(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年12月10日07時50分
石川県下佐々波漁港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第六佐々波丸 |
漁船第25豊漁丸 |
総トン数 |
16トン |
15トン |
登録長 |
18.82メートル |
22.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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漁船法馬力数 |
120 |
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船種船名 |
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漁船第二十六豊漁丸 |
総トン数 |
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10トン |
登録長 |
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18.00メートル |
船種船名 |
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漁船第二十七豊漁丸 |
総トン数 |
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10トン |
登録長 |
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18.00メートル |
3 事実の経過
(1)第六佐々波丸
第六佐々波丸(以下「佐々波丸」という。)は、昭和63年11月に進水した、定置漁業に従事する平甲板型のFRP製運搬船兼引船で、甲板上後部に操舵室が配置され、その後方は船尾甲板となっており、甲板の周囲が高さ22センチメートル(以下「センチ」という。)のブルワークで囲われていた。
船尾甲板は、長さ3.7ないし3.8メートル幅5.25メートルで、同甲板後端から2.95メートル前方の船体中心線の少し右舷寄りに、一辺の長さ21センチ高さ1.05メートルの柱状曳航(えいこう)用ビットが設置され、同甲板左舷側に長さ1.13メートル幅44センチ高さ43センチの木製収納箱が置かれていた。
(2)操業形態
佐々波丸の従事する定置漁業は、平素、運搬船兼引船2隻、非自航のFRP製網起こし船(以下「起こし船」という。)3隻及び伝馬船2隻で船団を構成し、下佐々波漁港東方2ないし3キロメートル沖合に3ケ統設置された定置網において、早朝出漁して昼ごろ帰港する形態で、周年操業が行われていた。
(3)船団の運航形態
漁港と定置網の間の運航形態は、漁ろう長の指示のもと、2隻の運搬船兼引船により3隻の起こし船を適宜分担して直列に曳航し、その際の連結方法は、各起こし船に備えられた長さ約100メートル太さ32ミリメートル(以下「ミリ」という。)のダンラインロープと称する合成繊維製曳航索(以下「曳索」という。)の先端に設けられたアイを、順に前船船尾の曳航用ビット(以下「船尾ビット」という。)に掛け、他方を自船の船首ビットに数回まわし掛けしたうえ、キャプスタンにヒッチを掛けて係止していた。そして、各船間の曳索の長さは、出入港時においては、狭隘(きょうあい)な港内での操船を容易にするため、24ないし30メートルとし、港外においては75メートルに延出していた。
(4)受審人A
A受審人は、平成11年9月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し、同12年4月から佐々波丸の船長として乗り組み、出漁及び帰港時に1ないし3隻の起こし船を曳航する際、平素、乗組員に対し、曳索を掛けた船尾ビットのまわりに立ち入らないよう注意を与えていた。
(5)本件発生に至る経緯
佐々波丸は、A受審人及び乗組員Yほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、船首0.4メートル船尾0.25メートルとなった第25豊漁丸(以下「25号」という。)及び船首0.33メートル船尾0.22メートルとなった第二十七豊漁丸(以下「二十七号」という。)を引き、僚船に引かれて船首0.33メートル船尾0.22メートルとなった第二十六豊漁丸(以下「二十六号」という。)などと船団を組み、平成14年12月10日04時30分下佐々波漁港を発し、約2キロメートル沖合の定置網に至って操業に従事したのち、漁獲物積み込み時の手伝いのため、移乗した僚船乗組員H及び同Sほか2人を上乗りさせ、25号、二十六号及び二十七号を順に引き、各船間長さ75メートルで全長約300メートルの引船列を構成し、07時30分ごろ定置網を発し、折からの荒天模様のなか帰途についた。
佐々波丸は、手動操舵により西行後、針路を下佐々波漁港港口付近に設置された小型定置網の東端に向く約235度(真方位、以下同じ。)として、機関を半速力前進の回転数毎分1,600にかけ、3.5ノットの曳航速力とし、右舷正横方向からの強い風浪と船尾方向からのうねりを受け、大きく動揺しながら進行した。
07時44分A受審人は、下佐々波港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から095度270メートルの地点に至り、船首を風上に立てて行きあしを止め、各船間の曳索を短縮させ、3隻の起こし船から手信号による縮索完了の合図を待った。
07時48分A受審人は、北防波堤灯台から097度280メートルの地点において、再び発進しようとしたとき、船尾甲板にY、H及びS乗組員ほか数名が腰を下ろしていることを知り、また港口付近に三角波などの高起した波浪を認めたが、以前より曳索を掛けた船尾ビットのまわりに立ち入らないよう注意を与えていたので、改めて注意するまでもないものと思い、同甲板の乗組員を操舵室に移動させるなど、安全措置を十分にとることなく、同甲板に乗組員を乗せたまま発進した。
こうして、佐々波丸は、針路を下佐々波漁港南東端に向く262度に定め、機関を徐々に増速して回転数毎分1,600にかけ、3.5ノットの曳航速力とし、右舷船首方向からの風浪と船尾方向からのうねりを受けて更に大きく動揺しながら続航中、07時50分下佐々波港北防波堤灯台から133度100メートルの地点において、船体動揺と増速時に生じた過大な引張り力により、曳索が25号船首ビット付根部で切断して跳ね、佐々波丸船尾甲板の収納箱に舷外を向いて腰掛け、カッパ、救命胴衣及び帽子を着用していたY、H及びS乗組員の顔面を強打した。
当時、天候は曇で風力5の北西風が吹き、10日05時35分金沢地方気象台から雷、強風波浪注意報が発表され、付近海上には波高約2メートルの波浪があった。
A受審人は、乗組員の叫び声で事故発生を知り、会社に連絡して救急車を要請するとともに独航で下佐々波漁港へ入港した。
その結果、Y乗組員は約1箇月の入院加療を要する左眼球破裂を、H乗組員は約3週間の加療を要する頬骨弓骨折を、S乗組員は約1週間の加療を要する顔面及び左上眼瞼挫創をそれぞれ負った。
(原因)
本件乗組員負傷は、石川県下佐々波漁港沖合において、海上荒天時に3隻の非自航船を曳航中、入港操船に備えて各船間の曳索を短縮して航行する際、乗組員に対する安全措置が不十分で、船尾甲板に乗組員を乗せたまま続航し、船体動揺と増速時に生じた過大な引張り力により切断した曳索が跳ねて乗組員の顔面を強打したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、石川県下佐々波漁港沖合において、海上荒天時に3隻の非自航船を曳航中、入港操船に備えて各船間の曳索を短縮して航行する場合、港口付近に高起した波浪が認められ、船体動揺が激しくなり、曳索に過大な引張り力が作用して切断するおそれがあったから、船尾甲板の乗組員を操舵室に移動させるなど、安全措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、以前より曳索を掛けた船尾ビットのまわりに立ち入らないよう注意を与えていたので、改めて注意するまでもないものと思い、安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により、船尾甲板に乗組員を乗せたまま続航し、船体動揺と増速時に生じた過大な引張り力により切断した曳索が跳ねて乗組員3人の顔面を強打する事態を招き、眼球破裂、頬骨弓骨折及び顔面挫創などをそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。