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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成15年神審第46号
件名

遊漁船しおざい釣客負傷事件(簡易)

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年10月9日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎)

副理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:しおざい船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
釣客が1箇月半の入院加療を要する肋骨及び腰椎骨折の負傷

原因
揚錨機の操作不適切

裁決主文

 本件釣客負傷は、揚錨機の操作が不適切であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年1月5日11時00分
 石川県七尾湾
 
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船しおざい
全長 11.23メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 198キロワット

3 事実の経過
 しおざいは、春から秋にかけては係留場所を石川県金沢港として同港沖で遊漁を行い、冬は係留場所を同県七尾港に移して主として七尾湾で遊漁を行うFRP製遊漁船で、昭和53年8月25日一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、釣客Bの他3人を乗せ、七尾湾で遊漁を行う目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成15年1月5日08時ごろ七尾港係留場所を発し、同港北東方沖合の釣場に向かった。
 A受審人は、08時40分釣場に至って船首から四爪錨を投入し、錨泊して遊漁を開始したが、同じ釣場で船位を微調整するため2度ほど四爪錨を打ち直しながら遊漁を続けた。
 ところで、しおざいの四爪錨は、重量が15キログラム、シャンクの全長が1メートルの鉄製で、底部で四方向に開いた爪部は長さが30センチメートル(以下「センチ」という。)、幅が7センチ、厚さが1センチの形状となっており、同底部に長さ6.5センチ、幅4.5センチ、径2センチのリンクで構成された錨鎖の先端が巻き止められていた。同錨鎖は錨のシャンクに添って伸ばされ、シャンクの頂部の鋼製リングに細索で係止され、同リングから錨鎖の末端までの長さは8メートルとなっていた。錨鎖の末端には縦11センチ横7.5センチの鋼製シャックルと長さ15センチの鋼製縒り戻し(よりもどし)金具が取り付けられ、さらに同金具に太さ1センチ全長200メートルの合成繊維製錨索がつながれていた。
 また、しおざいの船首部には、幅28センチ長さ120センチの木製アンカーベッドが中央やや左舷側で船首尾線に沿って、船首端より若干船首方向にはみ出る形状で取り付けられていた。アンカーベッドの先端には砲金製ローラーがあって、錨索と錨鎖が円滑に出し入れでき、四爪錨を安定して収納できるようになっていた。揚錨機は、アンカーベッド後方端から93センチ後方に設置され、油圧モーターとその左舷側に取り付けられた巻取りドラムで構成され、錨鎖と錨索が同ドラムに巻き取られるようになっていた。揚錨機の操作レバーが、油圧モーター機側と操舵室にそれぞれ1本ずつ設置され、いずれのレバーでも揚錨機の回転方向や巻上げ速度の変更ができた。A受審人は、平素は、四爪錨を揚収する場合は、鋼製シャックルなどが砲金製ローラーに当たって音を出す揚収の最終段階になったとき、一旦揚錨機を止めてから微速で巻き上げるなど、四爪錨が安定してアンカーベッドに収まるように適切に操作していた。
 10時55分A受審人は、能登観音埼灯台から真方位050度4.3海里の地点で、同じ釣場で船位を微調整するため操舵室内の操作レバーを使って、油圧モーターを駆動して四爪錨を揚収し始め、11時00分少し前、鋼製シャックルなどが砲金製ローラーに当たって音を出したが、同人は雪により視界が不良であった周囲の見張りに気を取られ、揚収の最終段階になったことに気が付かないまま揚錨機を適切に操作することなく揚収を続けた。
 11時00分前示地点において、四爪錨がアンカーベッドまで引き揚げられたが、船体動揺等の影響でアンカーベッドに納まらないまま船内に引きずり込まれ、巻取りドラムの上を乗り越えて後転しながら後方に落下し、同ドラムの後方でクーラーボックスに腰掛けていたB釣客の背中に接触した。
 当時、天候は雪で風はほとんどなく、海上には波高約0.8メートルの波があった。
 その結果、B釣客が、1箇月半の入院加療を要する肋骨及び腰椎横突起骨折を負った。 

(原因)
 本件釣客負傷は、石川県七尾湾において、投入していた四爪錨を釣場で船位を微調整するため揚収する際、揚錨機の操作が不適切であったことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、石川県七尾湾において、投入していた四爪錨を釣場で船位を微調整するため揚収する場合、四爪錨が船体動揺等の影響でアンカーベッドに納まらないまま巻取りドラムの上を乗り越えて後転しながら後方に落下しないよう、鋼製シャックルなどが砲金製ローラーに当たって音を出すチェーン部が巻き取られる揚収の最終段階で揚錨機を一旦止めてから微速で巻き上げるなど揚錨機の操作を適切に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、周囲の見張りに気をとられ、揚錨機の操作を適切に行わなかった職務上の過失により、四爪錨が巻取りドラムの上を乗り越えて後転しながら後方に落下して、同ドラムの後方でクーラーボックスに腰掛けていたB釣客の背中に接触し、同人に肋骨骨折等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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