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平成15年広審第69号
件名

漁船第八吉丸乗組員死傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年10月29日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西田克史、供田仁男、西林 眞)

理事官
村松雅史

受審人
A 職名:第八吉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
甲板員1名が行方不明後死亡認定、他の甲板員1名が頚部捻挫、顔面打撲等の負傷

原因
荒天操船法不適切

主文

 本件乗組員死傷は、荒天操船法が不適切で、漂ちゅうしようとしてパラシュート型シーアンカーを投入作業中の乗組員が海中に転落したことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月13日13時40分
 隠岐諸島北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八吉丸
総トン数 19トン
全長 26.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 558キロワット

3 事実の経過
 第八吉丸(以下「吉丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事する、船体中央部に操舵室が設けられた一層甲板型軽合金製漁船で、A受審人(平成2年5月一級小型船舶操縦士免許取得)、甲板員B及び同Cほか1人が乗り組み、日本海で操業する目的で、船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成14年11月12日22時40分境港を発し、隠岐諸島北方沖合約100海里の漁場に向かった。
 ところで、吉丸は、船首両舷のブルワーク上には受けローラと呼ばれるローラが船横方向に各1個据え付けられ、右舷側受けローラから船尾方に幅70センチメートル長さ1.77メートルのパラシュート型シーアンカー(以下「シーアンカー」という。)の置き台が備えられていたうえ、同台後方の両舷側甲板上にはシーアンカー用のロープリールが各1台装備されていた。
 また、シーアンカーは、直径36ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ200メートルの合成繊維製アンカーロープの先端に撚り戻しを介して直径7ミリ長さ50メートルの38本の張索及び直径24メートル長さ12メートルの合成繊維製パラシュートが取り付けてあったうえ、直径26ミリ長さ200メートルの合成繊維製樽綱の先端に直径1メートルの樽が取り付けてあり、樽には約40キログラムの重りを結んだ連結索を取り付け、連結索とパラシュートの頂部とが更にロープで結ばれていて、それらの収納は、置き台に張索とパラシュートとがもつれないように折り畳んでその上に重りを載せ、樽を置き台の後ろ側に納め、樽綱を右舷側ロープリールに、アンカーロープを左舷側ロープリールにそれぞれ巻き取っていた。
 ところで、シーアンカーの投入作業は、A受審人が操舵室で操船と作業指揮にあたり、置き台の左右両側に甲板員各1人及び同台の後ろ側に甲板員1人を配し、船首を風に立ててその方向を保持しながらパラシュートの投入が完了するまで機関を微速力後進に使用するもので、最初に右側の甲板員が樽を海中に投入し、樽が船首方に流れて行ったところで両側の甲板員2人が重りを入れたのち、後ろ側の甲板員も加勢して折り畳まれたパラシュートを投入し、それが展張するとともに左右のロープリールからアンカーロープ及び樽綱がそれぞれの受けローラを経由して延出すれば完了するというものであった。
 A受審人は、昭和49年から99トン型のいか釣船の漁労長の職に就き、操縦免許取得後は19トン型いか釣船に乗り換えて船長兼漁労長として今日に至り、操業を開始する前にはいつもシーアンカーを入れて漂泊した状態で操業していたもので、凪であればアンカーロープを60ないし70メートル出しておき、時化てくれば同ロープを200メートルほど延ばすようにしていた。
 発航したA受審人は、テレビジョンで気象情報を入手し、寒冷前線が日本海を通過したこともあって隠岐地方に強風波浪注意報が発表されていることを知っていたが、当時の天候が風速10メートル程度の西北西風で波高1.5メートルと問題はなく、自らの操船で隠岐諸島西方沖合に向かって北上し、翌13日03時34分三度埼灯台から270度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点で、針路を351度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進の回転数毎分1,300にかけ、12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 08時17分A受審人は、北緯37度を越え、その後風が次第に強まってきて、09時27分西北西風の風速12ないし13メートルとなったところで、機関を回転数毎分1,000に減じて9.0ノットの速力で続航し、12時00分北緯37度38分あたりに達したとき、風速18ないし20メートル波高4メートルばかりの時化模様となったので、更に回転数毎分850に減じ6.0ノットの速力に落として、しばらく北上を試みたものの、西北西方の強風とともに25から30度の激しい横揺れや波の打ち込みを受けるようになり、目的の漁場まで向かうのが厳しいと判断して荒天に対応した操船法をとることとした。
 ところが、A受審人は、シーアンカーを投入して漂ちゅうする操船法をとると、このような荒天下では同アンカー投入作業中の船首方向の船体保持が困難なうえ、パラシュートが風に流されるおそれがあるなど、船首部で作業する乗組員が非常な危険に身をさらす状況であったにもかかわらず、操業するときにいつもシーアンカーを使っているので、乗組員がその投入作業に慣れていて大丈夫と思い、舵効を失わない程度に機関の前進力を使って風浪を斜め船首2ないし3点に受けてその場に止まるという、いわゆるちちゅうによるなど適切な操船法をとることなく、乗組員にシーアンカーの投入作業を命じた。
 こうして、A受審人は、13時35分置き台の右側にC甲板員、左側にB甲板員及び後ろ側に甲板員1人を配置したものの、作業用救命衣や命綱など必要な保護具の使用を指示しないまま、操船と作業指揮にあたり、船首を風に立てて機関を微速力後進にかけシーアンカーの投入作業を続けるうち、C及びB両甲板員がパラシュートを持ち上げて投入しようとしたとき、強風にあおられたパラシュートが風を孕んで右方の風下に流され、13時40分北緯37度46.70分東経132度35.57分の、隠岐諸島の白島埼灯台から339度92.5海里の地点において、C甲板員がパラシュートに押されて右舷側から海中に転落するとともに、右方船外に流出したパラシュートが大きく展張し、左舷側受けローラを通して延出していたアンカーロープが同ローラのところで急激に右方向に屈曲すると同時に強い力がかかって左舷側受けローラがブルワーク据え付け部から外れ、B甲板員が右後方に緊張した同ロープに跳ねられて海中に転落した。
 当時、天候は曇で風力8の西北西風が吹き、波高が4メートルであった。
 A受審人は、樽につかまって浮いていたC甲板員を直ちに救助してシーアンカーを揚収し、14時00分からB甲板員の捜索を始めたものの、17時00分の日没を経ても発見できず、19時30分捜索を打ち切って帰途に就き、翌々14日10時00分境港に戻ってC甲板員を病院に搬送した。
 その結果、C甲板員は、頚部捻挫、顔面打撲等を負い、B甲板員は、行方不明となって6箇月後に死亡が認定された。 

(原因)
 本件乗組員死傷は、隠岐諸島北方沖合の日本海漁場に向けて北上中に荒天となった際、荒天操船法が不適切で、漂ちゅうしようとしてシーアンカーを投入作業中の乗組員が、強風にあおられたパラシュートに押されたり、緊張したアンカーロープに跳ねられたりして海中に転落したことよって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、隠岐諸島北方沖合の日本海漁場に向けて北上中、西北西方の強風と激しい横揺れや波の打ち込みを受けるようになって、荒天に対応した操船法をとる場合、シーアンカーを投入して漂ちゅうする操船法をとると、このような荒天下では同アンカー投入作業中の船首方向の船体保持が困難なうえ、パラシュートが風に流されるおそれがあるなど、船首部で作業する乗組員が非常な危険に身をさらす状況であったから、ちちゅうによるなど適切な操船法をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、操業するときにいつもシーアンカーを使っているので、乗組員がその投入作業に慣れていて大丈夫と思い、ちちゅうによるなど適切な操船法をとらなかった職務上の過失により、漂ちゅうしようとしてシーアンカーを投入作業中の乗組員が、強風にあおられたパラシュートに押されたり、緊張したアンカーロープに跳ねられたりして海中に転落する事態を招き、1人に頚部捻挫及び顔面打撲等を負わせ、他の1人が行方不明となってのち死亡が認定されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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