(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月6日13時30分
宮城県鳴瀬町野蒜海岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
水上オートバイサイトウ |
全長 |
2.86メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
89キロワット |
3 事実の経過
サイトウ(以下、「サ号」という。)は、最大搭載人員2人、跨乗式座席を装備したウォータージェット推進のFRP製水上オートバイで、操縦ハンドルにより船尾のジェットノズルの噴射方向を左右に変えて旋回し、同ハンドルグリップのスロットルレバーの握りの強弱によって速力を制御するようになっていた。
A受審人は、人材派遣会社に所属する社員で、平成9年4月に四級小型船舶操縦士免許を取得し、同10年6月サ号を購入して石巻湾等で使用していたところ、同15年8月6日派遣先の会社の社員等とともに宮城県鳴瀬町野蒜海岸においてバーベキューパーティーに併せて遊走することとなり、自宅に保管していたサ号を台車に載せ同海岸南端付近の同パーティー会場まで搬送した。
A受審人は、バーベキューパーティーが始まる前に単独で乗船して10分ほど試走し、12時ころから同パーティーに興じたが、飲酒はせず、その後遊走するため、後部座席に友人1人を乗せ、両人とも救命胴衣を着用し、喫水不詳のまま、13時20分鳴瀬町の大高森106メートル山頂(以下、「大高森山頂」という。)から017度(真方位、以下同じ。)1,760メートルの地点を発して沖合に向かった。
A受審人は、しばらく遊走したのち、かねてからバーベキューパーティーの仲間と約束していた、チューブと称する水上遊具を曳航するため、海岸に戻ることとし、13時27分少し前大高森山頂から045度2,440メートルのところから引き返した。
ところで、チューブは、一辺が約1.5メートルの三角形のゴム製膨張式浮体で、その一隅に曳航ロープを係止する突起があり、3人が座って乗ることができ、水上オートバイ等で引かれるものであった。
A受審人は、時速20キロメートルの対地速力で南西方に進行中、13時30分少し前約100メートル前方に、2人が乗り、曳航用の突起のある先端を北に向けて浮いているチューブを認め、同突起と反対の方向からチューブを付け回して接舷することとしたが、大幅に減速して安全な速力で航行することなく続航し、このころ接舷する側でチューブに遊泳者Kが掴まって海中に浮いていたのを認めることができないまま接近した。
13時30分わずか前A受審人は、チューブを右方に約4メートル離して右旋回し、船首を突起に向けたとき、初めてK遊泳者を認め、急いで操縦ハンドルを左に操作したが、併せてスロットルレバーの握りを緩めたので推力をほぼ失って回頭しないまま、13時30分大高森山頂から023度1,720メートルの地点において、北東を向首したサ号の船首が、ほぼ原速力のまま同遊泳者に接触した。
当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
その結果、サ号に損傷はなかったが、K遊泳者は頸椎捻挫及び頭部に全治10日間の裂創を負った。
(原因)
本件遊泳者負傷は、宮城県鳴瀬町野蒜海岸沖合において、人が乗った水上遊具を曳航するためこれに接舷するにあたり、大幅に減速して安全な速力で航行せず、同遊具の接舷する側に回り込み、その傍にいた遊泳者を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、宮城県鳴瀬町野蒜海岸沖合において、人が乗った水上遊具を曳航するためこれに接舷する目的で接近する場合、大幅に減速して安全な速力で航行すべき注意義務があった。しかるに同人は、安全な速力で航行しなかった職務上の過失により、時速20キロメートルの過大な速力のまま同遊具の接舷する側に回り込み、その傍にいた遊泳者との接触を招き、同遊泳者に頸椎捻挫及び頭部に全治10日間の裂創を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。