進行した。しかし、前示水路調査が不十分であったので、同針路にしたことで東側護岸から張り出した浅瀬に向かうようになったことに気付かず、操舵中の同人に対して同護岸に寄り過ぎることのないよう早目に水路に沿う針路に戻すなど適切な操舵指示を与えないまま続航し、ようやく同時20分少し前船首を港口に向けたところ、14時20分西条港導灯(前灯)から340度860メートルの地点において、ニューしんこう丸は、水路東側護岸から張り出した浅瀬に乗り揚げて運航が阻害された。
 当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 運航阻害の結果、ニューしんこう丸は、満潮を待って引船の来援を得て離礁し、乗揚から約9時間後に運航が再開された。 

(原因)
 本件運航阻害は、愛媛県西条港において、東西埋立て護岸によって形成された港口付近に水路口を示す灯浮標と港奥に一対の導灯とが設けられた可航幅の狭い水路を出航する際、水路調査が不十分で、入航する引船列の進路を避けようとして東側護岸から張り出した浅瀬に向かって転進したことによって発生したものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、西条港において、港口付近に水路口を示す左右舷の各灯浮標と港奥に一対の導灯とが設けられた可航幅の狭い水路を船主兼機関長に操舵させて出航する場合、水路が水路口に灯浮標や港奥に導灯が設けられしかも同港出入航の経験から港内に浅所の存在することを知っていたのであるから、事前に所持していた港湾資料によって水路の可航幅や針路法などの水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、護岸寄りが浅いだけで浅瀬が出入航に支障となるほど張り出していることはないと思い、所持していた港湾資料によって水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、浅瀬が張り出して水路の可航幅が狭いことに気付かず、折から入航する引船列の進路を避けようとする操舵中の機関長に適切な指示を与えないまま東側護岸寄りに転進し、同護岸から張り出した浅瀬へ乗り揚げて約9時間の運航阻害を招いた。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、船主兼機関長として乗り組み出入航の操舵にあたるなど運航にも直接係わる際、船長に対して出入港する港湾等の水路調査及びその確認を指示することが望ましいが、同調査及び操船等に関する事項が船長の職務であることに徴し、同指示を行わなかったことを原因とするまでもない。





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