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平成15年那審第29号
件名

遊漁船仁幸丸遊泳者負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年12月18日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(上原 直、坂爪 靖、小須田 敏)

理事官
浜本 宏

受審人
A 職名:仁幸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:遊泳者 

損害
遊泳者が左臀部、背部等に全治3週間の裂傷

原因
主機を始動させる際の船体周辺の安全確認不十分

主文

 本件遊泳者負傷は、半クラッチ状態で主機を始動させる際、船体周辺の安全確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月9日13時45分
 沖縄県西表島西岸沖
 
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船仁幸丸
総トン数 0.9トン
全長 7.92メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 36キロワット

3 事実の経過
 仁幸丸は、和船型のFRP製小型遊漁兼用船で、昭和49年12月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、最大搭載人員10人のところB指定海難関係人ほか9人の客を乗せ、魚釣りと遊泳の目的で、船首0.15メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、平成14年8月9日09時00分沖縄県西表島祖納港を発し、同島船浮港内のノコギリダイの釣りポイントに寄ったが、釣れなかったので、12時10分同島西岸崎山湾にあたる船浮港灯台から真方位220度2.3海里の地点に至って船尾から錨を入れ、船尾端左舷側に錨索を止めて停泊した。
 ところで、仁幸丸は、船体中央部の操舵室から船尾にかけて手すりと屋根を設け、操舵室から船首にかけての前部デッキは、船横方向に木製の長椅子を2列設け、船体左舷中央部外側に取外し式梯子(はしご)を備え、推進装置として船尾端中央に船内外機(以下「主機」という。)を装備し、直径36センチメートル(以下「センチ」という。)の3翼一体型プロペラの中心が、海面下70センチの位置にあるようになっていた。
 また、主機は、操舵室の操縦レバーを中立の位置にして、操縦レバーの支点のところにあるフリースロットルボタンを押しながら始動キーを回し、アイドリング回転になる構造となっていたものの、長年の使用によりフリースロットルボタン付近のリンク機構に遊びが大きく生じたためか、同ボタンを押さなくても主機を回せ、クラッチも半クラッチ状態になり、プロペラが回転する状態になっていた。
 A受審人は、前示錨泊場所において、10人の客に魚釣りや遊泳などをさせる一方、13時ごろから遊泳者らと一緒に潜り、ノコギリダイなどの生息場所に案内するなどしていたところ、魚が少ない状況となったので、別の場所に移動することとし、左舷中央部の梯子から船内に戻った。
 A受審人は、錨泊するとき、操縦レバーを中立にして主機を停止したため、フリースロットルボタンを押さないで主機を始動すると、プロペラが半クラッチ状態のままで回転し、前進を始めるとともに、左舷船尾方に張った錨索により左舷前方に移動するおそれがあったが、船尾方に錨を入れているためさほど移動することはないものと思い、船上から周囲を一瞥(いちべつ)しただけで、船体周辺の安全を十分に確認することなく、13時45分少し前主機を始動した。
 このため、仁幸丸は、プロペラが回転するとともに、左舷斜め後方にあった錨を支点に左斜め前方にゆっくりと前進し、その船尾が同船の左舷中央部舷側付近で遊泳していたB指定海難関係人に著しく接近して、13時45分前示の錨泊地点において、プロペラが同人に接触した。
 当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、潮候は低潮時にあたり、海上は穏やかであった。
 また、B指定海難関係人は、大学の旅行同好会に所属し、平成14年8月1日にその会員と共に西表島に来ていて、魚釣りや遊泳のために乗船していたもので、前示の錨泊地点においてセパレートの水着にシュノーケルと水中眼鏡を装着して何回か遊泳したのち、再度仁幸丸の周囲を遊泳することにし、同月9日13時40分ごろ友人と2人で左舷中央部の梯子を伝って海中に入り、海中に入ってからは別々に行動していて、1人で船首側から右舷の船体中央部付近まで泳ぎ、そして、また船首側を周り左舷中央部の梯子近くに来た頃、機関始動の音が聞こえると同時に、船体が前進しながら急速に迫ってくるのを認め、危ないと思い泳いで逃げようとしたが及ばず、錨索に足を取られるなどしてもがくうち、前示のとおりプロペラに接触した。
 A受審人は、主機始動直後、プロペラが何かに絡まったように停止したため、すぐに船尾のプロペラ付近を見たところ、B指定海難関係人が船体の左舷斜め後方に延びていた錨索を、右手で掴んで水中でもがいているのを認め、男性客と共に海中に飛び込み助けようとしたが、B指定海難関係人の水着がプロペラに絡まり外れなかったので、一旦船に上がり、同人が呼吸できるようにアウトドライブをチルトアップしてから、包丁を持って水中に戻り、絡まった水着を切り離すなどして救助して西表島白浜港に入り、その後沖縄県立八重山病院附属西表西部診療所の手配したヘリコプターで沖縄県立八重山病院に搬送した。
 その結果、B指定海難関係人は、左臀部、背部及び肛門などに全治3週間の裂傷を負った。 

(原因)
 本件遊泳者負傷は、沖縄県西表島西岸にある崎山湾において、左舷斜め後方に錨を入れたまま、半クラッチ状態で主機を始動させる際、船体周辺の安全確認が不十分で、プロペラが遊泳者に接触したことによって発生したものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、沖縄県西表島西岸にある崎山湾において、左舷斜め後方に錨を入れたまま、半クラッチ状態で主機を始動させる場合、船体が左舷前方に移動するおそれがあったから、プロペラが船体周辺にいる遊泳者に接触することがないよう、船体周辺の安全確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、船尾方に錨を入れているためさほど移動することはないものと思い、船上から周囲を一瞥しただけで、船体周辺の安全確認を十分に行わなかった職務上の過失により、半クラッチ状態で主機を始動させ、船体が左舷前方に向け移動するとともに、その船尾が左舷中央部舷側付近にいた遊泳者に著しく接近し、プロペラが同遊泳者に接触し、左臀部、背部及び肛門などに全治3週間の裂傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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