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平成14年広審第130号
件名

プレジャーボートシームIV遊泳者負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年11月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一、高橋昭雄、西林 眞)

理事官
村松雅史

受審人
A 職名:シームIV船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
シームIV・・・損傷ない
遊泳者が右足挫滅創、右趾切断等の負傷

原因
見張り不十分

主文

 本件遊泳者負傷は、見張り不十分で、海面上に浮遊していたウェイクボーダーを避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月16日10時11分
 愛媛県今治市桜井海岸沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートシームIV
全長 9.5メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 169キロワット

3 事実の経過
 シームIVは、ほぼ船体中央部に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、操舵室後面入口ドアの右舷側船尾甲板に舵輪及び機関操作レバーを備えた遠隔操縦装置を装備し、愛媛県今治市桜井海岸から約20メートル沖合に船首を沖に向けて船首尾の両錨で係留されていた。
 平成14年8月16日10時05分A受審人(平成10年6月一級小型船舶操縦士免許取得)は、友人3人を伴い桜井海岸沖合の愛媛県平市島周辺をクルージングする目的で、手漕ぎのゴムボートでウェイクボードが行われている様子を見ながらシームIVに乗船して揚錨を開始した。
 揚錨ののち、10時10分少し過ぎA受審人は、船首0.8メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、揚錨中に沖合をいちべつして右舷船首方に右方を向いたモーターボートを視認したことから、同ボートの方向を避けて左舷船首方に見える漁業用ブイの東側に向けることとし、愛媛県越智郡笠松山三角点から061度(真方位、以下同じ。)2,590メートルの地点を、針路を037度に定め、遠隔操縦装置で機関を極微速力前進にかけて発進し、徐々に増速しながら手動操舵により進行した。
 ところで、シームIVは、速力が5ノットを超えると船首が浮上し始め、15ノットでは船首浮上が最大となり、船尾甲板の遠隔操縦装置で立って操舵にあたると正船首方の各舷約15度の範囲に死角を生じる状態であった。
 10時10分半A受審人は、シームIVの速力がすぐに5.0ノットを超えて船首死角が生じた状況のもとで、正船首方120メートルのところに、あやぴ丸にえい航されて滑走中に転倒し海面上に浮遊していたウェイクボーダーBを視認することができ、同人と接触のおそれがある態勢で接近する状況であったが、他船のいない方向に向けて発進したことで前路に障害となるものはないものと思い、右舷側から身を乗り出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、引き続き増速しながら続航した。
 こうして、A受審人は、10時11分少し前右舷船首60度約50メートルのところに停船しているあやぴ丸の白い船体を視認したものの、依然として船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、正船首方でBウェイクボーダーが浮遊していることに気付かず、同人に向首したまま進行し、10時11分笠松山三角点から060度2,740メートルの地点において、シームIVは、原針路のまま12.0ノットの速力になったとき、その船首がBウェイクボーダーに接触した。
 当時、天候は晴で風はなく、視界は良好で、潮候は下げ潮の末期にあたり海面は平穏であった。
 また、Bウェイクボーダーは、同日08時30分ごろ桜井海岸で、あやぴ丸の船長で船舶所有者でもあるCが既に友人2人とウェイクボードを行っていた船外機を装備し登録長5.7メートルの同船に乗船し、C船長及び友人2人と順番に交替してウェイクボードを行った。
 ところで、ウェイクボードは、救命胴衣を着用したウェイクボーダーがボードと呼ばれる楕円形の板に取り付けられたゴム製のブーツに素足を入れて固定し、一端をモーターボートに繋いで延出された約20メートルのスキーロープの他端にあるハンドルを握り、モーターボートにえい航されて水面上を滑走し、滑走と転倒を繰り返す水上スキーの一種であった。そして、滑走中に転倒したウェイクボーダーは、モーターボートが戻ってスキーロープのハンドルを自分の側に寄せてくれるのを待つ間、横向きとなったボードの約半分及び自身の両肩から頭部を海面上に露出した状態で浮遊して海面下に沈むことはなかった。
 10時09分わずか過ぎBウェイクボーダーは、ボードと救命胴衣を着用してC船長の操船するあやぴ丸にえい航されて2回目の滑走を開始し、速力約28キロメートル毎時で滑走していたところ、同時09分少し過ぎ前示接触地点で転倒し、海面上で浮遊状態となった。
 C船長は、バックミラーでBウェイクボーダーの転倒を認め、右旋回でUターンし、10時10分少し過ぎ同人の東側約10メートル付近を通過したのち、Bウェイクボーダーに再度ウェイクボードを行わせるため再度右旋回でUターンした。その時、左舷船首方約60メートルのところに前路を右方に横切る態勢で増速しながら航行するシームIVを視認し、同船と自船との衝突の危険を感じて、同時11分少し前シームIVとの距離が約50メートルの地点で停船したところ、同船が更に増速しながらBウェイクボーダーに向かって進行していることに気付き、有効な音響による信号を行う手段を所持していなかったこともあって大声で叫んで危険を知らせた。
 一方、Bウェイクボーダーは、ウェイクボードを再開するため、桜井海岸の方向にボードを向けてあやぴ丸の接近を待っていたところ、10時11分少し前ボードの左約40度方向に停船している同船を視認し、ほぼ同時に同海岸の方向から船首を浮上させた状態で自分に向首して接近するシームIVを視認したがどうすることもできず、前示のとおり接触した。
 C船長は、直ちに接触地点に赴いてBウェイクボーダーを救助し、携帯電話で連絡した救急車に同人を引き渡した。
 その結果、シームIVに損傷はなかったが、Bウェイクボーダーが、右足背部挫滅創、右第2趾・第5趾切断及び右アキレス腱損傷を負った。

(主張に対する判断)
 補佐人は、「あやぴ丸が、ウェイクボーダーを救助する行動をとっていないこと、シームIVに気付くのが遅いこと及び同船に対して注意喚起行動をとっていないことなどウェイクボーダーの安全に対する注意義務を怠ったことも本件発生の原因である。」旨を主張するので、この点について検討する。
 シームIVが発進してから本件発生までの時間は、シームIV及びあやぴ丸の各実況見分調書抜粋写により45秒であり、また、あやぴ丸は、シームIVが発進したとき、浮遊していたBウェイクボーダーの東側約10メートル付近を通過していたことから、その際同人が負傷していないことを確認したうえで、再度ウェイクボードを行わせようと操船していたものであったと認める。
 仮にあやぴ丸が、シームIV発進後の短時間のうちに同船を認め、その動静を監視してBウェイクボーダーに向かって進行していることに気付き、Uターンしてその浮遊地点に戻ったとしても同人を救助することは時間的に間に合わなかったと認める。
 一方、A受審人は、自らのウェイクボードの経験から、浮遊したウェイクボーダーの至近にはえい航していたモーターボートが必ず存在するものと考えていたことを考慮すると、仮にあやぴ丸が有効な音響信号の手段を所持し、シームIVと衝突のおそれがない同船の進路から離れた地点で、大声で叫ぶ代わりに注意喚起のための音響信号を発したとしても、A受審人がその信号を聞いて自船の前路で浮遊中のウェイクボーダーに気付くことは困難であったと認める。
 よって、あやぴ丸がウェイクボーダーの安全に対する注意義務を怠った旨の補佐人の主張を採ることはできない。  

(原因)
 本件遊泳者負傷は、桜井海岸沖合において、クルージングのため平市島に向け北上する際、見張り不十分で、滑走中に転倒し海面上に浮遊していたウェイクボーダーを避けなかったことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、桜井海岸沖合において、モーターボートにえい航されてウェイクボードを行っている水域を経てクルージングのため平市島に向け北上する場合、増速に伴い船首が浮上して船首方に死角を生じる状態であったから、前路で滑走中に転倒し浮遊していたウェイクボーダーを見落とすことのないよう、右舷側から身を乗り出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、他船のいない方向に向けて発進したことで前路に障害となるものはないものと思い、右舷側から身を乗り出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で浮遊していたウェイクボーダーに気付かず、同人を避けないまま進行して接触を招き、ウェイクボーダーに右足背部挫滅創、右第2趾・第5趾切断及び右アキレス腱損傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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