(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年4月30日05時22分
七尾港第2区
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート第二春丸 |
全長 |
7.06メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
95キロワット |
回転数 |
毎分5,500 |
3 事実の経過
第二春丸(以下「春丸」という。)は、船体中央部に操舵室を有し、船尾中央に、ホンダ技研工業株式会社が製造したBZBE型と呼称する船外機を備えたFRP製プレジャーボートで、昭和57年1月7日四級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人により、平成12年12月に中古で購入され、専ら日帰りの釣りを目的に年間約45回使用されていた。
船外機は、操舵室後部甲板下に格納された蓄電池を電源としたセルモータによる始動をはじめ、増減速及び停止など一切の操縦を操舵室で行えるようになっており、船体の動揺などで落水した操縦者に危害が及ばないことを主な目的として、危急停止させることが可能な非常停止装置が備えられていた。
操舵室は、後面のみが開放された囲壁で構成され、その中央やや右舷寄りに操縦席、同席前に舵輪、計器、船外機操縦レバー及びコントロールパネルを組み込んだ操縦スタンドがそれぞれ設置され、操縦スタンドの右舷側囲壁に航海灯及び室内灯などの電源スイッチが取り付けられていた。
コントロールパネルには、潤滑油循環及び冷却異常の各表示灯、停止、運転及び始動の3位置を有し通常の発停に使用されるエンジンスイッチ並びに非常停止スイッチが組み込まれており、それらのうち、非常停止スイッチは、ノブを押すことのほか、ノブ下部にクリップを挿入し、同クリップにつながれたコードの端部を操縦者の身体の一部に取り付けておけば、操縦者が落水した場合、同クリップがノブから外れることにより、いずれも同スイッチを導通状態として接地させ、点火プラグへの電力を絶つことによって船外機を危急停止できるものであった。
ところで、船外機は、安全装置のひとつとして、始動する際にプロペラが回転するのを防ぐこと、及び非常停止装置を確実に機能させることを目的として、操縦レバーを中立位置としたうえ、非常停止スイッチのノブにクリップを挿入し、同装置をリセットさせておかなければ始動することができないインターロック機構を有していた。
一方、A受審人は、春丸を購入した当初、船外機を停止する際には、非常停止スイッチを操作することもあったが、ほどなく専らエンジンスイッチを用いる通常の方法に変更していた。
春丸は、航走中の振動やときには操舵室内に雨水や海水を含んだ風を巻き込むことによるものか、平成14年12月に航海灯及び室内灯などの電源スイッチの作動が不確実になったものの、A受審人が同スイッチを何度か操作しているうちに正常な状態に復帰したことから、開放するなどしてその原因が特定されず、非常停止スイッチ等その他の電気設備については、不具合が生じなかったので、その保守点検が行われることなく使用が続けられていた。
A受審人は、春丸に船長として単独で乗り組み、船首0.35メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、平成15年4月30日04時50分係留地である七尾港此ノ木(くのぎ)の船溜まり(ふなだまり)を発し、05時10分石川県能登島町日出ヶ島沖合の釣り場に至ったが、風浪が強かったので予定していた釣りを断念し、同時12分同係留地に戻ることとした。
こうして、春丸は、船外機を回転数毎分3,000にかけ、ほぼ船首方からの風を受けて船底が波に叩かれる状況のもと、7.3ノットの対地速力で航行していたところ、非常停止スイッチが導通状態となったまま復帰しなくなり、05時22分能登島灯台から真方位207度1,350メートルの地点において、非常停止装置が作動し、船外機が停止したうえ再始動が不能となった。
当時、天候は雨で風力6の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
その結果、春丸は、風潮流に圧流されて七尾市三室町福浦の砂浜に乗り揚げたが、船体及び機関に損傷はなく、のちに行われた点検において作動が不確実であることが判明した非常停止スイッチが新替えされた。
(原因)
本件運航阻害は、七尾港第2区を係留地に向け航行中、船外機の非常停止スイッチが誤作動したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。